第85話 幕末反乱軍
安土城を出たあと、龍馬は一行を山中の隠れ家へ案内した。
「おまんらに、会わせたい奴らがおる」
「また勝手に増やすんか」
「仲間は多い方がええき!」
「話通してから増やせ!」
龍馬が気にする様子もなく戸を開けた瞬間、中から大きな声が飛んできた。
「龍馬さん!!! 知らない人を勝手に連れてこないでください!!!」
「声デカ!!」
一人の少女が、大股でこちらへ歩いてくる。
「見つかったら全員で生きて逃げます!!!」
「隠れ家の意味ないやろ!」
少女は胸へ手を当て、堂々と名乗った。
「亜衣心絆です!!!」
「……あついこころ?」
「はい!!!」
「そのまんまやんけ!!」
その後ろから、四人の男が現れた。
「桂小五郎です」
「高杉晋作だ」
「西郷隆盛です」
「大久保利通です」
「そこは普通なんやな」
桂が龍馬を睨む。
「なぜ異国の者をここへ連れてきた」
「面白い尼じゃき」
「尼ちゃうわ!」
高杉は警戒したまま刀へ手をかけた。
「何の用だ」
「兵を戦から降ろしに来た」
「は?」
高杉の目が細くなる。
リリアーナは構わず続けた。
「捕らえた兵は殺してへん。家族迎えに帰した。こっちへ来たい奴は家族ごと連れて帰る。飯も仕事も住む場所も作る。支配もせぇへん」
心絆の目が大きく見開かれた。
「死なせないんですか!!! 兵を!!! 家族ごと!!! 生きて帰すんですか!!!」
「せやから声デカ!!」
「志が同じです!!!」
「早っ!」
心絆はさらにリリアーナへ詰め寄った。
「命は燃やしません!!! 心を燃やします!!! でも命は温存です!!!」
「耳元で言うな!!」
「空腹では心は燃えません!!! まず食べてください!!!」
「それは俺も思う」
心絆が固まった。
一拍置いて、さらに大きな声が響く。
「思想が同じです!!!」
「さっきも聞いた!」
心絆の視線が、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司へ向いた。
「この方!!! 人を死なせない目をしています!!!」
「目でそこまで分かるんか」
「好きです!!!」
「展開早いわ!」
「同志としてです!!!」
「恋愛ちゃうんかい!」
「現場思想です!!!」
「話早いな!」
高杉が小さく笑った。
「身分も関係なく、兵を生かして働かせるのか」
「せや。死に急ぐ奴は止める」
「……気に入った」
「お前も死に急ぐなよ」
高杉の笑みが止まった。
「初対面で見抜くな」
今度は桂が静かに尋ねる。
「逃げてもいいのか」
「逃げて生きろ。生き残ったら、また立て直せる」
桂はしばらくリリアーナを見つめたあと、迷いなく頷いた。
「……組もう」
西郷も大きく頷く。
「兵も民も、すべて救うおつもりですか」
「救える奴は救う」
「よか考えです」
リリアーナは西郷を見上げた。
「でかいな」
「何がですか」
「器が」
大久保は感情を表に出さず、一歩前へ出た。
「住居は」
「作る」
「仕事は」
「振り分ける」
「食料は」
「増やす」
「制度は」
「これから作る」
大久保は短く考えたあと、頷いた。
「……現実的だ。組もう」
龍馬が嬉しそうに笑った。
「ほれ! 全員、仲間じゃ!」
「早すぎるわ!」
「目的が同じじゃき!」
「まあ、それはそうやな」
ミレーヌは黒革手帖を開き、集まった面々を順番に見た。
「清司さん。皆様、志がよく似ています」
「せやな」
「低温の清司さんと、高温の心絆さんです」
「温度で分類すな!」
「死なないでください!!!」
「まだ何もしてへん!」
「先に言っておきます!!!」
「声デカ!!」
その時、桂が机の上へ地図を広げた。
「一つ、気になる動きがある」
「なんや」
「明智光秀が兵を集めている」
リリアーナとミレーヌの顔が止まった。
「どこへ向かう」
「本能寺だ」
部屋が静かになった。
「……本能寺」
ミレーヌは黒革手帖を閉じ、リリアーナを見る。
「あれですね」
「せやな」
龍馬が二人を交互に見た。
「何を知っちゅう」
「明智光秀が信長を討つ」
「は?」
「本能寺が燃える」
「はぁ!?」
「信長が死ぬ」
「死なないでください!!!」
「本人ここにおらん!」
「今から言いに行きます!!!」
「声デカ!!」
高杉が刀を抜いた。
「謀反か。潰すぞ」
「殺すな!」
桂はすぐに地図の一点を指す。
「最短路はこちらだ」
西郷も立ち上がった。
「皆で向かいましょう」
大久保はすでに人数を確認している。
「先回りする者と、本隊を分けます」
龍馬が勢いよく外へ飛び出した。
「船を出すぞ!」
「陸路や!」
龍馬の足が止まった。
「……勢いで海へ出るところじゃった!」
「海好きすぎるねん!」
心絆は拳を高く掲げた。
「全員!!! 死なずに!!! 本能寺へ向かいます!!!」
「大声で謀反止めに行く言うな!!」
リリアーナも立ち上がった。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、すでに戸口へ向かい、刀へ手をかけている。
「本能寺へ行くぞ。明智光秀を止める。信長も死なせへん。誰も殺すなよ!」
「はい!!!」
「声デカ!!」
こうして、出会って間もない幕末反乱軍との最初の共同作戦は、本能寺の変を止めることになった。




