第81話 はじめての海賊船
日本へ向かう船は。
海の上を、まっすぐ進んでいた。
出港して、しばらく。
リリアーナは船内を見回した。
「これ」
「鉄ちゃん組が作った海賊船やんな」
「そうです」
ミレーヌが黒革手帖を開く。
「紅月の海賊ヴァンパイアが使用していた船を基に」
「鉄ちゃん組が改修したものです」
「やっぱりか」
廊下を進む。
まず。
寝室。
壁に固定された寝台が、何段にも並んでいた。
「揺れても落ちにくい構造です」
バルドが説明する。
「人数多くても寝られるな」
「はい」
次。
風呂。
大きな浴槽。
湯を沸かす魔石。
排水用の溝。
「船に風呂まであるんか」
「長期航海を想定しております」
「豪華やな」
次。
厨房。
鍋。
包丁。
保存棚。
水を冷やす魔石。
揺れても皿が飛ばないよう、すべて固定されている。
「厨房も広いな」
「帰りは人数が増えますので」
「飯も大量に作れるようになっています」
リリアーナは辺りを見回した。
寝室。
風呂。
厨房。
仲間たち。
海の上を進む大きな船。
「……待て」
ミレーヌが振り返る。
「どうしました?」
「これ」
「有名漫画と似てるやんけ!!!」
「何のお話ですか?」
「海賊が船で旅して」
「寝室あって」
「風呂あって」
「厨房あって」
「仲間集めて進むやつや!」
「船には、だいたい必要な設備です」
「正論で終わらすな!」
その時。
甲板の方から。
「うっ……」
小さな声が聞こえた。
リリアーナが外へ出る。
船の端。
スギナが手すりへしがみついていた。
いつもの神々しい光はない。
顔色は真っ青。
髪も乱れている。
「大丈夫か」
「星々が……」
「揺れています……」
「船が揺れとんねん!」
「魂も……」
「吐きそうです……」
「魂関係ない!」
スギナが口元を押さえた。
「うっ……」
アネモネが背中をさする。
「下を向かないでください」
「遠くを見て」
「ゆっくり息をしてください」
「私……」
「可愛すぎるキャラなのに……」
「自分で言うな!」
「船酔いで吐くなんて……」
「キャラ崩壊です……」
「今さら何を守っとんねん!」
パードが少し離れた場所から見ていた。
「え、普通に酔ってんじゃん」
「それ言わないでください……」
キルナが水を差し出す。
「飲め」
「ありがとう……」
レイナは回復魔法をかけようと手を上げた。
「私が治しますわ」
「船酔いに全属性出すな!」
スギナは、水を一口飲んだ。
「少し……」
「星が戻ってきました……」
「ただ水飲んだだけや!」
リリアーナは頭を抱えた。
「海賊漫画ちゃう」
「ここは人情派漫画や!!」
少しして。
スギナはアネモネに連れられ、寝室へ向かった。
リリアーナは甲板へ残った。
海。
空。
遠くなる王都。
ミレーヌが、その隣へ立つ。
「清司さん」
「なんや」
「メガネ聖女からいただいた薬ですが」
「使用できるのは、一度きりです」
「分かっとる」
リリアーナは、懐の小瓶へ触れた。
前世の清司へ戻れる薬。
効果は一晩。
十二時になれば、どこにいても姫へ戻る。
「ここぞという時だけにしてください」
「せやな」
「港へ入る時に使う必要はありません」
「商談でも」
「まだ使わん」
「では」
「いつ使いますか?」
リリアーナは海の向こうを見た。
「ここぞって時や」
ミレーヌも前を見る。
「そうですね」
船は進む。
閉ざされた日本へ。
兵士たちの家族を迎えに。
まだ見えない戦国武将勢の本拠地へ。
そして。
たった一度だけ。
清司が、本来の姿へ戻る時を乗せて。
おいたわしいのは、第五章最初の危機が戦国武将勢ではなく、可愛すぎるはずのスギナの船酔いだったことである。




