↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第四章 貧民街現場復帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/72

第65話 真田丸計画


 王宮の小会議室。


 長机の上には、王宮、貴族街、商業区、貧民街、港へ続く街道まで描かれた王都の地図が広げられていた。


 リリアーナは椅子へだらりともたれ、地図に残された空き地を指で叩いた。


「ここやな」


 その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同じ場所を見つめている。


 ミレーヌは黒革手帖を開き、鉄ちゃんは鉛筆を持って地図へ身を乗り出した。バルドが新しい紙を長机へ置く。


 チリン。


「まずは、公園の全体配置から参りましょう」


 定規、鉛筆、地図を測るための細い紐が、必要な順番で机へ並べられた。


「真ん中に公園を作る」


「へい」


 鉄ちゃんが地図へ大きな円を描いた。


「王族も貴族も商人も外交官も、ここへ集める」


「情報交換、商談、外交ですね」


 ミレーヌが黒革手帖へ書き込む。


「野外舞台も置く」


「アイドルの催しに使えます」


「公共スクリーンもや」


「ニュース、天気、災害、避難情報も流せますね」


「知らんかった奴から逃げ遅れる。人が集まる場所で、情報も流す」


 リリアーナが地図を見つめると、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、ゆっくり目を細めた。


「はい」


 鉄ちゃんは迷わず線を引いた。


「広場を真ん中に置きやす。馬車は外で客を降ろして、中は歩けるようにしやしょう」


「商談用の東屋は、舞台から離せ」


「へい。静かな場所へ置きやす」


「売店もいる」


 鉄ちゃんの鉛筆が、広場の周りを走った。


「『パンチ』」


 パンの売店。


「『七七七』」


 餃子、焼売、肉まん、小籠包。


「『氷の翼』」


「ルシアン殿のフローズン店でやすな」


「冷たい菓子と飲み物や」


 ミレーヌが店名を書き並べる。


『パンチ。


 七七七。


 氷の翼。』


「葉巻と煙草の売店も置く」


「東屋の近くへ置きやしょう。商談のあとに一服できやす」


「飲食の売店からは離せ」


「風も見て置きやす」


「公園は喫煙可や」


「灰皿を多めに置きます」


 ミレーヌが書き足す。


「灰皿の近くには、消火用の砂と水も置け。清掃と灰の回収も仕事に入れろ」


「はい」


「吸い殻だらけの公園に、王族も商人も長居せぇへん」


 鉄ちゃんは売店を広場の周りへ分け、一か所へ人が集まりすぎないように道を広く取った。


「それでええ」


 パンを買う者。


 点心を買う者。


 冷たい菓子を食べる者。


 葉巻を吸いながら商談する者。


 野外舞台を見る者。


 公共スクリーンから情報を得る者。


 人と金と情報が、ここへ集まる。


「名前はどうします?」


 ミレーヌが尋ねると、リリアーナは少し考え、紙の中央へ書いた。


『テルリッチ公園』


「伝える場所や。貴族や王族も集まる」


 鉄ちゃんが頷いた。


「分かりやすくて結構でやす」


「清司さんらしいです」


「雑って言うてへんか?」


「言ってません」


 バルドが新しい図面を重ねた。


 チリン。


「続いて、公園の外側でございます」


 今度は、王宮と街道を守るための場所だった。


 鉄ちゃんが鉛筆を構える。


「こっからが真田丸計画でやすな」


「せや」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、公園の外側へ目を移した。


「豪華な石の砦はいらん。現地で取れる土と木を使え」


「土塁と木柵で組みやす」


「壊れたら、その場で直せるようにしろ」


「可動柵も入れやす」


 鉄ちゃんは、すぐに形を作っていった。


 外側に堀。


 その内側に土塁。


 木柵。


 動かせる柵。


 細く曲がった進入路。


「入口は広く見せて、中で狭くしやす」


「敵を一気に入れるな」


「横と上から押さえられるように、足場と見張り台も置きやす」


「見張り台は高くしすぎんな。壊れやすい」


「低いものを何か所かへ分けやす」


「一か所を抜かれても、次で止めろ」


 鉄ちゃんが内側へ二本目の線を引き、さらに三本目を加えた。


「何段にも分けて止めやす」


「全部同じ作りにすんな。敵に読まれる」


「一段目は木柵」


 鉄ちゃんが線を描く。


「二段目は土塁」


 さらに線が増えた。


「三段目は庭と建物を使いやす」


「見た目は綺麗にしろ」


 鉄ちゃんが顔を上げた。


「花壇」


「へい」


「薔薇の柵」


「へい」


「東屋」


「へい」


「噴水」


 鉛筆が止まった。


「姫さん、ずいぶん可愛い砦でやすな」


「砦に見えたら意味ないやろ」


「なるほど」


 鉄ちゃんの鉛筆が、また動き出す。


「普段は庭園。何か起きたら柵を動かす」


「薔薇の柵の内側に木柵を隠しやす。東屋の下には修理材を置き、噴水の水は消火にも使いやしょう」


「売店の火事にも使えるな。池と井戸もいる」


「水場を分けやす」


「飲み水と消火用を混ぜんな」


「へい」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、図面の低い場所へ目を向けた。


 リリアーナも同じ場所を見た。


「ここ、水溜まったら終わりや。雨で道がぬかるんだら、荷車が止まる。怪我人も運べん」


「排水路を先に作りやす」


 鉄ちゃんは地図の低い場所から、外へ水を流す線を引いた。


「建物より先や」


「へい」


 ミレーヌが黒革手帖へ書く。


『堀。


 土塁。


 木柵。


 可動柵。


 見張り台。


 井戸。


 水場。


 排水路。』


 バルドが湿らせた布を差し出すと、鉄ちゃんは黒くなった指を拭いた。


「助かりやす」


 バルドは、周りの街道が細かく描かれた地図を新しく置いた。


 チリン。


「次は、人と物資の流れでございます」


「道を分ける。兵、住民、物資、怪我人。全部同じ道へ入れんな」


 鉄ちゃんは、すぐに線を分けた。


「兵は外側。住民は内側へ避難。物資は裏から入れやす。怪我人は救護所へ最短で運びやす」


「伝令だけが通る細い道も作れ」


「へい」


「退却路は王宮だけに繋ぐな」


 鉄ちゃんは街道、貧民街、港へ線を伸ばした。


「三方向へ抜けられるようにしやす」


「全部は見せるな」


「隠しておきやす」


「逃げ道が一個しかない現場は墓場や」


 部屋が静かになり、ミレーヌのペンだけが動いた。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、王宮から港まで続く道を見つめている。


 王宮。


 公園。


 貧民街。


 工場。


 港。


 すべてが一本ではなく、何本もの道で繋がっていた。


「敵の逃げ道も、完全には塞ぐな」


 鉄ちゃんの鉛筆が、一か所だけ道を残した。


「追い詰めたら、死ぬまで暴れる」


「ここへ流しやす」


「網を張れ。王宮モビーズが捕まえる」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、逃げ道の先へ静かに目を向けた。


「殺すためやない。止めて、捕まえる」


「へい」


 鉄ちゃんは図面全体を見た。


「こいつぁ、ただの砦じゃありやせんな」


「戦う奴だけ置いても回らん。救護、伝令、炊き出し、物資運び、水の管理、避難誘導、見張り、修理。全部いる」


 鉄ちゃんは必要な区画を次々に描いた。


 救護所。


 物資庫。


 炊き出し場所。


 避難所。


 修理材置き場。


 工具置き場。


 交代する者の休憩所。


「物資庫は火元から離せ」


「へい」


「炊き出しの煙は、見張り台へ流すな」


「風を見て二か所に分けやす」


「蓄魔石と魔導設備は、水の入らん場所へ」


「へい」


 ミレーヌが別の頁を開いた。


「能力の配置です」


「式神は水路。レオンは光と警報。ルシアンは冷却と防火。エミールは風と煙。王宮モビーズは網と捕縛。鉄ちゃん組は可動柵と修理や」


「僕、光らせるよ!」


 レオンが地図へ顔を近づけた。


「赤く光ったら敵で、青く光ったら逃げるの! 金色は、ごはんがない時!」


「ごはんだけなん?」


「お水がない時も金色!」


「まとめたなぁ」


「だって、どっちもないと困るもん!」


「優しいアホやな」


 ルシアンは噴水を指さした。


「僕は、火が来たら冷たくするよ! でも、お水まで全部凍らせたら飲めないから、ちょっとだけにする!」


「全部凍らせる可能性あったん?」


「最初は全部の方が強いと思った!」


「危なかったな!」


「でも今は分かったよ!」


「偉い偉い」


 エミールも地図を覗き込んだ。


「僕は煙を飛ばす! でも、敵の方へ飛ばしたら、敵が見えなくなるよね?」


「せやな」


「じゃあ、空へ飛ばす!」


「真上やと戻ってくるで」


「じゃあ、斜め上!」


「可愛い調整やな」


「ちゃんと風に聞くよ!」


「風に聞けるん?」


「たぶん!」


「不安やな!」


 鉄ちゃんは笑いながら、工具置き場を何か所かへ分けた。


「壊れた場所まで、道具を取りに走らせねぇようにしやす」


「それでええ」


 バルドが四つの茶碗を置いた。


 チリン。


「ひとまず、形は整いました」


 茶碗から湯気が上がる。


 リリアーナは茶を一口飲み、もう一度図面を見た。


 テルリッチ公園。


 人が集まる広場。


 野外舞台。


 公共スクリーン。


 東屋。


『パンチ』


『七七七』


『氷の翼』


 葉巻と煙草の売店。


 たくさんの灰皿。


 その外側には、庭園に隠した砦がある。


 花壇。


 薔薇の柵。


 噴水。


 東屋。


 その中に隠された堀、土塁、木柵、避難路、救護所。


「普段は食うて、吸うて、喋る場所や。何かあったら情報を流して、人を逃がす。その外で敵を止める」


 ミレーヌが黒革手帖へ書き込んだ。


『伝える場所が、守る場所にもなる。』


「せや」


 鉄ちゃんは図面を見渡した。


「これなら、壊れてもすぐ直せやす」


「短い時間で作れるか?」


「現場の地形を使えば、いけやす」


「使えん飾りはいらん。薔薇は柵。噴水は水。東屋は見張りと物置。花壇は土。売店は人と金と情報を集める」


 鉄ちゃんが笑った。


「全部、働かせるんでやすな」


「置くだけのもんはいらん」


 その時、小会議室の扉が開いた。


「清司!」


 オヤジが、ふらりと入ってきた。


「どこから湧いてきてん」


 オヤジは図面を覗き込み、中央の公園と、その外側を守る美しい庭園の砦を見た。


「ええやんけ。これ、花田丸やな」


 リリアーナが顔を上げた。


「なんで花やねん」


「この国、やたら花だらけやんけ」


「今までで一番、理由がわけ分からん!」


「決まりや!」


「決めんな!!」


 こうして真田丸計画は、その日から花田丸となった。


 本格的な防御要塞の名前は、オヤジが庭園の花を見ただけで決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
真田丸計画。 ただの城砦かと思ったらめちゃくちゃ実用的で、尚且つ堅固な構えで感心しました。これはちょっと攻め込むのは難しいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。