第64話 「777」
翌日。
王宮の正面には何台もの馬車が並び、貧民街に建てられたラーメン工場へ向かう者たちが、それぞれの馬車へ乗り込んでいた。
リリアーナはミレーヌ、バルドと同じ馬車へ乗った。向かいではミレーヌが黒革手帖を開き、扉の近くにはバルドが静かに控えている。その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、馬車の壁へだらりともたれていた。
別の馬車にはレイナ、メガネ聖女、シャーホムズ、ワトゾン。さらに別の馬車にはキルナとルシアンが乗り、全員がそれぞれの役割を確認しながら、完成間近のラーメン工場へ向かっている。
「清司さん」
ミレーヌが黒革手帖を見たまま呼んだ。
「なんや」
「本日の確認事項です」
「多そうやな」
「醤油ラーメンの試作品、点心四種、工場内の導線、指導員の配置、貧民街から採用した者たちの習熟状況、火力班の交代制、販売可能な商品の選別です」
「やっぱ多いな」
「必要ですので」
チリン。
「到着までに確認いたします」
バルドが静かに告げた。
「馬車の中から、もう進んどるやん」
「移動中ですので」
ミレーヌのペンが動いた。
『ラーメン工場視察。
完成品確認後、販売計画へ移行。』
「販売まで今日決めるん?」
「完成していれば」
「早いな」
「鉄ちゃん組が建てた工場ですので」
「それだけで嫌な予感するわ」
馬車は王都を抜け、貧民街へ続く道を進んだ。
以前は荒れた土地と崩れた家ばかりで、乾いた地面の上には、働く場所も明日の食事も見えなかった。
だが今は、道の脇を多くの者が行き交っている。
資材を運ぶ者。
水路の位置を測る者。
新しい住居の土台を作る者。
仕事を求めて工場へ向かう者。
止まっていた街が、少しずつ動き始めていた。
リリアーナは馬車の窓から、その景色を眺めた。
「ほんまに変わってきたな」
「はい。まだ始まったばかりです」
「せやな」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、窓の外を見ていた。いつもの気だるさは残っているが、働く者たちを見る目だけは少し柔らかかった。
やがて馬車が止まり、扉が開いた。
先に降りたバルドが、リリアーナへ静かに手を差し出す。
「姫様」
「自分で降りられる」
「承知しております」
「ほな手いらんやろ」
「段差がございます」
「……せやな」
リリアーナはバルドの手を借りて、馬車から降りた。
もう普通に歩ける。
だが、まだ走ることはできない。長時間立ち続ければ、体も疲れる。
無理をしないことも、現場を止めないためには必要だった。
別の馬車からレイナたちが降り、少し遅れてキルナとルシアンも姿を見せた。
「でけぇな」
キルナが工場を見上げた。
「昨日、もうすぐできあがる言うとったやろ」
「もうすぐの規模じゃねぇだろ」
「鉄ちゃん組やからな」
「便利な説明だな」
「ほんまにな」
工場の前には、リュウ、ロアン、ロンポウ、ホノヲ、そして王宮モビーズの半数が並んで待っていた。
残り半数のモビーズは王宮本部に残り、別の現場を回している。
ここへ来たモビーズたちは料理を作るためだけではなく、貧民街から集まった者たちへ仕事を教える指導員として配置されていた。
「姫様! お待ちしておりました!」
ロアンが嬉しそうに頭を下げた。
「もうできたん?」
「はい!」
「何が?」
「いろいろです!」
「ざっくりしすぎやろ」
リュウが静かに一歩前へ出た。
「ご覧いただく方が早いでしょう」
「中華四千年の顔しとるな」
「中華四千年ですので」
「もう使いこなしとるな、その言葉」
チリン。
「工場内へご案内いたします」
バルドが静かに扉へ手を向けた。
工場の扉が開いた瞬間、熱い湯気がリリアーナの頬へ当たった。
醤油。
肉。
鶏の出汁。
蒸した小麦。
焼かれた皮。
腹を空かせる匂いが、工場中に満ちている。
「……もう店の匂いやんけ」
中では、すでに多くの者が動いていた。
「手を洗った方から、こちらへ!」
「皮はこの厚さです! 具を入れすぎないでください!」
「蒸し器に触れる時は、必ず布を使ってください!」
「熱いもの、通ります!」
「洗い場はこちらです! 終わった方は次の台へ移ってください!」
王宮モビーズが、貧民街から集まった者たちへ、一つずつ仕事を教えている。
包丁を持たない者。
火を扱わない者。
皮を並べる者。
具材を量る者。
器を洗う者。
材料を運ぶ者。
床を拭く者。
全員に最初の持ち場が与えられていた。
「姫様、入口と出口が分けられていますわ」
レイナが工場全体を見渡した。
シャーホムズも周囲を確認する。
「材料を運ぶ者と、完成品を運ぶ者が交差していません」
ワトゾンがすぐに記録した。
「洗い場、調理場、指導場所、休憩所。すべて別の導線になっています」
メガネ聖女は、働く者たちの顔を見ていた。
「疲労の強い方はいません。休憩も交代で取れています」
その時、一人の女が少しふらついた。
メガネ聖女がすぐに近づく。
「休憩へ入りましょう」
「でも、まだ――」
「無理をする方が現場を止めます」
女は少し迷ったあと、静かに頷いた。
近くにいたモビーズが、すぐにその持ち場へ入る。
「ここは代わります。休んでから戻ってきてください」
「……はい」
リリアーナは、その様子を見て頷いた。
「ええやん。止めへんために休ませる。ちゃんと回っとる」
レイナが微笑んだ。
「姫様が決められた形ですわ」
ミレーヌは黒革手帖へ書き込んだ。
『交代制、正常稼働。』
チリン。
「試食のご用意が整っております」
バルドが静かに告げた。
「もう食えるん?」
「はい」
「昨日決めたとこやぞ」
「中華四千年ですので」
リュウが答えた。
「四千年で全部解決すな」
工場の中央には大きな机が用意され、その上には湯気の立つ器と丸い皿、蒸籠が並べられていた。
焼き目のついた餃子。
白く膨らんだ肉まん。
一口大の焼売。
透けるような薄い皮の小籠包。
リュウが静かに器を示した。
「まずは、醤油ラーメンです」
透き通った茶色のスープの上には、煮豚、ねぎ、海苔、半分に切られた卵、細く切られた竹の子が乗り、つやのある麺が沈んでいる。
「もう完成品の顔しとるやん」
「試作品です」
「これで試作なん?」
「中華四千年ですので」
「またそれかい」
キルナが腕を組んだ。
「こいつら、昨日からずっとやってたからな」
「寝たん?」
「少しは」
「少しかい!」
メガネ聖女が眼鏡を押し上げた。
「徹夜は禁止です。次回から試作時間も管理します」
「もう怒られとるやん」
ホノヲは腕を組んだまま答えた。
「火は止められねぇ」
ルシアンが頬を膨らませた。
「でも、人は休まなきゃだめだよ! 倒れたら火も見られないでしょ!」
「……分かった」
「ルシアンには素直やな」
「こいつは温度が分かるからな」
ルシアンの顔が明るくなる。
「僕、温度分かるよ!」
「認められて嬉しそうやな」
「うん!」
その横では、ロアンが目を輝かせていた。
「姫様! 麺も出汁も香味油も、全部初めてでした! でも、リュウさんに教えていただきました!」
「もう作ったんか」
「はい!」
「吸収早いな!」
リュウが静かに頷いた。
「素直です。知らないことをすぐに聞き、教えたことをその場で試す。よい料理人です」
ロアンの顔が一気に明るくなった。
「ありがとうございます!」
「褒められて嬉しそうやな」
「はい!」
「正直でええな」
バルドがリリアーナの前へ静かに箸を置いた。
「醤油ラーメンからお願いいたします」
「用意ええな」
リリアーナは箸を取り、麺を持ち上げた。
立ち上る湯気と一緒に、醤油と出汁の香りがふわりと広がる。
リリアーナが麺を一口すすった。
誰も喋らない。
もう一口すすり、スープを飲む。
「……うまい」
ロアンの顔が一気に明るくなり、リュウは静かに頭を下げた。
キルナも自分の器を持ち上げ、麺をすすった。
「うめぇな」
「普通に店出せるやんけ」
リリアーナは煮豚を口へ運んだ。
肉は柔らかく、表面には少しだけ焼き目がついている。
「チャーシューもええやん」
「ホノヲが表面を焼き、リュウさんが煮込み、僕がタレを整えました!」
ロアンが嬉しそうに答えた。
「三人で作ったんか」
「はい!」
「ええやん」
次に味のついた卵を口へ運ぶ。
「……味玉」
ミレーヌが、じっと味玉を見ていた。
「食べたいん?」
「はい」
「ずっと言うとったもんな」
「必要ですので」
「私情やろ」
「必要です」
「二回言うた」
バルドが静かに、ミレーヌの前へ別の器を置いた。
「ミレーヌ様の分です」
「ありがとうございます」
「用意されとるやん」
次は餃子だった。
薄い皮には香ばしい焼き目がつき、中には肉と野菜が詰まっている。リリアーナが噛むと、熱い汁が口の中へ広がった。
「うまっ」
「せやろ! 次、肉まん!」
ロンポウが嬉しそうに笑い、白く蒸された肉まんを差し出した。
柔らかな皮の中には、甘辛く味をつけた肉がたっぷり入っている。
「これ、歩きながら食えるな」
「せや! 腹にもたまるで!」
「ええやん」
焼売は一口で食べられる大きさで、肉の味が濃く、蒸した皮は柔らかかった。
「これも出せるな」
「次、小籠包!」
薄い皮の中には熱いスープが入っている。
リリアーナがそのまま口へ運ぼうとすると、ミレーヌがすぐに止めた。
「清司さん」
「なんや」
「熱いです」
「分かっとる」
「先ほど、モビーズが注意していました」
「聞いとった」
「火傷します」
「子どもちゃうぞ」
バルドがリリアーナの前へ静かに小皿を置いた。
「少し冷ましてからお召し上がりください」
「お前ら過保護やな!」
「必要です」
「二人で言うな!」
少し冷ました小籠包をリリアーナが口へ運ぶと、皮を噛んだ瞬間、中のスープが広がった。
「……うまい」
ロンポウが胸を張った。
「包む料理は任せとき!」
「ほんまに任せられるな」
すべて食べ終わったあと、リリアーナは醤油ラーメンの器を見た。
「これはうまい」
ロアンが嬉しそうに頷く。
「では、醤油ラーメンを中心に店舗の準備を――」
「いや」
リリアーナは箸を置いた。
「ラーメンは、まだや」
「まだですか?」
「うまい。店にも出せる。せやけど、醤油だけやない」
リュウの目が動いた。
「ほかにもあるのですか」
「ある」
リリアーナは指を一本立てた。
「塩」
二本目。
「味噌」
三本目。
「豚骨」
工場が静まり返った。
「四種類や」
ロアンが目を輝かせた。
「そんなに!」
「全部出す」
キルナが笑った。
「欲張りだな」
「選べる方がええやろ。その日の気分もある。食う奴に合わせるんや」
リュウは静かに腕を組んだ。
「塩、味噌、豚骨。どのようなスープですか」
「塩は出汁の味をそのまま出す。透明で軽い。ごまかしが利かへん」
ロアンの目が変わった。
「澄んだスープですね」
「せや。鶏でも魚でもいける。これはロアンも中心に入れ」
「はい!」
「洋食の出汁の取り方も使える。リュウから中華を学んで、合わせてみろ」
「やってみます!」
リリアーナは次にホノヲを見た。
「味噌は、野菜と肉を強い火で炒める」
ホノヲの目が動く。
「炒めるのか」
「せや。そこへ濃い味噌のスープを入れる。火力要るで」
ホノヲが少し笑った。
「任せろ」
「今、一番嬉しそうやな」
「火力は裏切らねぇ」
「工場は燃やすなよ」
「燃やさねぇ」
リリアーナは最後の指を立てた。
「豚骨は、豚の骨を長時間炊く」
ホノヲが尋ねる。
「どれくらいだ」
「白くなるまでや」
「白く?」
「骨から出たもんで、スープが濃く白くなる」
リュウが頷いた。
「火力と時間が必要です」
「細い麺が合う」
「承知しました」
「豚骨はリュウとホノヲ。塩はロアンも中心。味噌はホノヲ。醤油も、さらに詰める」
ミレーヌのペンが一気に動いた。
『ラーメン。
醤油。
塩。
味噌。
豚骨。
四種類を開発。』
「具も増やす」
「味玉」
ミレーヌが即座に言った。
「やっぱり一番に出てきたな」
「必要ですので」
「はいはい。チャーシュー、海苔、ねぎ。それとメンマ」
ロンポウが首を傾げた。
「メンマ?」
「竹の子を細く切って、胡麻油で炒めて、出汁と醤油で煮る。ラーメンに乗せるんや」
「麺に入れるから、メンマ?」
「多分ちゃう」
「知らんのかい!」
「名前の由来までは知らん!」
キルナが笑った。
「元若頭にも知らねぇことがあるんだな」
「そらあるわ! あと、豚骨にはきくらげや」
「きくらげ?」
「黒くて、こりこりするやつや。細く切って、胡麻油と醤油で味を入れる」
リュウが頷いた。
「豚骨の濃さによく合いそうです」
「せやろ」
ロアンがすぐに書き留める。
「味玉、チャーシュー、メンマ、きくらげ、海苔、ねぎ。全部試します!」
「話早いやんけ」
チリン。
「ラーメンは試作を継続いたします」
バルドが静かにまとめた。
「醤油もまだ売らんでええ。四種類、ちゃんと並べてから出す」
リュウが静かに頭を下げた。
「承知しました。中華四千年のすべてを尽くしましょう」
「頼むわ」
その時、工場の外から馬車の音が聞こえた。
「また誰か来たん?」
キルナが窓を見る。
馬車は工場の正面で止まり、開いた扉から国王が降りてきた。その背後には、どっしりと腕を組む前世のオヤジもいる。
「清司!」
「来ると思ったわ!」
「できたんやろ!」
「ラーメンはまだや!」
「匂いしとるやんけ!」
「試作品や!」
「試作品でも食えるやろ!」
「食う気満々やん!」
オヤジはすでに工場の中へ入り、机の上に残っていた餃子、肉まん、焼売、小籠包へまっすぐ向かった。
「これ何や」
「肉まんや」
「食うてええか」
「もう取っとるやんけ!」
オヤジは蒸したての肉まんへ大きくかじりついた。
「……うまい!」
「せやろ!」
ロンポウが嬉しそうに笑った。
オヤジは続けて餃子、焼売、小籠包も順番に食べていく。
「全部うまいやんけ! ラーメンより先に、こっち売ったらええ!」
リリアーナの目が動いた。
「……それやな」
ロンポウも身を乗り出す。
「出店か!」
「せや。店で座って食うんちゃう。街角で買う。持って帰る。歩きながら食う。腹減った時に、すぐ買える」
キルナが頷いた。
「肉まんは持ち歩けるしな」
「焼売と小籠包は箱に入れて持ち帰らせる。餃子も売れる」
「ええやん」
ミレーヌのペンが走った。
『点心売店。
餃子。
肉まん。
焼売。
小籠包。
先行販売。』
「店の名前は?」
ミレーヌが尋ねた。
「名前なぁ」
リリアーナが考えている横で、オヤジが二つ目の肉まんを取った。
「七七七や!」
「なんでやねん!」
工場中が静まり返った。
オヤジは肉まんを掲げた。
「食べたら、確変入る気分になるやろ」
「ならんわ!!」
「腹いっぱいなったら当たりや!」
「意味変わっとるやんけ!」
「覚えやすいやろ」
「賭場の景気で決めるな!」
ロンポウが声を上げて笑った。
「ええやん! 七七七!」
「お前も乗るんか!」
キルナも、にやりと笑った。
「景気は良さそうだな」
「せやろ!」
「オヤジ嬉しそうやな!」
ミレーヌのペンが動いた。
『点心売店。
店名、七七七。』
「記録すな!」
「国王陛下のご提案ですので」
「提案やなく、思いつきや!」
チリン。
「点心売店『七七七』。こちらで進めます」
バルドが静かに告げた。
「進めるんかい!」
「覚えやすい名称です」
「お前まで乗るな!」
オヤジは三つ目の焼売を口へ入れた。
「食うたら運も腹も満タンや!」
「急に宣伝文句まで作るな!」
だが、ロンポウはもう完全に気に入っていた。
「七七七! 腹いっぱい食える店にしたるわ!」
「お前が言うたら、ちょっとええ名前に聞こえるな」
「決まりやな!」
「決まってもうた……」
リリアーナは工場で働く者たちを見た。
まだ仕事を教わっている者。
皮を伸ばしている者。
具を包んでいる者。
洗い場で器を磨いている者。
作る仕事だけではなく、売る仕事も新しく生まれる。
「店員は、貧民街の奴らを中心にアルバイトで採用する」
王宮モビーズたちが一斉に顔を上げた。
「調理ができん奴でもええ。注文を聞く。商品を包む。渡す。金を受け取る。掃除する。在庫を見る。できる仕事から入ってもらう」
レイナが工場内を見渡した。
「姫様、接客班と調理班を分けましょう。立ち仕事が難しい方には、会計や包装を担当していただけますわ」
メガネ聖女も続けた。
「勤務時間は体調に合わせます。最初から長時間働かせないようにしましょう」
シャーホムズが出店予定地の地図を見る。
「人通りだけではなく、工場から無理なく補充できる場所を選ぶ必要があります」
ワトゾンが記録した。
「王都の広場、市場、街道沿い、『パンチ』店舗の近隣。候補地を分けて確認します」
「ええな」
リリアーナはミレーヌを見た。
「リキュウに伝えてくれ。出店の場所、材料の補充、売上管理、人の配置。全部見てもらう」
「承知しました。記録しました」
チリン。
「点心売店『七七七』。出店準備へ移ります」
バルドが静かに告げた。
「ほんまに七七七で進むんやな」
「決定事項です」
「決定したん誰や!」
オヤジが肉まんを持ったまま胸を張った。
「わしや!」
「知っとるわ!」
モビーズの一人が嬉しそうに手を挙げた。
「アルバイト募集は、私たちが始めます! 接客を希望する方、包装を希望する方、調理を覚えたい方に分けて受け付けます!」
「頼むわ。売れるもんは先に売る。ラーメンは、もっと旨くしてから出す」
リリアーナが頷くと、工場の奥ではリュウ、ロアン、ホノヲがすでに次の試作へ向かっていた。
塩。
味噌。
豚骨。
そして、さらに磨かれる醤油。
その手前では、ロンポウが餃子の皮を持ち上げている。
「七七七! 今日から包みまくるで!」
「店まだないぞ!」
「鉄ちゃん組なら、すぐできるやろ!」
「否定できへんの怖いな!」
オヤジが豪快に笑った。
「清司! ラーメンできたら呼べ!」
「自分から来るやろ!」
「せやな!」
「何しに言うたん!」
オヤジは残っていた肉まんを一つ持ち、満足そうに馬車へ戻っていった。
「持って帰ったぞ」
キルナが言った。
「絶対、姐さんの分ちゃうな」
「自分で食う顔してたな」
その時、バルドが静かに包みを差し出した。
「王妃様の分は、こちらにございます」
「やっぱ用意ええな」
バルドは何も言わず、オヤジの後を追って包みを馬車へ届けた。
こうしてラーメン工場では、醤油ラーメンと、餃子、肉まん、焼売、小籠包が生まれた。
ラーメンは塩、味噌、豚骨を加え、さらに試作を続けることになった。
そして、先に完成した四つの点心は、点心売店『七七七』で販売されることになった。
店員は貧民街の者たちを中心に、アルバイト採用が始まる。
作る者。
包む者。
売る者。
運ぶ者。
また新しい持ち場が増えた。
ラーメン工場へ視察に来たはずが、ラーメンより先に点心売店が確変へ入っていた。




