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ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第四章 貧民街現場復帰編

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第63話 アイドル結成


 ラーメン産業と貧民街復興の配置が決まった。


 だが、会議はまだ終わっていなかった。


 チリン。


「続いて、国防計画と芸能活動です」


 バルドが静かに告げると、リリアーナは椅子の背へ体を預けた。


「まだあんのか」


 その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、会議室の壁へだらりともたれている。


 ミレーヌはすでに、黒革手帖の新しいページを開いていた。


「ございます」


「即答すな」


「昨日、国王陛下からご指示がありましたので」


「ラーメン食いたい言うた後にな」


「真田丸のような防衛設備を作れ、と」


「言い方、ほんま雑やったなぁ……」


 チリン。


「まずは、国防計画です」


 バルドが静かに鈴を鳴らした。


 会議室へ残ったのは、リリアーナ、ミレーヌ、バルド、鉄ちゃん。そして『ロイヤル・フラグメント』の七人だった。


 レイナたちは、そのまま貧民街復興の確認へ向かっている。


 机の上には、王都、貧民街、パン工場、葉巻と煙草の工場、建設中のラーメン工場、物流センター、港。それらを繋ぐ街道が描かれた地図が広げられていた。


「オヤジが言うとったんは、戦に備えて真田丸みたいなん作れ、や」


 リリアーナが地図を指で叩くと、アレクシスが首を傾げた。


「それだけなの?」


「それだけや」


「オヤジらしいね!」


「分かるんが腹立つねん」


 鉄ちゃんが地図を覗き込んだ。


「城の前へ、もう一個守りを置くってことでやすか」


「せや」


 リリアーナが地図を見つめると、壁へだらりともたれていた刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、ゆっくりと背を離した。


「王宮だけ守っても意味ない。今狙われるんは、工場、物流、街道、港、働いとる民。全部や」


 会議室の空気が変わった。


「敵が王宮へ来る前に止める。せやけど、戦う場所と民が逃げる場所は分ける」


 エミールが地図の近くへ寄った。


「逃げる道は、兵の道と別がいいよ。いっしょだと、つまっちゃうから」


「せやな。人が逃げる道、兵が動く道、物資を運ぶ道。三つに分ける」


 エミールは地図へ指を置いた。


「ここが、みんなの道。こっちは兵の道。ごはんとかは、うしろから運ぶ!」


「話早いやんけ」


 レオンも隣から地図を覗き込む。


「見張り台は、僕の光が見えるところに置こうよ! 一個光ったら、次も光らせるの!」


「王都まで警戒を繋げるんやな」


「うん! 赤は敵! 青は逃げて! 金は物が足りない!」


「分かりやすいな」


 ルシアンは水路の位置を指さした。


「火も消せるようにしようよ。工場を燃やされたら困るでしょ?」


「水路は貧民街側で整えとる。そこから引けるな」


「でも、飲む水とは別にしてね! 汚れたら飲めないよ!」


「せやな」


 セシルも地図を見ながら口を開いた。


「逃げたあとも、だれかいてほしいよ。子どもとか、おじいちゃんとか、こわくて動けない人もいるもん」


「避難所ごとに、声かけできる奴を置くか」


「うん! 早くしろって怒らないで、どこに行くか教えるの!」


「そこ頼む」


「任せて!」


 エリオットは、傘下国まで続く街道を指でなぞった。


「兵もごはんも、リュミエールだけじゃ足りないよ。ほかの国に、何人出せるか聞いておこうよ!」


「来てから頼むんやなく、今から割り振るんやな」


「うん! 先に決めたら、すぐ来られるよ!」


「せやな」


 ノエルが少し不安そうに尋ねた。


「孤児院の子たちは、どうするの?」


「先に逃がす」


 リリアーナはすぐに答えた。


「戦が始まってから動かすんちゃう。危ない兆しが出た時点で、安全なとこへ移す」


 ノエルはまっすぐ頷いた。


「僕がいっしょにいる!」


「頼む」


 アレクシスは、地図の外側へ指を置いた。


「ほかの国には、砦を作る理由を僕が話すよ! 攻めるためじゃなくて、みんなを守るためだって言う!」


「軍備を増やして、攻める準備やと誤解されたら困るからな」


「うん! けんかになる前に言ってくる!」


「任せる」


 鉄ちゃんは地図を見ながら、顎へ手を当てていた。


「鉄ちゃん」


「へい」


「工場の次は防衛や。建てられるか」


「現場を見りゃ分かりやす」


「即答せぇへんの珍しいな」


「地面と水と道を見ねぇと、嘘になりやすから」


 リリアーナは少しだけ笑った。


「さすがやな」


「明日、現場を見に行きやしょう。そこで土台を決めやす」


「頼むわ」


 ミレーヌのペンが走った。


『真田丸計画。


 避難路。


 兵の移動路。


 補給路。


 見張り台。


 警戒合図。


 防火設備。


 避難所。


 傘下国との兵力、物資調整。


 現場確認後、建設開始。』


 チリン。


「国防計画は、現場確認へ移ります」


 バルドが静かに告げた。


「まだ名前は、真田丸計画でええな」


「はい。正式名称は、現場確認後に」


「勝手に変な名前つけられそうで怖いな」


「国王陛下がお越しになれば、可能性は高いかと」


「言うな」


 チリン。


「続いて、芸能活動です」


「切り替え早いな!」


「進行です」


 会議室の扉が開き、タクヤ、ジュン、トモヒサ、ゴスペル、スギナ・カワイ、アネイモ、チンプ、『紅月の海賊ヴァンパイア』勢、そして空樹詠女が入ってきた。


 詠女は部屋へ入るなり、タクヤたち三人の立ち位置を見ていた。


「ずっと見とるな」


「仕事です」


「まだ何も任せてへんぞ」


「準備です」


「趣味やろ」


「仕事です」


 ミレーヌの目は、明らかに輝いていた。


「待望の芸能活動です」


「一番元気やな」


「人々には仕事と食事だけでなく、楽しみも必要です」


「それはそうやけど」


「アイドル事務所を作ります」


「もう決定なん?」


「はい。専用舞台、衣装部門、楽曲制作、稽古場、撮影設備も必要です」


「どんどん増えるな」


 タクヤが少し笑った。


「やるべ」


「お前はずっとそれやな」


「やるなら、中途半端はなしだろ」


「そこは格好ええな」


 ジュンが会議室にいる者たちへ笑いかけた。


「全員、笑顔で帰ってもらうよ」


「まだ客おらんぞ」


「今から作るんだろ?」


「話早いな」


 トモヒサは机に置かれた紙を見た。


「まず、三人をどう見せるかだな」


「お前ら、何も決まってへんのに完成形見とるやん」


「スターですので」


 ミレーヌが真顔で答えた。


「便利な説明すな」


 チリン。


「歌の担当です」


 バルドが告げると、ゴスペルが一歩前へ出た。


「歌は、私がお教えします」


 タクヤが尋ねた。


「どんな歌だ」


「魂へ届く歌です」


「アイドルソングやぞ」


「魂へ届かせます」


「重いな!」


 ジュンは少し笑った。


「でも、心に残る方がいいよ」


 トモヒサも頷く。


「声に力がある」


 スギナ・カワイが胸の前で両手を組んだ。


「歌声は星々を越え、人々の魂の扉を開き……」


「意味分からんけど、メンタルケア頼む」


「承知しました」


「通じたん?」


 アネイモが淡々と答えた。


「疲労、睡眠、食事は私が管理します」


「助かる」


 チンプも頷いた。


「話したくない時は、無理に話させない。舞台前に不安が出た者は、私が聞く」


「完璧やん。『セイントミステリア』勢は、歌とメンタルケアや」


 ゴスペルが静かに頷く。


「魂へ届かせます」


「まだ言うんやな」


 チリン。


「ダンスです」


 ティオが一歩前へ出た。


「まず体幹、姿勢、重心、足運びだ」


「厳しいな」


「舞台で倒れたら終わりだ」


「正論や」


 その後ろには、『紅月の海賊ヴァンパイア』勢が静かに並んでいた。


 姿勢がよく、立っているだけで絵になる。


「『紅月の海賊ヴァンパイア』勢も、ダンスと見せ方を手伝ってくれ」


 ティオがゆっくり頷いた。


「我らの動きは、人の目を奪うためにある」


「戦闘ちゃうで」


「舞台も同じだ」


「その理屈でいくんや」


 パードが、にやりと笑った。


「絶対映えるじゃん。うちらに任せなよ」


「頼もしいギャルやな」


「ビジュは完成してるし」


「まだ曲もないぞ」


「先にビジュを固めるの、大事じゃん」


「全員、見切り発車やな!」


 チリン。


「撮影と放送です」


 キャプテントュリラーが腕を組んだ。


「我らが担当する理由を聞こう」


「海賊勢は、遠くを見る。遠くへ届ける。通信、見張り、機材。そこ得意やろ」


「船と映像は違うぞ」


「似たようなもんや」


「雑だな」


 ヨホークが興味深そうに紙を覗く。


「光を板へ映す装置なら、作れるかもしれない」


 シャチも頷いた。


「音を飛ばす方法も要る」


 スイチョが短く言った。


「送る。受ける。分ける」


「単語だけで話進むな」


 キャプテントュリラーは少し考えた。


「映像を遠くの者へ届けられるなら、港と王都の連絡にも使えるな」


「せや」


 リリアーナが目を細めると、その横では刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、壁からゆっくりと背を離した。


「アイドル映すだけやったら贅沢品や。せやけど、ニュースも流せるなら要る」


 会議室の空気が変わった。


「戦が起きた。街道が塞がった。敵がどこから来た。どこへ逃げろ。食料はどこで配っとる。それを同じ時に、一気に民へ知らせられる」


 レオンが目を丸くした。


「僕の光より、遠くまで届くの?」


「完成したらな」


「すごい! みんなに教えられるね!」


 エミールも頷いた。


「同じ話を、みんなにいっしょに言えるなら、逃げる場所も分かりやすいよ!」


「せや。ニュース、天気、災害、避難、国からの知らせ。全部流す」


 ミレーヌのペンが一気に動いた。


「情報は武器ですから」


「せや」


 リリアーナは会議室に集まった者たちを見渡した。


「知らん奴から死んでいく。なら、全員へ届く道を作る」


 チリン。


「テレビ放送は、芸能と国防の共同事業として進めます」


 バルドが静かにまとめた。


「綺麗に繋げたな」


「進行です」


「ですが、ニュースの情報源が必要です」


 ミレーヌが言うと、リリアーナは会議室の端へ目を向けた。


「王宮の話だけやと遅い。イレギュラー」


「いるよ」


 壁際にいたイレギュラーが顔を上げた。


「お前、噂拾うん得意やろ」


「噂だけじゃない」


 イレギュラーは壁から背を離した。


「市場の揉め事、港の遅れ、怪しい商人、小さな盗難、急に消えた人、どこで何が流行っているか。表に出る前の話も入ってくる」


「それや」


 リリアーナは頷いた。


「大事件になってから流すんちゃう。小さいうちに拾う。噂、ゴシップ、街で起きた小さな事件、商いの変化、危ない兆し。全部ニュースの種や」


 ミレーヌが視線を上げた。


「ただし、未確認情報をそのまま流すことはできません」


「せやな。イレギュラーが拾う。シャーホムズが確認する。ワトゾンが記録する。ミレーヌが整理する。最後に俺が、流すか決める」


「承知しました」


 イレギュラーが少し笑った。


「噂が仕事になるんだ」


「人を煽るためやない。人を守る情報に変える」


 チリン。


「ニュース班。情報源はイレギュラー。確認はシャーホムズ。記録はワトゾン。情報整理はミレーヌ。放送判断はリリアーナ様」


「整ったな」


「進行です」


 リキュウが静かに手を挙げた。


「物流は、私どもで担当いたします」


「ラーメン工場とアイドル活動、両方見れるか」


「食材、衣装、撮影機材、舞台設備、輸送、受付。すべて、流れを止めなければ回ります」


「頼もしいな」


「商いですので」


「ファイルだけは持ち出すなよ」


「深く反省しております」


「顔が反省しとらん」


 その時、詠女がすっと手を挙げた。


「マネージャーに立候補します」


 会議室が止まった。


「お前だけ、『朧月あやかし恋絵巻』勢からこっち来るんかい!」


「適性です」


「趣味やろ」


「適性です」


「二回言うな」


 詠女は、タクヤ、ジュン、トモヒサを順番に見た。


「衣装、立ち位置、ファンサ、楽屋導線、体調、舞台構成、コンビの湿度」


「最後の一個いらんやろ!」


「重要です」


「何にや!」


「売上に」


「絶対、趣味入っとるやろ!」


 だが、詠女の目は真剣だった。


「タクヤ様は中央。ジュン様は客へ近づける位置。トモヒサ様は端から抜いた時に映えます。三人を同じ位置へ置けば、長所が潰れます」


 ミレーヌが少しだけ目を見開いた。


「……適性がありますね」


「あるんかい!」


「観察力が高いです」


「カップリングばっか見とった成果出たな!」


「関係性です」


「言い換えただけや!」


 チリン。


「マネージャー、空樹詠女」


 バルドが静かに決定した。


「もう決まった!」


「適任です」


 詠女は満足そうに頷いた。


 ミレーヌは黒革手帖の中央へ、大きく書き込んだ。


『アイドル事務所、設立。


 歌、メンタルケア。


『セイントミステリア』勢。


 ダンス、演出。


 ティオおよび『紅月の海賊ヴァンパイア』勢。


 撮影、テレビ開発。


 海賊勢。


 物流、受付。


 リキュウおよび物流班。


 マネージャー。


 空樹詠女。


 テレビ放送。


 芸能、ニュース、災害、避難、国防情報を扱う。』


「話広がりすぎちゃうか」


 リリアーナが呟くと、ミレーヌは真顔で答えた。


「必要です。情報は武器ですから」


「さっきも聞いた」


「重要ですので」


 タクヤは、ジュンとトモヒサを見た。


「やるべ」


 ジュンが笑った。


「全員、笑顔にしよう」


 トモヒサも静かに頷く。


「まず、俺たちを見てもらわないとな」


 ミレーヌは三人を見た。


「では、本日より三名で、アイドル活動を開始します」


 会議室に拍手が起きた。


 ゴスペルは静かに歌い始め、スギナ・カワイは星の光について語り始める。ティオはすでに三人の姿勢を確認し、『紅月の海賊ヴァンパイア』勢は立ち位置を見ていた。


 海賊勢は映像を飛ばす装置について話し始め、詠女は三人の並びへ異様な集中力を向けている。


 机の上には、真田丸計画の地図とアイドル事務所の計画書が並んで置かれていた。


 こうして、国を守る防衛計画と、人々へ歌と情報を届ける芸能計画が、同じ会議で始まった。


 真田丸を作るために始めた会議で、なぜかアイドルグループまで結成されていた。

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