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ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第四章 貧民街現場復帰編

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第61話 召喚魔法


 朝。


 リリアーナは、馬車で学園へ向かっていた。


 向かいにはミレーヌが座り、その隣には畳まれた車椅子が置かれている。


「一応、持ってきたんか」


「はい」


「もう普通に歩けるで」


「校門から授業場所までなら、です。一昨日は半日歩いて寝込みました」


「パーティーやったからや」


「昨日も国王陛下に呼び出されました」


「ラーメンと国防の仕事を増やされましたね」


「増やされただけや」


「疲労する要素しかありません」


「否定できへん」


 ミレーヌは黒革手帖を開いた。


『車椅子、念のため持参。』


「記録いらん」


「必要ですので」


 リリアーナの隣には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が座っていた。


 黒い上着に、緩めた襟元。


 馬車の壁へだらりともたれ、朝から完全にやる気がない。


 いつものことだった。


 腹が立てば斬る。


 敵が現れれば斬る。


 リリアーナが心の中で思った通りに、何度でも刀を振るう。


 ただし、斬られた相手には何も起きない。


 その姿が見えるのも、転生者とレイナだけだった。


「仕事増えすぎやろ……」


「本日は、アレクシス様から新たな方々をご紹介いただく予定です」


「まだ増えるんか」


「はい」


「帰ろかな」


「もう学園へ到着します」


「知っとる」


 馬車が正門へ着くと、リリアーナは自分の足で降りた。


 校門から野外訓練場までなら、もう普通に歩ける。


 以前のように、数歩ごとに息を整える必要もない。


 ただし、まだ走れない。


「清司さん、急がないでください」


「急いでへん」


 その時、校舎の方から声が聞こえた。


「パンチの新しいクリームパンが届いたぞ!」


 リリアーナの歩幅が少しだけ広がり、ミレーヌがすぐに腕を掴んだ。


「清司さん」


「歩いとる!」


「速度が上がりました」


「気持ちが前に出ただけや」


「体も出ています」


「細かいな!」


 ミレーヌのペンが動く。


『クリームパン発見時、歩行速度上昇。』


「前科みたいに書くな!」



 野外訓練場では、すでに魔法実習が始まっていた。


 広い土の地面の中央に大きな魔法陣が描かれ、その周囲には属性ごとの魔石が並べられている。


 火。


 水。


 風。


 土。


 光。


 闇。


 生徒たちは順番に魔法陣へ立ち、自分の内側にある魔力を外へ出していた。


 小さな火の玉。


 水の球。


 風。


 光。


 花。


 鳥。


 なぜか、大きな魚。


「なんで魚出たん」


「本人にも分からないそうです」


「魔法、自由すぎるやろ」


 同じクラスには、ロイヤルフラグメントの七人とレイナも揃っていた。


 大きな魚を囲み、全員で楽しそうに眺めている。


「食べられるかな?」


 エリオットが言った。


「授業で出た魚を食おうとすな」


「次」


 教師が名簿へ目を落とした。


「リリアーナ・リュミエール」


「俺か」


 訓練場中の視線が集まった。


 リリアーナが魔法陣の中央へ立つと、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、訓練場の端へだらりともたれた。


 完全にやる気がない。


「両手を前へ出してください。ご自身の魔力を外へ出すイメージです」


「魔力なぁ」


 リリアーナは両手を前へ出した。


 前世は日本。


 元若頭。


 魔法とは無縁である。


「なんも出るわけないやろ」


 その瞬間、魔法陣が強く光った。


「出たやんけ!」


 白い光が一気に噴き上がり、訓練場の端にいた刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が消えた。


 次の瞬間。


 魔法陣の中へ、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が現れた。


 黒い革靴が地面を踏み、風が上着を揺らしている。


 いつもは転生者とレイナにしか見えない姿を、訓練場にいた全員が見ていた。


「人が出た……」


 教師が目を見開いた。


「誰なの?!」


 セシルが叫んだ。


「リリアーナの好きな人?!」


 エミールが目を丸くした。


「許せない!」


 アレクシスが一歩前へ出た。


「僕のリリアーナなのに!」


 エリオットが頬を膨らませる。


「僕の方が好きだよ!」


 ルシアンも声を上げた。


「僕も好き!」


 ノエルが両手を上げる。


「みんな近いよ!」


 レオンが慌てて止めた。


「「僕が一番好きなのに!!」」


「全員で言うな!!」


「生で見られて最高です……!」


 レイナだけは両手を胸の前で組み、目を輝かせていた。


「ところで誰なの?」


 アレクシスが首を傾げた。


 リリアーナは遠い目で空を見た。


「誰やろな……」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同じように遠い目で空を見ていた。


 ミレーヌも、同じように遠い目で空を見ていた。


「どこ見てんの?!」


 セシルが叫んだ。


「レイナは?!」


 全員がレイナを見る。


 レイナも、同じように遠い目で空を見ていた。


「なんで全員そっち見るの?!」


「知らんもんは知らん」


 教師が恐る恐る尋ねた。


「お名前も分かりませんか?」


 リリアーナは、さらに遠い目で空を見た。


「分からんなぁ……」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も。


 ミレーヌも。


 レイナも。


 同じように遠い目で空を見ていた。


「絶対知ってるよ!」


 エミールが言った。


「知らんなぁ……」


 四人は、さらに遠くを見た。


 横でミレーヌが黒革手帖を開く。


『召喚対象。


 正体不明。


 黒スーツ。


 刀を所持。』


「お前まで正体不明にすな」


「皆様には正体不明ですので」


「そうやけど」


 ロイヤルフラグメントの七人が、じわじわと刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司へ近づいていく。


 レイナは名残惜しそうに見つめたあと、すぐに皆の前へ立った。


「みんな、刀を持っていますから近づかないでくださいね」


「「はーい!」」


 全員が素直に止まった。


「先生戻ったな」


「危ない時は戻ります」


 そう言いながらも、レイナの視線は刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司へ向いたままだった。


 教師は訓練場の奥へ移動し、杖を振った。


 土が大きく盛り上がり、人の形へ変わっていく。


 硬い石の盾と剣を持った訓練用の兵士だった。


「召喚魔法であるなら、戦闘も確認しましょう。あの訓練人形へ攻撃を命じてください」


「命じる言うてもなぁ」


 土の兵士が剣を構え、リリアーナへ向かって走り出した。


 危ない。


 そう思った瞬間。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が地面を蹴った。


 一瞬で土の兵士の懐へ入る。


 刀が鞘から抜かれ、黒い刃が横へ走った。


 土の兵士の胴体が真っ二つに割れ、地面へ崩れ落ちる。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、刀についた土を払い、もう一度肩へ担いだ。


 リリアーナは、真っ二つになった訓練人形を見た。


「やっと斬れた!」


 訓練場に声が響いた。


「ほんまに斬れたやん!」


 これまで何度も。


 腹が立つたびに。


 斬りたい相手へ刀を振り下ろしてきた。


 だが、斬れていたのはリリアーナの中だけだった。


 今は違う。


 目の前の訓練人形が、本当に真っ二つになっている。


「すごいです!」


 ミレーヌのペンが勢いよく動いた。


『清司さん、初めて現実の物体を斬る。』


「そこ重要や!」


 教師も、壊れた訓練人形を見つめていた。


「上級生が複数人で戦う訓練人形なのですが……」


「強いやんけ!」


「非常に強力です」


「やっと役に立ったな!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は何も答えず、少しだけ満足そうに刀を肩へ担いでいた。


 教師は、もう一体の訓練人形を作り出した。


「もう一度お願いします。今度は、意識して動かしてみてください」


「意識して言われてもなぁ」


 新たな土の兵士が剣を振り上げる。


 リリアーナは、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司を見た。


 右へ回れ。


 そう思った瞬間、清司が右へ走った。


「動いた!」


 低く入れ。


 振り下ろされた剣の下へ潜り込む。


 斬れ。


 刀が下から跳ね上がり、石の剣ごと土の腕を斬り飛ばした。


 そのまま前へ踏み込み、胴体へ二撃目を入れる。


 土の兵士が崩れ落ちた。


「思った通りに動いとる……」


 言葉にしなくても動く。


 リリアーナが腹を立てれば、清司の目も鋭くなる。


 危険を感じれば、リリアーナより先に刀へ手をかける。


 今までと同じだった。


 違うのは、本当に斬れるようになったことだけだ。


 教師が真剣な顔で、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司を見た。


「召喚者の意思や感情と、強くつながっているようです」


「そうなんかなぁ……」


「本当に心当たりはありませんか?」


「ないなぁ……」


 リリアーナは遠い目で空を見た。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も。


 ミレーヌも。


 レイナも。


 同じように遠い目で空を見ていた。


「また全員そっち見てる!」


 セシルが叫んだ。


 その時、リリアーナの膝から急に力が抜けた。


「え」


 体が前へ傾く。


 ミレーヌがすぐに抱き止める。


「清司さん!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同時に手を伸ばした。


 だが、その指がリリアーナへ触れる直前。


 清司の体が白い光へ変わった。


 光の粒が散り、魔法陣の中から姿が消える。


 次の瞬間には、いつものようにリリアーナの横へ戻っていた。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿のまま。


 また、転生者とレイナにしか見えない姿へ戻っている。


「大丈夫ですか!」


「全身、動かん……」


 教師が砂時計を確認した。


「実体化していた時間は、ちょうど三分です」


「三分?」


「召喚を維持するために、体力をすべて使ったのでしょう」


「全部かい……」


 ミレーヌはすぐに車椅子を広げた。


「乗ってください」


「自分で乗る力もない」


「お手伝いします」


 ミレーヌに抱えられ、リリアーナは車椅子へ座った。


 腕にも足にも力が入らない。


 息をするだけでも疲れる。


「これ、あかんわ」


「非常に強力な魔法ですが、使用後は動けなくなります」


「戦場で使ったら終わりやんけ」


「護衛が必要です」


「使わんとこ」


「賢明です」


 ミレーヌが黒革手帖へ大きく書き込む。


『清司さんを実体化。


 戦闘可能時間、三分。


 全体力を消費。


 原則、使用禁止。』


「禁止まで書くん」


「清司さんは無理をしますので」


「俺も今ので懲りたわ」


 リリアーナは車椅子の背へ倒れ込んだ。


 教師は壊れた二体の訓練人形と、車椅子へ戻ったリリアーナを交互に見た。


「本日の魔法実習は、ここまでにいたします」


「早ない?」


「上級生が複数人で戦う訓練人形を二体斬り、その代わりに召喚者が動けなくなりました」


「言い方が怖いな」


 ミレーヌが記録を足した。


『評価、最強。


 代償、重すぎる。』


「それでええ」


 アレクシスが壊れた訓練人形を見ながら笑った。


「三分でも、すごい力だね」


「二度と出さんかもしれんけどな」


「もったいないよ!」


「全体力なくなるねん」


「じゃあ最後に出せばいいんだ!」


「小学一年生の考え方やな!」


「その前に、紹介したい人たちがいるよ」


 アレクシスは訓練場の入口へ視線を向けた。


「今から?」


「うん」


「俺、もう動かれへんぞ」


「座ったままで大丈夫だよ」


「最初からその予定やったみたいに言うな」


 アレクシスは楽しそうに笑った。


「かなり濃い人たちだよ」


「その予告いる?」



 訓練場の入口から、十人の男女が入ってきた。


 明らかに、学園へ授業を受けに来た雰囲気ではない。


 その先頭に立っていたのは、黒に近い赤の特攻服に短いスカート、重い靴を身につけた女だった。


 背中には、大きな刺繍が入っている。


「こいつが噂の姫かよ」


 女は車椅子に座るリリアーナを睨みつけた。


「メンチきんな!」


「瞑血鬼琉奈。キルナでいい」


「メンチきるな?」


 一拍。


「そのまんまやんけ!!」


「うるせぇ!」


 キルナは、さらに目を細めた。


「まだメンチきっとるやん!」


「元レディース総長に、目ぇ逸らせって言うのかよ」


 その時、キルナの目がリリアーナの横へ動いた。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。


 召喚は終わり、もう転生者とレイナにしか見えない姿へ戻っている。


「……なんだ、あの黒スーツ」


「見えるんか」


「当たり前だろ」


 リリアーナは、キルナの特攻服を見た。


「茨城県のレディースやな」


「……」


 キルナの目が大きく開いた。


「なんで分かんだよ!」


「特攻服見たら分かる」


「分かるか!!」


「なんとなくや」


「雑すぎるだろ!」


 キルナは、もう一度刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司を見た。


「クソ格好いいじゃねぇか」


「そうか?」


「クソ格好いい」


「二回言うたな」


「うるせぇ!」


 キルナは顔を背けたが、耳が少し赤くなっていた。


 アレクシスが笑う。


「紹介を続けようか」


「頼む」


「勝手に進めんな!」


「お前が止めたんやろ!」



 最初に前へ出たのは、三つ編みで鍛え上げられた体を持つ男だった。


 服の上からでも筋肉が分かり、腕を組んでも少しも揺らがない。


「リュウです。中華料理を担っております」


 その瞬間、リリアーナの目が輝いた。


「中華!!!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、さっきまでの気だるさを消し、一瞬で姿勢を正した。


「めっちゃええタイミングで来てくれた! ラーメン作れるか?」


 間髪入れずに聞くと、キルナが眉を上げた。


「会ってすぐ聞くことかよ」


「今、一番大事や!」


 リュウは静かに頷いた。


「作れますとも。麺、湯、出汁、肉、香味油」


 一拍置き、胸を張る。


「中華四千年に、不可能はありません」


「勝った!!!」


「まだ始まってねぇだろ!」


 キルナが叫んだ。


 リリアーナは、リュウの手を見た。


 分厚い指。


 火傷の跡。


 包丁を握り、鍋を振り、麺を打ってきた手だった。


「ラーメン産業、始める。リーダーになってくれ」


「私が、ですか」


「せや」


「会って一分だぞ!」


 キルナが呆れる。


「腕、分かんのかよ」


「手ぇ見たら分かる。料理しとる手や。火の前に立っとる手や。麺触っとる手や」


 リュウは自分の手を見た。


「作れる奴がおる。食いたい奴もおる。店出したい国王もおる。始めん理由あるか?」


 リュウはしばらくリリアーナを見たあと、深く頭を下げた。


「承知しました」


「よっしゃ!」


 ミレーヌが記録する。


『リュウ。


 中華料理班。


 ラーメン産業、技術責任者。』



 次に、明るい顔の男が前へ出た。


「ロンポウ! 餃子、小籠包、肉まん! 包むもんなら任せとき!」


「ええやん! 餃子頼むわ!」


「任せとき!」


「貧民街の奴らにも作り方教えたってくれ」


「包めばええ! 最初は形なんか気にすんな!」


「話早いやんけ」


 ミレーヌが書き込む。


『ロンポウ。


 点心担当。


 餃子、教育担当。』



 その隣には、無口な男が立っていた。


 腕には火傷の跡があり、目はリリアーナではなく、訓練場の端にあるかまどを見ている。


「ホノヲ。火力担当だよ」


 アレクシスが紹介した。


 ホノヲは短く言った。


「火力は裏切らねぇ」


「怖いな」


「厨房ではもっと怖いぞ」


 キルナが言った。


 リリアーナは指を折る。


「スープ、焼豚、鍋、火入れ。そこ任せる」


 ホノヲが初めてリリアーナを見た。


「悪くねぇ」


「ほな決まり」


 ミレーヌが記録する。


『ホノヲ。


 火力、スープ、焼豚担当。』



 次に、三人の男が前へ出た。


 一人目は、ただ立っているだけで訓練場の空気を変える男だった。


「タクヤ。やるべ」


「何を?」


「なんでも」


「自信すごいな」


 二人目は派手な雰囲気だが、人を見る目が細かい男だった。


「ジュン。今日は全員、笑顔で帰ってもらうよ」


「まだ何も始まってへん」


「始まる前から大事だろ?」


「強いな」


 三人目は爽やかで、少し眠たそうな目をした男だった。


「トモヒサ。ラーメンも映える時代だろ」


「まだラーメンできてへん」


「先に流行を作ればいい」


「全員、始まる前から先走るな」


 その横で、ミレーヌの目が明らかに変わった。


「アイドルです」


「急に声明るなったな」


「以前から芸能分野の人材が必要だと考えていました。この三名には、アイドル活動をしていただきましょう」


「ラーメン担当ちゃうん?」


「アイドルはアイドルです」


「そこは現場復帰させへんのかい!」


「芸能も立派な現場ですので」


 タクヤが少し笑った。


「やるべ」


「何するか決まってへんぞ」


「そこから作ればいい」


 ジュンも頷いた。


「全員、笑顔にしよう」


 トモヒサは髪をかき上げる。


「まずは見せ方だな」


「濃いなぁ」


 ミレーヌのペンが止まらない。


『タクヤ。


 ジュン。


 トモヒサ。


 芸能活動、開始予定。』


「一番嬉しそうやな」


「待望の人材ですので」



 最後に、三人が前へ出た。


 一人目は黒い鎧をまとい、重い呼吸と圧倒的な威圧感を放っている。


「ダース。配置を開始する」


「まだ何も言うてへん」


「準備は必要だ」


「話早いな」


 その後ろには黒い衣をまとい、いかにも悪そうに笑う老人がいた。


「パルティン。ほっほっほ……予算は十分にある」


「めっちゃ悪そうやのに、ありがたいこと言うな」


「金は力です」


「否定できん」


 そして、白い衣をまとった芯の強そうな女が前へ出た。


「レイヤです。街は建物だけでは戻りません。住居、医療、水、仕事、避難場所。それが揃って、初めて人は戻れます」


 リリアーナは少し目を細めた。


「話早いやんけ。貧民街の復興、ラーメン街、花田丸周辺の整備。帝国班に任せる」


 ダースが頷く。


「配置を開始する」


 パルティンが笑った。


「予算を組みましょう」


 レイヤも静かに頷く。


「民の暮らしを優先します」


「ええやん」


 ミレーヌが記録した。


『ダース。


 建設、防衛配置。


 パルティン。


 予算、制度。


 レイヤ。


 貧民街復興、生活再建。』



 リリアーナは、車椅子へ沈んだまま十人を見渡した。


「配置するで」


 ミレーヌが黒革手帖を構える。


「リュウ、ロンポウ、ホノヲはラーメン技術班。タクヤ、ジュン、トモヒサは芸能活動。ダース、パルティン、レイヤは貧民街復興と花田丸整備」


 そして、キルナを見る。


「お前は全体まとめろ」


「は?」


「総長やろ」


「元だよ!」


「一緒や」


「一緒じゃねぇ!」


「人まとめるん慣れとる。各班繋げ。揉めたら止めろ。困っとる奴おったら拾え」


 キルナは、しばらくリリアーナを見ていた。


 その横には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司がいる。


 だらりとしているのに、人材を見る時だけ目が鋭い。


 リリアーナも迷うことなく、人へ持ち場を渡していく。


「……あんた」


「なんや」


「やっぱ格好いいな」


「急になんや」


「黒スーツだけじゃねぇ」


 キルナが、にやりと笑った。


「中身も気に入った」


「いらん告白すな」


「これから勝手についてくから」


「ストーカー宣言すな!」


「上等だろ」


「よくない!」


 アレクシスは少し離れた場所で笑っていた。


「良い配置になったね」


「濃すぎるけどな」


「使える人たちだよ」


「それは分かる」


 リリアーナは、訓練場に並ぶ面々を見た。


 三つ編みのムキムキ中華料理人。


 点心職人。


 火力の鬼。


 スター。


 ファンサの達人。


 爽やかな流行屋。


 黒鎧の司令官。


 悪そうな予算担当。


 芯の強い復興責任者。


 そして、メンチを切り続ける元レディース総長。


「……学園に似合わんな」


「誰がだよ!」


「全員や!」


 ミレーヌが黒革手帖を閉じた。


「本日の成果。清司さんを三分間実体化。全体力消費。ラーメン技術班確保。芸能人材確保。復興・国防班確保。全体統括、キルナ」


「学園へ来ただけやのに多いな」


「非常に有意義な一日です」


「俺はもう指一本動かへんけどな」


「帰りは車椅子です」


「持ってきて正解やったな……」


「はい」


 こうして。


 魔法を習いに来ただけの学園で。


 リリアーナは、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司を、三分間だけ現実へ呼び出せるようになった。


 ただし、一度使えば全体力を失う。


 切り札というより。


 使った本人まで一緒に倒れる、扱いに困る魔法だった。


 さらに。


 中華と。


 アイドルと。


 帝国と。


 元レディース総長まで現れた。


「帰ったら寝る」


「その前に、クリームパンが届いております」


 リリアーナの指が、ほんの少し動いた。


「食う」


「その体力は残っているのですね」


「別腹や」


 ミレーヌの黒革手帖が開く。


『全体力消費後も、クリームパンは可能。』


「最後の体力で書くな!」

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