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ふわ姫若頭 〜恋愛フラグを全部現場復帰させたら、女王ルートが開きました〜  作者: 夜嶋朔
第三章 食卓現場復帰編

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第42話 料理人ロアン


 パンが不味い。


 それは、国王の一言から始まった。


 いや。


 正確には、前から全員うすうす思っていた。


 硬くて、重くて、味がない。スープにつけなければ食べにくく、食べ物というより何かの試練に近い。


「まずは現場やな」


 リリアーナが言った。


 向かった先は、王宮の調理場だった。


 王宮の厨房は広く、大きな窯や粉袋、水桶、作業台が整然と並んでいる。その中央には、焼き上がったばかりのパンが積まれていた。


 そして、見ただけで硬そうだった。


「……見ただけで硬いな」


「硬いですね」


 ミレーヌが即答した。


「言い切るな」


「事実ですので」


 調理場の者たちは、突然現れたリリアーナを前に背筋を伸ばしていた。


 今のリリアーナは、ただ体の弱い姫ではない。


 葉巻と煙草の産業を動かし、工場を作り、貧民街に仕事を生み、レセプションパーティーまで成功させた姫である。


 その横では、黒スーツ姿の清司が刀を肩に担ぎ、厨房全体を見渡していた。


「普段のパン、見せろ」


 リリアーナが言うと、調理人が皿に載せたパンを差し出した。


 硬い。


 やはり硬い。


 リリアーナはパンを手に取り、ひと口かじった。


 こん。


「……こん」


 ミレーヌが呟いた。


「言うな」


「パンから出てはいけない音がしました」


「言うなって」


 リリアーナは無言で咀嚼したが、飲み込むまでに時間がかかった。


「水」


「はい」


 ミレーヌが差し出した水を飲み、リリアーナは深く息を吐いた。


「……これは、あかん」


「記録します」


「記録せんでええ」


「パン、あかん」


「そのまま書くな」


 調理場の空気が重くなった。


 料理人たちは全員、これから怒鳴られると思っている顔だった。


 だが、リリアーナは怒鳴らなかった。


 怒鳴っても、パンは柔らかくならない。


「誰が作っとる」


「王宮の規定に従い、全員で作っております」


「規定か」


「はい。粉、水、塩の量も、焼き時間も決まっております」


「発酵は?」


「発酵……でございますか?」


 リリアーナは目を細めた。


「……そこからか」


 ミレーヌも黒革手帖を開いた。


「パン改善は、基礎から必要ですね」


「せやな」


 その時、調理場の隅から違う匂いが漂ってきた。


 硬いパンや焼けた粉の匂いではない。


 香草と野菜の香りが重なった、少し甘くて食欲を引く匂いだった。


 黒スーツ姿の清司は刀を肩に担いだまま、厨房の端へ視線を向けている。


 誰も見ていない場所。


 誰にも名前を呼ばれていない料理人。


 だが、その手元だけは違っていた。


「……あれやな」


 リリアーナも顔を向けた。


 調理場の端にある小さな作業台で、一人の若い料理人が鍋を見つめている。周りの料理人よりも控えめな位置にいて、いかにも名前のないモブのようだった。


 だが、手元の動きは丁寧だった。


 鍋の中だけではなく、火を見て、香りを確かめ、野菜の柔らかさを指先で確かめている。


「おい」


 リリアーナが声をかけると、若い料理人は肩を跳ねさせた。


「は、はい!」


「それ、何作っとる」


「こちらは、その……」


「怒らん。見せろ」


 若い料理人は少し迷ったあと、小さな皿を差し出した。


 柔らかく煮込まれた野菜に、香草を使ったソースがかけられている。見た目は素朴だが、香りが良かった。


「賄いか」


「いえ。趣味で試していたものです」


「趣味?」


「はい。王宮の献立には入れられません。規定外ですので」


「味見してええか」


「姫様がですか!?」


「なんや」


「いえ、そのような粗末な皿を姫様へお出しするわけには」


「うまいかどうか聞いとる」


 若い料理人は一瞬黙った。


 だが、料理を見た途端、その目から怯えが消えた。


「……美味しく作ったつもりです」


「ほな、出せ」


「ただし、熱いのでお気をつけください。姫様のお口を傷つけるわけにはまいりません」


「そこ気にするんやな」


「女性へ熱すぎる料理を出すなど、料理人以前の問題です」


「急に男前になったな」


 若い料理人は皿の温度を確かめてから、改めてリリアーナへ差し出した。


 リリアーナは小さくひと口食べ、黙った。


 ミレーヌが少し身構える。


「清司さん?」


 リリアーナは、もうひと口食べた。


 黒スーツ姿の清司も静かに目を細めている。


「……うまい」


 調理場が止まった。


 若い料理人も固まった。


「え……」


「うまい」


 二回言った。


「お前、名前は?」


「ロアンと申します」


「ロアン。なんでこれを出してへん」


「規定外ですので」


「規定外やから、うまいんか」


「いいえ。王宮の規定を守ってきた先輩方を否定するつもりはありません」


 ロアンは慌てて首を振ったが、料理からは目を逸らさなかった。


「この厨房を支えてきたのは、私ではなく皆様です。食材の保存も、決められた量で大勢へ食事を出す技術も、私はまだ先輩方に及びません」


 調理人たちがロアンを見る。


「ですが」


 ロアンの声が、少しだけ強くなった。


「食べる方が苦しむ料理を、そのままでいいとは思いません」


 リリアーナは目を細めた。


「姫様が水で流し込まなければならないパンを、料理人が黙って出し続けるのは違います」


「言うやん」


「申し訳ありません」


「謝るな。合っとる」


 リリアーナは皿へ視線を落とした。


 味がある。


 香りがある。


 食べやすい。


 火の入れ方も分かっている。


 派手な料理ではないが、食べる人間のことを考えて作られていた。


「お前、今日からリーダーや」


「……はい?」


「パン改善チームのリーダーや」


「お待ちください!」


 ロアンの声に、調理場がざわついた。


「嫌なんか」


「そうではありません。ですが、私より長く厨房へ立っている方々を差し置いて、いきなり上に立つことはできません」


「ほう」


「パンも私の専門ではありません。先輩方に教えていただかなければ、粉の扱いも窯の癖も分かりません」


 ロアンは調理人たちへ頭を下げた。


「私一人の力では何もできません」


 そして、リリアーナへ向き直る。


「それでも、食べる方のためにパンを変えろとおっしゃるのであれば、皆様に教えを請いながら、味をまとめる役目を務めます」


「それでええ」


「ですが、リーダーというより――」


「名前はなんでもええ。うまいもんを作れる奴が中心に立て。先輩に頭下げるんも、職人に教えてもらうんも、お前の仕事や」


 ロアンは息を呑んだ。


「パン、叩き直すぞ」


「……はい」


「声小さいぞ」


 ロアンは背筋を伸ばした。


「はい!」


 ミレーヌが黒革手帖へ書き込んだ。


『王宮調理場。

料理人ロアン発掘。

趣味料理、非常に美味。

女性への配慮、強め。

職人への敬意あり。

パン改善チーム、リーダー抜擢』


「途中から人物評価になっとるぞ」


「重要ですので」


「女性への配慮、強めはいらんやろ」


「今後も増えそうです」


「まだ一回やぞ」


 その時、女性の調理人が熱い鍋へ手を伸ばした。


「危ない!」


 ロアンはすぐに間へ入り、布を使って鍋を持ち上げた。


「火傷をしたらどうするんです。重いものは私が持ちますから、声をかけてください」


「す、すみません」


「謝らないでください。女性の手は料理だけでなく、たくさんのものを支える大切な手です」


「始まったな」


 リリアーナが言った。


「女性への配慮、非常に強めへ変更します」


 ミレーヌが記録した。


「早いねん」


 ロアンはまだ緊張していたが、その目は死んでいなかった。


 急に前へ出された恐怖。


 見つけられた驚き。


 それ以上に、料理人として認められた喜びと、食卓を変えたいという火が宿っていた。


 リリアーナは、それを見逃さなかった。


「よし。次行くぞ」


「次はどちらへ?」


 ミレーヌが聞いた。


「モビーズや」


「パンを?」


「作る」


 リリアーナは、調理場に積まれた硬いパンをもう一度見た。


 不味い。


 だが、変えられる。


 変えられる人間がいるなら、見つければいい。


 力を使える場所へ立たせればいい。



 その後、モビーズの作業場には大勢の者が集められていた。


 葉巻と煙草の産業で動いた者たち。


 記録する者。


 作る者。


 検品する者。


 運ぶ者。


 教える者。


 そこにはメガネ聖女と、スギナ・カワイを含む『セイントミステリア』の者たちもいる。


 さらに、パード・レオと『紅月の海賊ヴァンパイア』の者たちも顔を出していた。


 王宮の調理場から連れてこられたロアンは、大人数を前に少し緊張していた。


「人多いな」


 リリアーナが言った。


「第3章ですので」


 ミレーヌが答えた。


「メタいこと言うな」


 パードはロアンを見た途端、楽しそうに笑った。


「え、料理できる男子? いいじゃん」


 ロアンもパードを見て、姿勢を正した。


「美しい方に食べていただけるのであれば、料理人として光栄です」


「え、急に口説いてる?」


「料理を食べてくださる女性へ敬意を示しているだけです」


「パード、そーいうの好きー」


「お前ら、話進まへんぞ」


「黒王子、嫉妬?」


「ちゃうわ」


 スギナは胸の前で両手を組んでいた。


「パン。それは日々の糧。魂を支える、白き祈り……」


「パンや」


「白き祈りのパン……」


「包むな」


 アネイモが隣で淡々と言った。


「暴走は抑えます」


「頼む」


 メガネ聖女は、すでにロアンから工程を聞き取っていた。


「小麦粉の粒の粗さ、水分量、塩、こね方、休ませる時間、窯の温度。すべて確認が必要です」


「早いな」


「パンは工程です」


「分かっとるやんけ」


「葉巻と煙草も工程でしたので、経験が使えます」


「ええやん」


 ロアンはメガネ聖女がまとめた紙を見て、頭を下げた。


「これほど分かりやすく整理していただけるとは。ありがとうございます。私は粉と火しか見えておりませんでした」


「現場を分けて確認しているだけです」


「それができる方を、私は尊敬します」


「……ありがとうございます」


「誰にでもちゃんと敬意払うんやな」


 リリアーナが言うと、ロアンは不思議そうに顔を上げた。


「職人の技術は、その方が積み重ねてきた時間です。年齢や立場に関係なく、私が持っていない技術を持つ方には教えを請います」


「筋通っとるな」


「料理人として当然です」


 ワトゾンは記録用の紙を広げ、シャーホムズは粉袋を調べている。ネツゾウは工程表を作り始め、シュドケンは倉庫の粉を守る位置に立った。ゲンコワは不正な仕入れがないか帳簿を確認している。


 イレギュラーは、すでに市場の粉の噂を拾いに行こうとしていた。


「待て」


 リリアーナが止めた。


「まだ説明してへん」


「噂は早い方がいい」


「早いけど待て」


「分かった」


『紅月の海賊ヴァンパイア』の者たちも、好き勝手に見えて動きは早かった。


 キャプテントュリラーはリキュウと流通の話を始め、ティオは貴族向けの食卓について意見を出している。ゾンピグは海路と麦の輸送地図を広げ、チョップは食中毒対策をロアンへ伝えていた。


 ヨホークが粉袋へ手を伸ばすと、ロアンが慌てて止めた。


「お待ちください。それは乱暴に扱わないでください」


「粉袋だぞ」


「中身は、農家と製粉職人が作った大切な食材です。斬るものと同じように扱われては困ります」


 ヨホークが手を止める。


「……分かった」


「ありがとうございます。運ぶ時は底を支えてください」


「料理になると強いな」


 リリアーナが言った。


「食材を粗末に扱う方には、相手が誰でも申し上げます」


「ええやん」


 シャチは荷運びの邪魔になっていた樽を一瞬で退かし、ライガはすでに必要な道具を取りに走っている。ヘイオンは全体を見ながら配置を考え、スイチョは姿こそ見えないが、おそらくどこかからすべてを見ていた。


「……使えるな」


「使えます」


 リキュウが頷いた。


「リキュウ、お前がここのメンバーなん、ほんま分かるわ」


「ありがたきお言葉でございます」


「褒めてる時と、褒めてへん時があるからな」


「今回は褒めていただいたと受け取ります」


「強いな」


 ロアンは、周囲を見て固まっていた。


「私が、この人数をまとめるのですか……?」


「全部まとめろとは言ってへん」


「え?」


「お前は味を見る。火を見る。粉を見る。食べる人間を見る。周りは、それを支える」


 リリアーナが言うと、ロアンは息を止めた。


 メガネ聖女が頷く。


「工程は私が整理します」


 ワトゾンも紙を持ち上げた。


「記録は任せてください」


 リキュウは穏やかに微笑んでいる。


「仕入れと流通は、こちらで」


 パードが元気よく手を上げた。


「試食はパードもやるー」


「お前は食べたいだけやろ」


「でも、味分かるし?」


「ゲロマズ判定は早かったな」


「でしょ?」


 ロアンがパードへ微笑んだ。


「試食していただけるのであれば、必ず美味しいものをお出しします」


「ロアン、パードにだけ優しくない?」


「女性には、美味しいものを笑顔で食べていただきたいので」


「黒王子、ロアンもらっていい?」


「物みたいに言うな」


 スギナも目を輝かせた。


「私は、パンが美味しく焼き上がるよう祈ります」


「祈りすぎるなよ」


「存在がポーションですので」


「自分で言うな」


 ミレーヌが黒革手帖を開いた。


「役割分担は可能です」


「せやな」


 リリアーナは、集まった者たちを見渡した。


 モビーズ。


『セイントミステリア』の者たち。


『紅月の海賊ヴァンパイア』の者たち。


 王宮調理場のロアン。


 そして、これまで現場へ戻ってきた者たち。


 葉巻。


 煙草。


 工場。


 重要書類。


 レセプションパーティー。


 すべてが、彼らの力で形になった。


 だから、次もやる。


 リリアーナの小さな体が、ほんの少し前へ出る。


 その横では、黒スーツ姿の清司も刀を肩に担いだまま一歩前へ出た。


 ふわふわの姫と、黒スーツの若頭。


 二つの姿が、同じ現場を見渡している。


「葉巻と煙草。お前らの力は、思ってた以上の結果やった」


 モビーズが息を呑んだ。


『セイントミステリア』の者たちも、『紅月の海賊ヴァンパイア』の者たちも静かに聞いている。


「工場が動いた。商いが動いた。貧民街にも金が回り始めた。重要書類も守った。レセプションも成功した。注文も捌いた」


 リリアーナの声は淡々としていたが、その奥には熱があった。


「やから」


 一拍置く。


「お前らなら、できる」


 誰も笑わなかった。


「今度は、毎日の飯や」


 ロアンが顔を上げた。


「パンが不味い。飯が弱い。食卓が弱い。そこを叩き直す」


 黒スーツ姿の清司は刀を肩に担いだまま、集まった者たちを見ている。


「お前らの力、見せたれ。パン作るぞ」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、モビーズの声が揃った。


「はい!」


「記録します!」


「工程を組みます!」


「粉を確認します!」


「窯を見ます!」


「仕入れを調べます!」


「市場を探ります!」


「海路も見ます!」


「試食するー!」


「祈ります!」


「祈りすぎるな!」


 現場が動き始めた。


 早い。


 誰にも迷いがない。


 もう、誰も背景ではなかった。


 それぞれが、自分の持ち場を分かっている。


 ロアンも胸の前で拳を握った。


「やります」


「声小さいぞ」


 ロアンは、周囲の料理人や職人たちを見た。


「皆様の技術を、どうか私に貸してください。必ず、食べる方が笑顔になるパンを作ります!」


「ええやん」


 リリアーナは頷いた。


 それだけで、ロアンの背筋がさらに伸びた。


 スギナは、リリアーナの横に立つ黒スーツ姿の清司を見つめている。


 パードも同じだった。


 ふわふわの姫の隣に立つ、刀を担いだ黒い男。


 甘い乙女ゲームの光から、一人だけ外れたような存在。


 パードは頬を緩ませた。


「やっぱ黒王子、超タイプ」


 スギナも胸の前で両手を組む。


「黒き運命の守護者様は、私の魂が見つけた攻略対象です」


「え、待って。黒王子はパードの攻略対象なんだけど」


「いいえ。魂の波動が、私に告げています」


「パードも顔面と中身に告げられてるし」


「それは波動ではありません」


「刺さった時点で波動っしょ」


「真似しないでください」


「ウケる」


 リリアーナは二人の会話を聞き流し、粉袋へ顔を向けた。


「粉の種類、全部並べろ。水の量も変えて試すぞ」


「はい!」


「窯の温度も記録しろ」


「はい!」


「ロアン、お前は全部味見して判断せぇ」


「承知しました。ただし、まずは製粉職人と窯番の方から話を聞かせてください。この場所を一番知っているのは、私ではありません」


「ええ判断や」


「ありがとうございます」


「メガネ聖女、工程表」


「すぐに作ります」


「リキュウ、粉の仕入れ」


「承知しました」


「ゾンピグ、海路で麦の産地を調べろ」


「パード様のためなら」


「俺の指示や」


「黒王子のためにも」


「増やすな」


 現場は次々に動いていく。


 ヒロインたちの火花より、パンの方が優先だった。


 ミレーヌが黒革手帖を開く。


「清司さん」


「なんや」


「攻略対象にされました」


「おい、俺ふわ姫やぞ」


「記録します」


「するな」


 パードが楽しそうに笑った。


「黒王子、攻略対象っぽいもん」


 スギナも深く頷いている。


「黒き運命の守護者様は、選ばれし存在です」


「拾わんぞ」


 リリアーナは粉袋を見た。


「まず粉や。パンが先や。恋愛フラグは後や」


「後にはあるんですね」


「ない」


 ミレーヌは黒革手帖へ何かを書き込み、静かに閉じた。


 リリアーナは額に手を当てた。


 パンを作るだけだった。


 いや、パンを作るだけではない。


 国の食卓を変える。


 人々の毎日の食事を変える。


 それは確かに、大きな現場だった。


 だが、なぜ自分が攻略対象になっているのかは分からない。


 分からないが、現場はもう動き始めている。


 粉が運ばれ、窯が確認され、水の量が測られる。工程表が作られ、仕入れの相談が始まり、海路の地図が広げられていく。


 その中心では、ロアンが先輩料理人と製粉職人へ頭を下げながら、一つずつ話を聞いていた。


 普段は控えめな料理人だった。


 女性には甘い。


 職人には謙虚。


 食材を粗末に扱う者には、相手が誰でも譲らない。


 料理のことになれば、筋を通して前へ出る。


 清司が見つけたのは、ただ美味しい料理を作れる男ではなかった。


 人の食卓を背負える料理人だった。


 葉巻と煙草の次は、パン。


 嗜好品の次は、食卓。


 パン改善が始まった。


 そして元若頭は、いつの間にかヒロインたちから攻略対象として狙われ始めていた。

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