第29話 セイント・ミステリア
春の交流会は。
思っていた以上に、順調だった。
会場の中央では、レイナが総括席に立ち、扇を片手に全体を見渡している。
「エミール様。北側の座席ですが、仲の悪い貴族家同士が近すぎますわ」
「ほんとだ! 二列ずらすね!」
エミールは返事をするなり、配置表を抱えて走り出した。
「レオン様。入口が詰まり始めています」
「僕に任せて!」
レオンが高く手を上げる。
「入口、一回止めるよー!」
「はーい!」
「中央、先に進んでー!」
「分かったー!」
合図を受けた警備員たちが、一斉に動いた。
「ノエル様。皆様の視線を中央へ集めてくださいませ」
「やっと僕ー!?」
ノエルが両手を広げ、ぱっと笑う。
「みんなー! 僕を見てー!」
「言い方を変えてくださいませ」
「じゃあ、僕の向こうを見てー!」
「それで結構ですわ」
「僕、見られなくない?」
「持ち場をお願いいたします」
「はーい!」
ノエルが中央へ飛び出すと、会場中の視線が一気にそちらへ向いた。
「セシル様。初参加の方が、壁際で孤立しかけていますわ」
「届いたよぉー!」
セシルが大きく手を上げる。
「早く届けに行ってくださいませ」
「笑顔なんて僕のオハコじゃーん!!」
セシルは、くるりと一回転した。
「まっかせなしゃい☆」
「回らなくて結構ですわ」
「ちゃんとやるよぉー!」
びしっと孤立していた参加者を指差す。
「君に届け!!」
「何を届けるんや」
リリアーナが言った。
「安心と笑顔ぁー!」
「声量で怖がらせんなよ」
「大丈夫ぅー!」
まったく大丈夫に見えない勢いで、セシルは走っていった。
「アレクシス様。ローズセレモニーは三分後ですわ」
「やった! 僕の美の時間!」
アレクシスが、花束を抱えて目を輝かせる。
「通路は塞がないでくださいませ」
「美しく塞がないよ!」
「普通に塞がないでくださいませ」
「はーい!」
「返事だけは素直ですわね」
「僕、いい子だからね!」
「ご自身でおっしゃらないでくださいませ」
「ルシアン様。フローズンの減りが早いですわ」
「もう冷やしてるよ!」
ルシアンは、両手の間へ冷気を集めた。
「ダークコールド、解放!」
「解放しすぎないでくださいませ」
「ちゃんと加減してる!」
「甘さは」
「控えめ!」
「温度は」
「お腹を壊さない冷たさ!」
「結構ですわ」
「僕、冷蔵担当だからね!」
「気に入っていらっしゃるのですね」
「うん!」
レイナは、優雅に扇を閉じた。
やっていることは、完全に現場総括だった。
春の交流会とは、本来。
乙女ゲーム序盤における、甘い恋愛イベントである。
攻略対象と出会い。
偶然手が触れ。
ローズを受け取り。
大階段ですれ違う。
しかし現在。
大階段は、車椅子も荷車も通れる道になった。
ローズは、時間と場所を管理されている。
攻略対象たちは、全員スタッフである。
恋より。
運営だった。
「思ったより回っとるな」
リリアーナは、車椅子から会場を見渡した。
その隣では、黒スーツ姿の清司が刀を肩へ担ぎ、全体の動きを見ている。
レオンが合図を出す。
エミールが配置表を直す。
エリオットが来賓を集める。
ノエルが視線を引きつける。
セシルが、笑顔と声量で孤立した者を拾う。
アレクシスが、気難しい来賓へローズを渡す。
ルシアンが、冷たい飲み物を補充する。
全員。
朝から、やたら楽しそうだった。
「右側の来賓、まだ来てないよー!」
エリオットが、会場の端から手を振った。
「集めてこい!」
「うん! 僕、集める!」
「グループデートちゃうぞ!」
「やべ! バレてた! テヘヘ!」
「前の話や!」
「今度はちゃんと仕事だよー!」
エリオットは笑いながら、来賓を迎えに走っていった。
「やればできるやんけ」
リリアーナが言った。
黒スーツ姿の清司も、刀を肩へ担いだまま、ほんの少し口元を上げた。
その時だった。
「あ……」
会場の端から、小さな声が聞こえた。
白いシスター服の少女が、入口で立ち止まっている。
柔らかな髪。
大きな瞳。
頬には、ふんわりとした桃色。
周りだけ、きらきらと光って見える。
異様に可愛い。
その後ろには。
探偵のような男。
助手のような青年。
神父。
シスター。
異端審問官。
修道騎士。
聖歌隊らしき青年。
そして、書類を大量に抱えた男。
情報量が多かった。
「新しい人たち来たー!」
ノエルが、真っ先に駆け寄ろうとする。
「待て!」
「僕、案内するよ!」
「まだ何者か分かってへん!」
「でも可愛いよ?」
「判断基準を顔にすな!」
「僕も可愛いもん!」
「張り合うな!」
白いシスター服の少女は、リリアーナを見ていなかった。
その隣に立つ。
黒スーツ姿の清司を、まっすぐ見つめていた。
「黒き運命の守護者様……」
「あっ」
リリアーナが言った。
黒スーツ姿の清司が、刀を肩から下ろす。
「見えるんか」
少女は両手を胸の前で組み、瞳を輝かせた。
「見えます」
「愛と光の波動が」
「魂の星屑を通して」
「私の内なる月へ届いています」
「だいぶスピってんな」
「清司さん」
ミレーヌが静かに黒革手帖を開いた。
「おそらく、黒スーツ姿の清司さんが見えています」
「それは分かる」
会場の端では、ロイヤルフラグメントの面々が集まっていた。
「何あれ!?」
エミールが目を輝かせる。
「新しい乙女ゲームじゃない!?」
エリオットが楽しそうに言った。
「やったー! 新しい人たちだ!」
レオンが両手を上げる。
「僕より可愛い?」
ノエルが頬を膨らませる。
「別の可愛さじゃーん!」
セシルが少女を見て笑った。
「君に届いてるぅー!」
「何がや」
「新しい物語!」
「勝手に始めんな!」
アレクシスは少女を見つめ、真剣に頷いた。
「美の種類が違うね」
「分析すな」
「彼女は光」
自分の胸へ手を当てる。
「僕は美」
「張り合っとるやんけ」
「分類だよ!」
ルシアンが冷たい杯を持ったまま首を傾げた。
「冷やした方がいい?」
「何を冷やすねん」
「会場の熱」
「お前だけ現場見てるな」
「冷蔵担当だからね!」
「気に入りすぎやろ!」
白いシスター服の少女は、リリアーナたちの前まで歩いてくると、ふわりと頭を下げた。
「はじめまして」
「私は」
「香湧井 澄喜菜と申します」
「かわい……」
リリアーナは、名前を頭の中で繋げた。
「西洋では、スギナ・カワイと呼ばれています」
「かわいすぎな」
「はい」
「そのまんまやんけ」
スギナ・カワイは、にこっと笑った。
その瞬間。
近くにいた男子生徒と使用人たちの背筋が、一斉に伸びた。
「スギナ様……可愛い……」
「なんか、やる気出てきた……」
「俺、椅子運びます!」
「私は飲み物配ってきます!」
「僕、掃除してきます!」
数人が急に走り出した。
「なんや今の」
リリアーナが目を丸くする。
「士気が上がりました」
ミレーヌが記録しながら答えた。
「顔で?」
「顔で」
「強いな」
「僕もできるよ!」
ノエルが前へ出た。
「みんなー! 僕、可愛いよー!」
誰も動かなかった。
「なんで!?」
「持ち場へ戻れ」
「ひどーい!」
スギナは、両手を広げた。
「大丈夫です」
「私の可愛さは」
「宇宙から授かったギフトですから……」
「やっぱりスピってんな」
「でも、有能です」
ミレーヌが言った。
「それは分かる」
スギナは、黒スーツ姿の清司を見つめたまま、頬を赤くした。
「黒き運命の守護者様」
「私たちは」
「愛と光に導かれて」
「この場所へ参りました」
「ちゃうと思う」
「清司さん」
「なんや」
「別の乙女ゲームが侵入してきた可能性があります」
「もっとちゃうやんけ」
エリオットが、嬉しそうに手を上げた。
「コラボじゃない!?」
「ソシャゲみたいに言うな!」
「期間限定かな!?」
エミールも表を持って駆け寄ってくる。
「表に追加しなきゃ!」
「仕事が早いな!」
「新しい人材だよ!」
「もう人材として見とるやんけ!」
「だって、リリアーナも見るでしょ?」
「見るけどな!」
「やっぱりー!」
「喜ぶな!」
スギナは、後ろに並んだ者たちを振り返った。
「みんな」
「黒き運命の守護者様へ」
「愛と光のご挨拶を」
「普通の挨拶でええ!」
探偵風の男が、堂々と一歩前へ出た。
「シャーホムズ」
「真実を見抜く者です」
「探偵だー!」
エリオットが拍手する。
「格好いい!」
レオンも目を輝かせる。
「何見抜くの!?」
ノエルが身を乗り出す。
「僕の可愛さ!?」
「お前ら静かにせぇ!」
リリアーナが一喝すると、ロイヤルフラグメントの全員が口を閉じた。
だが。
目だけは、きらきらしていた。
「シャーホムズ」
「はい」
「事件調査、証拠の管理、偽物の見分け、契約書の確認。できるか」
「できます」
「採用」
「早っ!」
エミールが声を上げる。
「もう決まった!」
「絶対使えるもん!」
「次」
「はーい!」
なぜかロイヤルフラグメントが返事をした。
「お前らちゃう!」
助手風の青年が、慌てて一歩前へ出る。
「ワトゾンです」
「観察と記録を担当しています」
「記録仲間です」
ミレーヌが静かに言った。
「仲間増えたね!」
エミールが嬉しそうに手を叩く。
「現場メモや」
リリアーナが言った。
「聞き込み、記録、日誌、作業報告。できるか」
「できます」
「採用」
「また早い!」
「僕も採用したーい!」
ノエルが手を上げる。
「お前に人事権ない!」
「じゃあ僕、応援する!」
「それもいらん!」
小柄な少年が、にやっと笑った。
「イレギュラー」
「裏の噂なら、少々」
「名前格好いい!」
レオンが身を乗り出す。
「僕もイレギュラーになりたい!」
「命捨てんようになったばっかりやろ!」
「じゃあ、合図のイレギュラー!」
「意味分からん!」
リリアーナは、小柄な少年を見る。
「裏取り、噂拾い、不審者確認」
「できるな」
「得意だよ」
「採用」
「やったー!」
ロイヤルフラグメントの面々が、なぜか一斉に喜んだ。
「お前らの採用ちゃうぞ!」
「仲間増えるの楽しいじゃん!」
エリオットが笑う。
「交流会だもん!」
「人材交流会になっとるわ!」
神父らしき男が、静かに頭を下げた。
「チンプと申します」
「神父か」
「はい」
「懺悔室で、人々の話を聞いております」
「聞き取りやな」
「聞き取り」
「悩み、苦情、内部の不安、噂の入口」
「全部拾え」
チンプは少し考え、穏やかに頷いた。
「それは、教会の務めにも近いですね」
「採用」
「神父さんも来たー!」
セシルが両手を広げる。
「笑顔なんて僕のオハコじゃーん!!」
「お前の出番ちゃう!」
「歓迎を届けるぅー!」
「まだ待て!」
シスターらしき女性が、苦笑しながら前へ出た。
「アネイモです」
「実務やな」
「まだ何も申し上げておりませんが」
「顔が実務や」
「顔で分かるのですか?」
「分かる」
アネイモの手には。
名簿。
救護用品。
筆記具。
予備の布。
すべて、きれいにまとめられていた。
「ほんとだ! 実務だ!」
エミールが感動する。
「すごい! 全部持ってる!」
「僕、何か借りたい!」
ノエルが手を伸ばす。
「何を借りんねん!」
「分かんない!」
「ほな触るな!」
リリアーナはアネイモを見た。
「教会内の調整」
「スギナの補助」
「物資管理」
「女子側の聞き取り」
「できるか」
「できます」
「採用」
「やったぁー!」
また、ロイヤルフラグメントが喜んだ。
「何でお前らが一番喜ぶねん!」
「楽しいから!」
「新しい仲間だよ!」
「僕、案内する!」
「僕、笑顔届ける!」
「僕、美しく迎える!」
「僕、冷やす!」
「最後の奴、何を冷やすねん!」
黒い服を着た厳格そうな男が、ゆっくり前へ出た。
「ゲンコワ」
「異端を問う者です」
ロイヤルフラグメントの面々が、ぴたりと止まった。
「怖っ!」
ノエルがエリオットの後ろへ隠れる。
「兄さん、前行って!」
「僕も怖いよ!」
「王太子でしょ!」
「今だけ双子!」
「都合ええな!」
リリアーナはゲンコワを見る。
「尋問やな」
「尋問」
「ただし」
「やりすぎるな」
「証拠に基づいて聞け」
「承知しました」
「採用」
「採用するんだ!?」
エリオットが目を丸くする。
「使い方さえ間違えへんかったら有能や」
「僕、尋問されたくない!」
「悪いことすんな」
「グループデートは?」
「済んだ話にすな!」
「テヘヘ!」
「次!」
鎧を着た修道騎士が、胸へ手を当てた。
「シュドケンです」
「護衛と警備を担当しております」
「騎士だー!」
レオンが目を輝かせる。
「一緒に合図出す!?」
「私は護衛を」
「じゃあ、僕が合図出すね!」
「勝手に組むな!」
リリアーナはシュドケンの鎧と足元を見た。
「権利書の保管場所」
「煙草倉庫」
「運搬時の護衛」
「守れるか」
「命に代えても」
「命に代えるな」
「はい?」
「生きて守れ」
シュドケンは、一瞬だけ目を見開いた。
レオンが、すぐに隣へ並ぶ。
「そうだよ!」
「命は捨てない!」
「周りを見て、ちゃんと守るんだよ!」
「お前が言えるようになったんやな」
「うん!」
シュドケンは、レオンを見たあと。
静かに頷いた。
「承知しました」
「生きて守ります」
「採用」
「やった!」
レオンが自分のことのように喜んだ。
聖歌隊らしき青年が、柔らかく一礼する。
「ゴスペルです」
「祈りの歌で、場を鎮めます」
「歌うの!?」
セシルが飛びついた。
「僕も歌うぅー!」
「お前は受付や!」
「君に届けぇー!」
「歌で届けんな!」
ゴスペルは、少し困ったように笑った。
「歌で、人の心を落ち着かせることはできます」
「士気上げやな」
「祈りの歌ですが」
「現場では士気上げや」
「僕、踊る!」
ノエルが手を上げる。
「踊らんでええ!」
「僕、美しく舞台作る!」
「まだ頼んでへん!」
「フローズンも置く?」
「祭りにすな!」
リリアーナは、騒ぐロイヤルフラグメントを無視してゴスペルを見る。
「現場が荒れた時」
「疲れた時」
「不安が広がった時」
「歌えるか」
「できます」
「採用」
「歌の人も来たー!」
「みんなで歌おー!」
「仕事せぇ!」
最後に。
大量の書類を抱えた男が、前へ出た。
「ネツゾウです」
「時系列整理と、アリバイ確認を担当しております」
リリアーナは、黙った。
黒スーツ姿の清司が刀を肩から下ろし、眉間に深い皺を寄せる。
ロイヤルフラグメントの面々も、静かになった。
「名前やばくない?」
エミールが小声で言う。
「証拠扱っちゃ駄目な名前じゃん!」
エリオットもひそひそ声で続ける。
「絶対何かするよ!」
ノエルが目を見開く。
「名前で決めつけたらあかん!」
リリアーナが言った。
「でも、ネツゾウだよ?」
「俺も思っとるわ!」
ネツゾウは、慣れた様子で頭を下げた。
「よく言われます」
「証拠扱う側で、ネツゾウはあかんやろ」
「ですが、時系列は正確です」
「余計ややこしいわ」
ミレーヌが、静かに記録する。
『ネツゾウ。
担当:時系列整理、証言照合、アリバイ確認。
注意:名前が疑わしい。』
「注意書きが失礼では」
「重要ですので」
「採用は?」
「どうするの!?」
ロイヤルフラグメントが、全員で身を乗り出した。
「採用する!?」
「しない!?」
「どっち!?」
「早くー!」
「お前らが一番うるさい!」
リリアーナはネツゾウを見た。
「証言、勝手に変えへんな?」
「変えません」
「書類、作り直さんな?」
「訂正は記録を残します」
「都合のええ時系列にせぇへんな?」
「事実に基づきます」
「……採用」
「やったぁー!!」
ロイヤルフラグメントの歓声が、会場へ響いた。
「なんでお前らが喜ぶねん!」
「全員採用されたから!」
「新しいチームだね!」
「楽しそう!」
「僕、案内する!」
「僕、人集める!」
「僕、笑顔届けるぅー!」
「僕、美しくする!」
「僕、冷やす!」
「僕、表作る!」
「僕、合図出す!」
「うるさぁい!!」
春の交流会の参加者たちが、一斉に振り返った。
ノエルが、すぐに笑顔で手を振る。
「みんなー! 気にしないでー!」
「余計目立たせるな!」
新しく現れた者たちは。
『セイント・ミステリア 〜可愛すぎる聖堂探偵〜』
教会。
探偵。
聖職者。
可愛すぎるシスター。
それらが一つに詰め込まれた、別の乙女ゲームの登場人物だった。
ロイヤルフラグメントとは。
まったく別の乙女ゲームである。
「新しいゲーム入ってきたー!」
エリオットが嬉しそうに叫ぶ。
「ええんか、これ!」
「僕たちのゲームとコラボだね!」
「勝手にコラボすな!」
「期間限定!?」
ノエルが目を輝かせる。
「限定衣装ある!?」
「ない!」
「僕、シスター服似合うよ?」
「着るな!」
「僕は神父服かな!」
セシルが胸へ手を当てる。
「笑顔なんて僕のオハコじゃーん!!」
「神父関係ない!」
「君に祈りを届けるぅー!」
「黙れ!」
リリアーナは、セイント・ミステリアの面々を順番に見た。
「シャーホムズ」
「ワトゾン」
「イレギュラー」
「チンプ」
「アネイモ」
「ゲンコワ」
「シュドケン」
「ゴスペル」
「ネツゾウ」
「お前ら」
「モビーズと組め」
「モビーズ?」
シャーホムズが聞き返す。
「元モブがムーブする集団や」
「説明が雑ですね」
「だいたい合っとる」
「僕たちも手伝うよ!」
エリオットが元気よく手を上げる。
「お前らは交流会運営や!」
「終わったら手伝う!」
「僕もー!」
「僕も行く!」
「楽しそう!」
「遊びちゃうぞ!」
「ちゃんとやるもん!」
「なら持ち場戻れ!」
「はーい!」
返事だけは、驚くほどよかった。
リリアーナは、セイント・ミステリアの面々へ向き直る。
「葉巻と煙草の現場や」
「これから、権利書」
「品質」
「倉庫」
「運搬」
「契約」
「噂」
「妨害」
「全部増える」
黒スーツ姿の清司は刀を肩へ担ぎ、彼らを一人ずつ見ていた。
「守る奴がいる」
「調べる奴がいる」
「聞く奴がいる」
「記録する奴がいる」
リリアーナは、まっすぐ彼らを見た。
「お前ら」
「使える」
スギナの瞳が、さらに輝いた。
「喜んで!」
両手を胸の前で組む。
「黒き運命の守護者様のためなら」
「私の愛と」
「光と」
「可愛さを」
「現場へ届けます!」
「だいぶスピってんな」
「でも有能です」
ミレーヌが淡々と言った。
「可愛さで士気が上がるのは、現場への強力な支援になります」
「顔で支援すな」
「ノエル様より効果があります」
「なんで僕と比べるの!?」
ノエルが走ってくる。
「僕も可愛いよ!」
「存じております」
「じゃあ、僕も士気上げる!」
「今は視線誘導をお願いいたします」
「はーい!」
ノエルは、また中央へ走っていった。
スギナが、くるりと仲間たちを振り返る。
「みんな」
「愛と光の波動で」
「現場へ参りましょう」
「はい、スギナ様」
「真実を見抜きます」
「記録します」
「守ります」
「歌います」
「アリバイを整えます」
「最後、言い方気ぃつけろ」
ネツゾウが静かに頷く。
「アリバイを確認します」
「それでええ」
会場の端では、レイナが扇を開いたまま、じっとスギナを見ていた。
「姫様」
「なんや」
「あの方」
「清司様を見ておりますわ」
「見えとるからな」
「いいえ」
レイナは、扇の隙間からスギナを見る。
「恋する目で」
「やめろ」
「黒き運命の守護者様ー!」
スギナが、遠くから両手を振った。
「愛と光!」
「届いていますかー!」
「届かんでええ!」
リリアーナが叫んだ。
スギナは、嬉しそうに胸へ手を当てる。
「届きました……!」
「なんでや!」
「すごーい!」
エリオットが拍手する。
「リリアーナ、別のゲームでも攻略対象になったじゃん!」
「なってへん!」
「人気者だね!」
レオンも笑う。
「僕たちの仲間だもん!」
「勝手に仲間アピールすな!」
「僕の方が可愛いよ!」
ノエルがスギナへ張り合う。
「そこ張り合うな!」
アレクシスは、真剣な顔で二人を見比べていた。
「彼女は光」
「ノエルは、きゅるきゅる」
「僕は美」
「分類続けんな!」
ルシアンが、霜のついた杯を差し出す。
「飲んで」
「お前は平和やな」
「平和じゃないよ」
ルシアンは、会場を見渡した。
「全体の熱が上がってる」
「そこ見るんか」
「熱は判断を鈍らせるからね」
「飲み物係の顔ちゃうぞ」
「僕、冷蔵対象だから!」
「そこ気に入ったんか」
「うん!」
セシルが、満面の笑顔で近づいてきた。
「別の世界にも届いたねぇー!」
「何がや」
「君の魅力ぃー!」
「届かんでええ!」
「笑顔なんて僕のオハコじゃーん!!」
「聞いてへん!」
「ちゃんと応援するよぉー!」
セシルが、スギナへ向かって両手を振る。
「君に届け!!」
「増やすなぁ!」
その間も。
レオンは合図を出す。
エリオットは来賓を集める。
エミールは、新しい配置表へセイント・ミステリアの名前を書き加える。
ノエルは中央で視線を集める。
セシルは笑顔を届けすぎる。
アレクシスはローズを配る。
ルシアンはフローズンを補充する。
春の交流会は。
もう、恋愛イベントではなかった。
新しい乙女ゲームまで巻き込んだ。
完全な人材発掘会だった。
ミレーヌが、黒革手帖を閉じる。
「清司さん」
「なんや」
「別の乙女ゲームのヒロインから、攻略対象として認識されたようです」
「なんでそうなるんや」
「乙女ゲームですので」
「俺は姫の中身やぞ」
「非常に珍しい攻略対象です」
「攻略するな」
「黒き運命の守護者様ー!」
スギナが、また両手を振った。
「現場へ行ってまいりまーす!」
「おう!」
リリアーナが反射的に返事をする。
スギナは、その場で固まった。
頬を真っ赤にする。
「お返事を……」
「いただきました……!」
「ちゃう!」
「愛と光が!」
「届きましたー!」
「ちゃう言うとるやろ!」
「やったぁー!」
なぜか、ロイヤルフラグメントまで歓声を上げた。
「リリアーナ、攻略成功!」
「おめでとー!」
「新しい仲間ー!」
「僕も見てー!」
「笑顔なんて僕のオハコじゃーん!!」
「美しい出会いだね!」
「フローズンで祝う?」
「祝うなぁ!!」
こうして。
ロイヤルフラグメントは、楽しく愉快に春の交流会を運営し。
新たに現れた『セイント・ミステリア 〜可愛すぎる聖堂探偵〜』の面々は。
葉巻と煙草産業を守る監査チームとして。
そのまま現場へ送られることになった。
そして清司は。
別の乙女ゲームのヒロインから。
黒き運命の守護者として。
しっかり攻略対象にされていた。
「なってへん!!」




