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ふわ姫若頭 〜恋愛フラグを全部現場復帰させたら、女王ルートが開きました〜  作者: 夜嶋朔
第二章 学園現場復帰編

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第22話 セシル王子

 

 翌朝。


 リリアーナとミレーヌは、王立学園の正門前にいた。


「……でかいな」


 門の向こうには、白い校舎へ続く大階段がそびえている。


 階段の両脇には彫像が並び、中央には学園の紋章まで刻まれていた。


「王族や上位貴族が通う学園ですから」


「毎日これ上んのか」


「皆さま、馬車を降りてから上っておられます」


「車椅子は?」


「裏門にスロープがあるそうです」


「正面から入られへんのかい」


 リリアーナが大階段を見上げた、その時だった。


「リリアーナぁぁぁあーー!!」


「うるさっ!」


 大階段の上から、金色の髪を揺らした男が駆け下りてくる。


 一段飛ばし。


 二段飛ばし。


 途中で教師へ手を振り、生徒から渡された紙を受け取り、落ちていた本まで拾い上げる。


「先生! これ職員室に持っていくね! マルク、昨日の試合勝った? よかったね! その本、君のでしょ? はい! あっ、階段走ったら危ないよ!」


「お前が一番走っとるやないか!!」


 男は最後の三段を飛び越え、リリアーナの前へ着地した。


「久しぶりぃぃいいーー!! 元気だったぁ? 僕はこの通り!」


 ぱちん。


 セシルがウインクした。


「もう走れるでしょぉ!! 一緒に走ろ! 君に届け!」


「車椅子見えてへんのか!!」


「青春!」


「いらん!」


「友情!」


「間に合っとる!」


「風!」


「自分で浴びとけ!」


 セシルが両腕を広げた。


「最高ぉう!」


「でたーーー!!」


 リリアーナがセシルを指した。


「エリオットらが言うてたセシルってこいつか!!」


「僕の話してたの? 嬉しい! 最高ぉう!」


「二回言うな!!」


「リリアーナ、元気になったね!」


「お前が怒鳴らせとんねん!」


「声も大きくなった!」


「誰のせいや!!」


 セシルが笑っている間にも、生徒たちが次々と集まってきた。


「セシル殿下、講堂の鍵が見つかりません!」


「二番目の棚の奥だよ!」


「昨日お願いした球技場は?」


「昼から西側を空けてもらったよ!」


「この書類、どこへ出せばいいですか?」


「事務室! でも今は混んでるから三十分後がいいよ!」


「セシル、先生が呼んでた!」


「あとで行くって伝えて!」


「殿下、寮までの道を教えてください」


「初めて見る顔だね! 一年生? エリス、一緒に連れていってあげて!」


「わかった!」


「セシル様、昨日足を痛めた子が」


「ノエルに診てもらって! 歩かせないでね!」


「あの、落とし物が」


「それ僕の!」


「お前のもんまで混ざっとるやないか!!」


 セシルは笑顔のまま、十人ほどへ次々と返事を飛ばしている。


 誰一人として呼び方を変えない。


 教師にも。


 上級生にも。


 初対面の一年生にも。


 同じ距離だった。


「待て待て待て待て!」


「何?」


「今、何人相手してんねん!」


「みんな?」


「数で答えろ!」


「数えたことない!」


「距離感も人数感覚も壊れとるやないか!!」


 ミレーヌの筆が走る。


「記録です」


「何書いとんねん」


「セシル殿下。同時対応人数、十名以上。身分による距離調整なし。初対面も即座に友人として扱う」


「友達でしょ?」


「今会ったばっかりの奴おったやろ!」


「今会ったから、もう友達だよ!」


「距離詰める速度が暴力や!!」


 それでも、セシルが答えた内容に間違いはなかった。


 講堂の鍵も。


 球技場の予定も。


 事務室が混む時間も。


 足を痛めた生徒のことまで覚えている。


 リリアーナはセシルを見た。


「……アホやけど、めちゃくちゃ使えるな」


「褒められた! 最高ぉう!」


「そこだけ聞くな!」


 セシルは車椅子の後ろへ回った。


「じゃあ、中を案内するね!」


「正面から入れんのやろ」


「スロープがあるよ!」


「裏門やろ?」


「うん!」


「なんで元気に答えられんねん」


 セシルに押され、リリアーナたちは校舎の横へ回った。


 大階段の脇を抜ける。


 庭園を越える。


 倉庫の横を通る。


 さらに細い道を進む。


「遠ない?」


「もう少し!」


「正門から何分かかんねん」


「急いだら五分!」


「車椅子で急がれへんから聞いとんねん!」


「ゆっくりなら十五分かな!」


「授業始まるわ!!」


 ようやく裏門へ着いた。


 そこには、校舎の裏口へ続く細いスロープがあった。


 幅は車椅子一台分。


 途中で急に傾斜がきつくなり、最後には小さな段差まで残っている。


 リリアーナは黙って見つめた。


「……これか?」


「うん!」


「終わっとるやないか!!」


「一応、上まで行けるよ!」


「一応で人乗せんな!!」


 ミレーヌがしゃがみ込み、傾斜を確認する。


「一人で上るのは難しいですね」


「雨の日は滑るやろ」


「滑るよ!」


「知っとんのかい!!」


「この前、先生が転んでた!」


「直せや!!」


 リリアーナはスロープの端へ手を置いた。


 木材は古く、ところどころ傷んでいる。


「苦情出てへんのか」


「出てるよ」


「ほな、なんでこのままや」


「正面に新しいスロープを作ろうって話は何回も出たんだけどね」


 セシルが大階段を振り返る。


「景観が崩れるとか、伝統ある階段に手を加えるなとか、格式がなくなるとか。毎回そこで止まるんだ」


「誰が止めとる」


「学園の偉い人たちと、一部の貴族かな」


「苦情は?」


「ずっと出てるよ。足が悪い子も、怪我した子も、裏から入るしかないから」


 リリアーナは大階段を見た。


 白い石。


 立派な彫像。


 中央に刻まれた大きな紋章。


「癌はあれか」


「階段が?」


「ちゃう」


 リリアーナは車椅子の肘掛けを握った。


「あれを守るために、人を後ろへ回しとる奴らや」


 黒い手袋をした清司が、隣で大階段を見上げている。


「正面にスロープ作るぞ」


「作るの?!」


「当たり前や。誰でも正面から入れるようにせぇ」


「でも、また苦情が来るよ」


「王から許可は取ってある」


 ミレーヌが黒い手帳を開いた。


「学園内の調査及び改善について、国王陛下の許可を得ております」


「記録もあります」


「記録は武器ですので」


 セシルの目が輝いた。


「すごい!」


「まだ何もしてへん」


「でも作るんでしょ?」


「作る」


「みんな正面から入れる?」


「入れるようにする」


「じゃあ最高ぉう!!」


 大階段の上から声がした。


「何が最高なのー?」


 エリオットが手を振りながら下りてくる。


 その後ろには、レオン、ノエル、エミール、ルシアン、アレクシスもいた。


「正面にスロープを作るんだって!」


「ほんとに?」


「やっと作るのか!」


「怪我をした生徒も安心だね」


「設計図が必要だね」


「予算も確認しないと」


「階段の美しさを残したまま作れるよ」


 六人が次々と大階段を見上げる。


 リリアーナは全員の顔を見た。


「お前ら、手伝え」


「もちろん!」


「学園全部巻き込むぞ」


「うん!」


「苦情出してきた奴らには、俺が話つけたる」


「頼もしいね!」


 リリアーナは大階段を指した。


「正面に、でっかいスロープ作るぞ!」


 ロイヤルフラグメントが一斉に両腕を上げた。


「最高ぉう!!」


 七人の声が、王立学園中へ響いた。

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