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ふわ姫若頭 〜恋愛フラグを全部現場復帰させたら、女王ルートが開きました〜  作者: 夜嶋朔
第二章 学園現場復帰編

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第21話 葉巻、吸いたい


 説明しよう!


 リリアーナは、学園へ戻るため、父王陛下に面会した!


 目的は、車椅子での学園復帰と、

 専属侍女ミレーヌの学園同行許可!


 その結果!


 父王は前世のオヤジで!

 王妃は前世の姐さんで!

 ミレーヌは清司の相棒として王家認可された!


 つまり!


 恋愛イベントの準備をしに来たはずが、

 前世の親分夫婦に相方を認められるという、

 乙女ゲームとは思えない第一章ラストを迎えたのである!


「雑に説明すな」


 リリアーナの口から、低い声が漏れた。


 横に立つ黒スーツ清司も、まったく同じ顔で眉間に皺を寄せている。


 ミレーヌは、黒革手帖を開いた。


『第一章終了時点。

父王陛下:前世のオヤジ。

王妃殿下:前世の姐さん。

ミレーヌ:王家認可相棒。

乙女ゲーム要素:減少傾向』


「最後いらん」


「重要ですので」


「重要なんか」


 父王は、王の顔のまま、静かに頷いていた。


 その横に立つ茶色いダブルスーツのオヤジは、腕を組み、満足そうに清司を見ている。


 王妃は優雅に微笑み、その横の黒地の和服姿の姐さんは、涼しい目でミレーヌを見ていた。


 話は終わった。


 はずだった。


「あ、あとな」


 父王が言った。


 その瞬間、黒スーツ清司の眉が動いた。


 リリアーナの眉も、同じように動く。


「……なんですか」


 嫌な予感しかしない声だった。


 父王は、重々しく告げた。


「葉巻、吸いたい」


 部屋が静かになった。


 黒スーツ清司が、ゆっくり父王を見た。


 父王の横のオヤジは、堂々としている。


 あまりにも堂々とした欲望だった。


「……はい?」


「葉巻、吸いたい」


「二回言わんでください」


「作れ」


「再会の余韻返してください」


 父王は、王の顔のままだった。


 だが、その横のオヤジは、完全に前世の事務所で無茶ぶりをする時の顔だった。


「この国には、まともな葉巻がない」


「王様が国産品をそんな言い方してええんですか」


「ないもんはない」


「正直すぎる」


「清司」


「はい」


「作れ」


「命令が短い」


 ミレーヌは、すでに黒革手帖を開いていた。


『父王陛下。

要望:葉巻。

発言:「葉巻、吸いたい」

備考:読点に強い欲望あり』


「読点を記録するな」


「大事な間でしたので」


「そこ拾うんか」


 その時、王妃が扇をそっと閉じた。


 横に立つ姐さんの別表示も、同じように目を細める。


「清司」


 声は柔らかい。


 だが、背筋が伸びる。


「はい」


「うちは、煙草や」


「姐さんまで?」


「作ってこい」


「夫婦で嗜好品を国家事業にすな」


 王妃は、にっこりと微笑んだ。


 横の姐さんは、涼しい目をしていた。


 黒スーツ清司は、腕を組んだまま天井を見た。


 リリアーナも、同じように天井を見た。


「うちは煙草が吸いたい」


「欲望が直接的すぎるんですよ」


「清司も吸いたいやろ」


「こんな体で吸えるか!」


「ほな、作るだけ作り」


「作るだけで済むわけないでしょ」


 父王が、静かに頷いた。


「済まんな」


「認めるな」


「葉巻は男に売れる」


 王妃も、優雅に続ける。


「煙草は女にも売れる」


「……」


 リリアーナの動きが止まった。


 横の黒スーツ清司も、ぴたりと動きを止める。


 ミレーヌのペン先も止まった。


 部屋の空気が、少し変わる。


「待て」


 リリアーナの口から、低い声が出た。


 父王と王妃が、同時に清司を見る。


「なんや」


「なんやの」


「ただ吸いたいだけちゃいますね」


 父王は黙った。


 王妃も黙った。


 横のオヤジは、葉巻もないのに葉巻をくわえているような顔をした。


 横の姐さんは、煙草もないのに煙草を指に挟んでいるような顔をした。


 ないのに似合いすぎていた。


「……あっ」


 黒スーツ清司の顔が、すっと変わった。


 リリアーナの顔も、同じように変わる。


「この二人、絶対利益見てやがる」


 ミレーヌのペンが、走った。


「利益、ですか」


「葉巻と煙草やぞ」


 清司は指を折った。


「栽培」


 父王の目が、ほんの少し細くなる。


「乾燥」


 王妃の口元が、ほんの少し上がる。


「加工。香料。紙。箱。保管。販売。王家認可。輸出。税」


 オヤジの別表示が、腕を組んだまま、満足そうに頷いた。


 姐さんの別表示も、涼しい目のまま笑っている。


「見てるやん」


「何をや」


「金です」


「下品やな」


「今さら品出すな!」


 黒スーツ清司が机に手をついた。


 もちろん、実体はない。


 だが、気迫だけは机が割れそうだった。


「オヤジ、最初からそこまで見て言いましたね」


「人が欲しがるもんは、金になる」


「名言みたいに言わんでください」


「欲は、流通する」


「もっと名言みたいに言わんでください」


 王妃が、ふふ、と笑った。


 姐さんの別表示は、煙草を持つような指先で、空を軽く払う。


「煙草は、香りと見た目で変わる」


「姐さん」


「紙、箱、火入れ、持ち方。女が持って絵になるものにすれば、貴族の女も欲しがる」


「完全に市場見てますやん」


「吸いたい言うたやろ」


「吸いたいだけの人間の分析ちゃうねん」


 ミレーヌは、さらさらと黒革手帖に書いた。


『葉巻・煙草計画。

発端:父王陛下および王妃殿下の嗜好品欲求。

実態:高収益産業候補。


必要工程:

栽培。

乾燥。

加工。

香料。

紙。

箱。

保管。

販売。

王家認可。

輸出。

税。


備考:

お二人とも、最初から利益を見ている可能性が高い』


「可能性やない。黒や」


「では、黒と記載します」


「記載するな」


「記載しとけ」


「オヤジも乗るな!」


 父王は、王として重々しく頷いた。


「清司」


「はい」


「人材を探せ」


「やっぱり仕事になるやないですか」


「作るには、人が要る」


 王妃も微笑む。


「葉を育てる者。香りを見る者。紙を扱う者。箱を整える者。売る者。記録する者」


「もう配置まで見えてる」


「清司」


「はい」


「お前、そういうの得意やろ」


 清司は、言い返せなかった。


 得意だ。


 悔しいが、得意だった。


 人を見る。

 癖を見る。

 何を見ているかを見る。

 向いている持ち場に置く。


 それは、前世でも今世でも、清司がやってきたことだった。


 ミレーヌが、静かに顔を上げた。


「……未配置人材、ですね」


 清司が彼女を見る。


「未配置人材?」


「はい」


 ミレーヌは、黒革手帖を閉じた。


「庭師見習い、薬草係、倉庫番、商人見習い、下級文官、侍女見習い。必要な人材は、おそらく既に王宮や学園内にいます」


「背景におった奴らやな」


「名前が出ていなかっただけかと」


 その言葉に、黒スーツ清司の目が少しだけ変わった。


 リリアーナの目も、同じように変わる。


「モブやない」


 部屋の空気が、ほんの少しだけ静かになった。


「名前が出てへんかっただけや」


 父王の横のオヤジが、満足そうに清司を見る。


 王妃の横の姐さんも、涼しい目でミレーヌを見た。


「持ち場がなかっただけや」


 ミレーヌが、再びペンを構える。


 清司は、低く言った。


「ほな、作るぞ」


 父王は、満足そうに頷いた。


「それでええ」


 王妃も、静かに微笑む。


「清司、きばりや」


「……はい」


 返事をした清司の横で、黒スーツ清司が背筋を伸ばす。


 リリアーナの体も、同じようにまっすぐになった。


 ミレーヌの別表示は、黒革手帖を胸に抱え、妙にきりっとした顔をしている。


 それを見た清司が、少しだけ顔をしかめた。


「お前も大袈裟に反応すな」


「相棒ですので」


「相棒関係あるか?」


「あります」


 父王は、楽しそうに目を細めていた。


 オヤジの別表示は、もう完全に何かの商談を始める顔になっている。


 王妃は優雅に微笑み、姐さんの別表示は「分かっとるな」とでも言いたげに清司を見ていた。


 父王はオヤジで。

 王妃は姐さんで。

 相棒は王家認可され。

 学園へ行く準備をしていたはずなのに。


 なぜか今、葉巻と煙草の国家事業が始まろうとしている。


「……乙女ゲームどこ行ってん」


 ミレーヌは、黒革手帖を開いた。


『第二章。

学園現場視察予定。

同時進行:葉巻・煙草産業準備。

未配置人材発掘開始』


「同時進行すな」


「始まってしまいましたので」


「始めたん誰や」


 父王と王妃は、何も言わなかった。


 ただ、どちらも少しだけ楽しそうだった。


 おいたわしいのは、

 再会の余韻と、乙女ゲームの清らかな空気である。

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