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ふわ姫若頭 〜恋愛フラグを全部現場復帰させたら、女王ルートが開きました〜  作者: 夜嶋朔
第一章 王宮現場復帰編

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第2話 俺は男やぞ

「……誰や、これ」


 鏡の中にいる女を見て、清司は固まった。


 金色のふわふわした髪。

 やたら白い肌。

 細い首。

 でかい目。


 しかも、その目が無駄にきらきらしている。


 なんや、この目がでかい女。


 目ぇ、きらきらしすぎちゃうか。


「姫様……?」


 そばにいた女が、不安そうにこちらを覗き込んだ。


 清司は鏡を持ったまま、ゆっくりその女を見た。


 姫様。


 さっきから、この女たちはそう呼んでいる。


 姫様て。


 なんやねん。


 戦国時代の夢でも見てんのか。


 いや、夢にしてもおかしい。


 清司は、ついさっきまで廊下にいた。


 銃声がしていた。

 オヤジと志乃を非常階段に逃がした。

 弾切れした男どもに笑って言った。


 お前らみたいな雑魚、俺一人で余裕や。


 かかってこんかい、ゴラァァァッ。


 そこで殴りかかった。


 確かに、殴りかかった。


 その次に聞こえたのが、


 姫様。


 どういうことやねん。


「姫様、やはりご記憶が……?」


「記憶?」


 清司がその言葉を繰り返した瞬間だった。


 頭の奥に、知らない景色が流れ込んできた。


 白い城。

 広い庭。

 父である王。

 王子。

 騎士。

 公爵。

 魔法。

 学園。

 舞踏会。

 婚約。

 聖女。

 悪役令嬢。


 それから、複数の男たちとの恋愛イベント。


 清司は額を押さえた。


「……待て待て待て」


 声が高い。


 そこでまた腹が立った。


 なんで声までこんな細いねん。


 もう一度、鏡を見る。


 鏡の中の金髪の姫も、同じように額を押さえている。


 つまり。


 これが。


 俺。


「いや、ありえんありえん」


「姫様?」


「何でもありません」


 反射的に返事をして、清司はさらに絶望した。


 今の返事が、あまりにも姫だった。


 声がやわらかい。

 語尾が上品。

 喉から出てくる音が、全部ふわふわしている。


 さっきまで「ゴラァァァッ」と叫んでいた男の声ではない。


 清司は震える手で、自分の髪をつまんだ。


 ふわふわしている。


 信じられないくらい、ふわふわしている。


「……俺は男やぞ」


「姫様?」


「何でもありません」


 また姫の声が出た。


 清司は鏡を見た。


 金髪ふわふわ姫が、ひどく真剣な顔でこちらを見返している。


 真剣な顔をしても、かわいい。


 腹が立つ。


「なんでこんなことなってんねん……!」


 思わず頭を抱えた。


 その瞬間、侍女たちが一斉に泣きそうな顔になった。


「姫様……!」

「ご混乱なさって……」

「お可哀想に……!」


 違う。


 可哀想とかではない。


 普通に意味が分からんだけや。


 清司は寝台の上で、もう一度記憶を整理した。


 この体の名前は、リリアーナ・リュミエール。


 リュミエール王国の第一王女。

 国王の一人娘。

 病弱で、儚くて、誰からも守られる姫。


 そして、この世界は乙女ゲームとやらによく似ている。


 リリアーナは、その中心にいるヒロイン。


 攻略される側。


 守られる側。


 誰かに選ばれる側。


 清司は、ゆっくり鏡を下ろした。


 ない。


 それだけはない。


 誰に選ばれる気もない。

 誰かの嫁になる気もない。

 守られて頬を染める気もない。


 そもそも。


「俺、嫁に行く側なんか……?」


 言った瞬間、自分でダメージを受けた。


 侍女のひとりが、そっと手を握ってくる。


「姫様、大丈夫でございます。殿方のことは、まだお考えにならなくても……」


「そういう問題ではありません」


 清司は即答した。


 姫の声で。


 やっぱり腹が立つ。


 清司は深呼吸した。


 落ち着け。


 まず落ち着け。


 混乱したまま動くな。

 訳が分からない時ほど、見るところを見る。


 出口。

 人数。

 武器。

 逃げ道。


 そこまで考えて、清司は部屋を見回した。


 右に窓。

 左に扉。

 窓までは三歩。

 扉までは五歩。

 部屋の隅に燭台。

 花瓶が二つ。

 女が四人。


 全員、泣いている。

 全員、武器は持っていない。


 敵意はない。


 ただし、状況は最悪。


 この体は細い。

 声は高い。

 髪はふわふわ。

 服はひらひら。

 目はきらきら。


 何一つ、現場向きではない。


「姫様、お水を」


「ありがとうございます」


 差し出された杯を受け取った。


 白く細い指。


 どう見ても自分の手ではない。


 この手で、さっきの男どもを殴れる気がしない。


 清司は深く息を吐いた。


 終わっている。


 いや、終わってはいない。


 生きている以上、何かはできる。


 だが、まずは。


 まずは、この金髪ふわふわの現実を受け入れるところからだった。


 清司は鏡の中の自分を睨んだ。


 守られるための顔。

 選ばれるための立場。

 恋愛イベントの中心。


 その中身は、元若頭。


「……ほんまに、なんでやねん」


 侍女たちが涙ぐんだ。


「姫様……」

「おいたわしい……」


 違う。


 おいたわしいのは、主に清司の精神である。

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