第1話 若頭、姫になる
銃声が、本家の廊下に響いた。
「伏せろ!」
障子が弾け、木片が飛び散る。
清司は飛び込んできた男の手首を捻り上げ、落ちた拳銃を蹴り飛ばす。そのまま顎へ拳を叩き込み、男を畳へ沈めた。
「アニキ!」
若い衆が駆け寄ってくる。
廊下の奥には、昨日まで同じ代紋を背負っていた男たちが並び、こちらへ銃口を向けていた。
「オジキの仕業やな」
誰も否定しなかった。
「オヤジが病気とわかった途端、裏切るんか」
清司の腰にも拳銃はあった。
だが、抜かなかった。
撃ってきた銃口を払い、懐へ潜り込む。腹へ肘を入れ、振り向きざまに隣の男の足を払った。
二人が畳へ倒れる。
「アニキ! 俺らも!」
「俺一人で余裕や」
清司は倒れた若い衆を指した。
「そいつ連れて裏から出ろ」
「はい!」
若い衆は仲間を抱え、本家の奥へ走っていく。
清司もそのまま大広間へ向かった。
床の間の前では、一人の男が飾られていた日本刀を抜いていた。
「触んなや」
男が斬りかかる。
清司は刃をかわして手首を掴み、そのまま捻り上げた。
男の手から日本刀が落ちる。
清司は柄を掴み、床へ転がっていた鞘へ静かに納めた。
男が拳銃を抜く。
鞘に納めたままの日本刀で手首を打つと、拳銃が畳へ転がった。
清司は腹へ蹴りを入れ、倒れた男の背中を踏みつける。
日本刀を肩へ担いだ。
「寝とけ」
奥の部屋を開けると、志乃が息の浅いオヤジを支えていた。
その隣では、姐さんが震える手で薬を握っている。
「志乃、お前はオヤジと姐さん守れ」
「清司は」
「後から行く」
清司はオヤジを背負い、志乃と姐さんを連れて裏口へ向かった。
「アニキ!」
若い衆が車の扉を開ける。
「オヤジ頼む」
「アニキも乗ってください!」
「先に出せ」
志乃が清司の腕を掴んだ。
「一緒に来い」
清司はその手を外し、志乃を車へ押し込む。
「行け!」
車が勢いよく走り出した。
窓越しに、志乃が何か叫んでいる。
清司は遠ざかる車を見届け、ゆっくり振り返った。
廊下の向こうには、まだ大勢の男たちが立っていた。
清司は日本刀を肩へ担いだまま歩き出す。
男たちが一斉に襲いかかってきた。
鞘で手首を打ち、顎を跳ね上げ、腹を払い、膝を崩す。一人、二人、三人と畳へ沈んでいく。
誰も斬らない。
誰一人、奥へ通さない。
最後の男を蹴り倒し、その背中を踏みつけた。
清司は日本刀を肩へ担ぐ。
「そろそろ……」
廊下の奥に残った男たちを見る。
「終わらそか」
男たちが一斉に走り出した。
清司も踏み込む。
鞘が唸り、拳が飛び、畳が軋む。
最後の一人が崩れ落ちた。
静かになった本家で、清司は一度だけ息を吐いた。
その時だった。
本家の向かいにある建物の屋上で、狙撃手が照準を合わせていた。
引き金が引かれる。
乾いた音が、一度だけ響いた。
清司の額から血が流れる。
身体が傾き、日本刀が畳へ落ちた。
遠ざかる車の音を聞きながら、清司は静かに目を閉じた。
誰かが泣いていた。
「おいたわしい……」
「リリアーナ様……」
清司はゆっくり目を開けた。
見えたのは、花の彫刻が施された白い天蓋だった。
淡い桃色のカーテン。
金色の装飾。
壁には花と天使が描かれ、家具には細かな彫刻がびっしりと入っている。
どう見ても、本家ではない。
清司が寝ている大きなベッドの周りには、見たこともない服を着た侍女たちが集まり、涙を流していた。
「よかった……」
「目を覚まされましたわ」
「リリアーナ様……」
清司は黙ったまま、部屋を見渡した。
「なんやここ」




