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ふわ姫若頭 〜恋愛フラグを全部現場復帰させたら、女王ルートが開きました〜  作者: 夜嶋朔
第一章 王宮現場復帰編

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第1話 若頭、姫になる

 銃声が、廊下の壁を削った。


「伏せろ!」


 清司は志乃の肩を押さえ、そのまま床へ倒れ込ませた。


 頭の上を、何かが掠める。

 壁に掛かっていた額縁が割れ、破片が床に散った。


「清司!」


 奥からオヤジの声が飛ぶ。


「生きとるか!」


「生きてます!」


 清司は即答しながら、廊下の向こうを見た。


 右に三人。

 左に二人。

 出口は非常階段のみ。


 弾も少ない。

 人も足りない。

 最悪やな。


 けれど、まだ終わってはいない。


「志乃、立てるか」


「立てる」


 志乃は短く答えた。


 声は震えていない。


 こういう時、この女は泣かない。

 腹を括るのが早い。


「右の通路、三人」


 志乃が言った。


「左は?」


「二人。けど、一人は足引きずってる」


「よう見とる」


「褒めてる場合?」


「褒められる時に褒めとかな損やろ」


 志乃が呆れたように清司を見た。


 その目を見て、清司は少しだけ笑った。


 大丈夫や。

 この目をしてるなら、帰れる。


「オヤジ!」


 清司は叫んだ。


「志乃連れて、非常階段!」


「お前は!」


「後ろ閉めます!」


「アホ言うな!」


 怒鳴り声が飛んでくる。


 けれど、オヤジの足は止まっていない。

 志乃の腕を掴み、こちらへ走ってくる。


 それでいい。


 怒りながらでも、走ってくれたらいい。


「清司」


 志乃がこちらを見た。


 何か言いたそうな顔だった。


 やめとけ。


 そういう顔をするな。

 今ここで、言葉なんか残されたら困る。


「帰れ」


 清司は先に言った。


「オヤジと一緒に帰れ」


「清司」


「話はあとで聞きます」


 清司は笑った。


「生きて帰ったら、なんぼでも説教してください」


 志乃は唇を噛んだ。


 オヤジが清司の前で一瞬止まる。


「清司」


「オヤジ」


 清司は廊下の向こうを見たまま言った。


「頼みます」


 それだけで十分だった。


 オヤジの顔が、怖いくらい静かになる。


 次の瞬間、オヤジは志乃を抱えるようにして走り出した。


「死ぬなよ」


 背中越しに、オヤジが言った。


 清司は返事をしなかった。


 未来の約束は、軽々しくするものではない。


 非常階段の扉が閉まる音がした。


 帰った。


 オヤジも、志乃も。


 それを聞いた瞬間、清司は笑った。


 腹は熱い。

 肩も焼けるように痛い。

 息をするたび、胸の奥が軋む。


 廊下の向こうで、男の一人が銃を構えた。


 引き金が鳴る。


 カチ、と乾いた音だけが響いた。


 弾切れ。


 別の男も慌てて銃を向ける。

 けれど、そちらも同じだった。


 清司は血のついた口元で笑った。


「終わりか」


 男たちの顔が引きつる。


「銃持ってそれかい」


 清司は一歩、前へ出た。


 拳を握る。

 指先に力が入りきらない。

 視界も少し暗い。


 それでも、まだ立っている。


 なら、充分だ。


「何ビビっとんねん」


 清司は笑ったまま言った。


「お前らみたいな雑魚、俺一人で余裕や」


 男たちの顔色が変わった。


「かかってこんかい」


 清司はさらに一歩踏み出した。


「ゴラァァァッ!!」


 それが、清司の最後の記憶だった。




 ――はずだった。




「姫様!」


 耳元で、誰かが泣き叫んだ。


 うるさい。


 清司は目を開けた。


 まず、天井が見えた。


 高い。


 やたら高い。


 知らない天井。

 白い布。

 金の装飾。

 花の彫刻。

 甘い香の匂い。


 どこの趣味悪いホテルや。


 そう思った瞬間、清司は反射的に周囲を確認した。


 右に窓。

 左に扉。

 窓までは三歩。

 扉までは五歩。

 部屋の隅に燭台。

 花瓶が二つ。

 刃物らしきものは見当たらない。


 人間は四人。


 全員、女。


 武器は持っていない。


 泣いている。


「姫様……!」

「よかった……!」

「本当に、お目覚めになられて……!」


 姫様。


 清司はまばたきをした。


 誰が。


「……ここは」


 声を出した瞬間、清司は固まった。


 声が違う。


 高い。

 細い。

 やわらかい。


 自分の声ではない。


 泣いていた女たちが、さらに泣いた。


「姫様!」

「まだお体が……!」

「すぐに侍医を!」


 姫様、姫様とうるさい。


 清司は体を起こそうとした。


 その瞬間、やたら長い金色の髪が肩から流れ落ちた。


 清司は無言でそれをつかんだ。


 金髪。


 ふわふわ。


 自分の髪ではない。


 嫌な予感がした。


「鏡」


「え?」


「鏡、ありますか」


 泣いていた侍女らしき女が、慌てて銀の手鏡を差し出した。


 清司はそれを受け取った。


 鏡の中にいたのは、見知らぬ少女だった。


 金色のふわふわした髪。

 透けるような白い肌。

 大きな青い瞳。

 細い首。

 守らなければ折れてしまいそうな、儚く美しい姫。


 清司はしばらく鏡を見つめた。


 そして、低くつぶやいた。


「……誰や、これ」

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まさかの極道が王道お姫様に転生? どのような展開になるのか楽しみ
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