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任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第一章 現場復帰編

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第1話 若頭、姫になる

 雨の中で、男が上着へ手を入れた。


「手ぇ出せ」


 三浦清司は、低く言った。


 男は出さなかった。


 その背へ、門から入ってきた別の男がぶつかる。


 上着の中で、腕が動いた。


 清司が踏み込んだ。


 手首を押さえる。


 拳銃が、玄関前の石へ落ちた。


「触んな!」


 恭平が、拾おうとした男を引き剥がす。


 足が傘立てに当たり、陶器の割れる音が響いた。


「もうええ! 出ろ!」


 英二が怒鳴っていた。


 つい先日まで、同じ山城組の幹部だった男。


 その声を聞いても、連れてきた若い衆は止まらなかった。


 話をするはずの夜だった。


 だが、目の前には拳銃が落ちている。


 玄関では、男たちが押し合っていた。


 清司は押さえた腕を捻り上げ、男の膝を地面へつけた。


「兄さん。これ、押さえとってくれ」


 涼介がすぐに屈む。


 清司が手を離した、その時だった。


 別の男が玄関へ上がった。


 若い衆を突き飛ばす。


 背中が壁へ当たり、廊下の花瓶が倒れた。


 水と破片が、敷居へ散った。


 清司が廊下へ戻る。


 男の腕を掴み、引き戻した。


 後ろから肩へ手がかかる。


「離せや!」


 振り向きざまに肘を入れた。


 男がよろけ、敷居へ足を取られる。


 倒れた身体を跨いで、もう一人が入ってきた。


 短い刃物を握っていた。


「下がれ」


 清司が言った。


 若い衆が退く。


 男の目が、廊下の奥へ向いた。


 清司の父、雅臣が立っていた。


 そちらへ進もうとする腕を、横から掴む。


 壁へ身体を寄せ、手首を打ちつけた。


 刃物が落ちる。


 雅臣が男を引き倒した。


「こいつ、押さえろ!」


 奥から来た若い衆が、その背へ覆いかぶさった。


 清司は玄関脇を見た。


 飾り台に、日本刀が一振り置かれている。


 鞘ごと取った。


 近くにいた若い衆が柄へ手を伸ばす。


「抜くな」


 清司は刀を納めたまま、廊下へ向き直った。


 倒れていた男が起き上がり、雅臣へ掴みかかろうとしていた。


 鞘で腕を打つ。


 男が手を引いた。


 その胸元へ鞘を当て、壁まで押し戻す。


「座れ」


 膝が折れた。


 若い衆が腕を押さえる。


 清司はすぐに玄関へ戻った。


 恭平が、男と揉み合っていた。


 圭吾は英二の腕を掴んでいる。


「親父、こっち来い!」


「離せ。わしが止める」


「止まってへんやろが!」


 清司が、その前へ出た。


「圭吾。中へ入れ」


 圭吾がこちらを見る。


「オジキもじゃ」


 英二が顔を上げた。


 濡れた顔に、玄関の灯りが当たっている。


「……清司」


「今は黙っとけ」


 清司は門へ顔を戻した。


 まだ立っている男がいた。


 恭平に腕を押さえられた者。


 車の脇へ下がった者。


 拳を握ったまま、こちらを睨む者もいる。


 清司は鞘の先を下げた。


「もう終わりじゃ」


 誰もすぐには動かなかった。


「手ぇ離したもんに、こっちも手ぇ出すな」


 本家の若い衆へ言う。


 恭平が男の腕を離した。


「座っとけ」


 男が壁へ背をつける。


 門の外で、走る足音がした。


 拓真が顔を向けた。


「一人、出た」


「追うな」


 清司が止めた。


「こっち片つけるんが先じゃ」


 遠くから、サイレンが聞こえ始めていた。


 雅臣が玄関へ出てくる。


 上着の袖が裂けていた。


「おとん、手は」


「切れてへん」


 清司が頷く。


 若い衆が一人、唇の血を拭っていた。


 その肩へ触れる。


「中で手当てしてもらえ」


「はい」


 男が廊下へ上がる。


 圭吾は英二を玄関脇へ座らせた。


 龍二が涼介と代わり、押さえていた男の腕を取る。


 ようやく、怒鳴り声が止まった。


 雨が、割れた傘立てへ落ちている。


 清司は鞘についた水を、指で払った。


 警察が来る。


 怪我人を診てもらう。


 ここへ来た者を確かめ、英二とも話をする。


 まだ、終わらせることが幾つもあった。


 清司は、玄関へ一歩戻った。


 門の向こうで、乾いた音がした。


 弾丸が、清司の頭を撃ち抜いた。


 鞘が手を離れる。


 身体が、石の上へ崩れ落ちた。



     *



 誰かが泣いていた。


「おいたわしい……」


「リリアーナ様……」


 清司はゆっくり目を開けた。


 見えたのは、花の彫刻が施された白い天蓋だった。


 淡い桃色のカーテン。


 金色の装飾。


 壁には花と天使が描かれ、家具には細かな彫刻がびっしりと入っている。


 どう見ても、本家ではない。


 清司が寝ている大きなベッドの周りには、見たこともない服を着た侍女たちが集まり、涙を流していた。


「よかった……」


「目を覚まされましたわ」


「リリアーナ様……」


 清司は黙ったまま、部屋を見渡した。


「なんやここ」

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― 新着の感想 ―
入ってみたら、加筆編集されてました! とても深みが出てワクワク感が爆上がり! 新しい話も毎日楽しみですが、更新も期待してます。
まさかの極道が王道お姫様に転生? どのような展開になるのか楽しみ
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