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乙女ゲームの姫に転生した元若頭、攻略そっちのけで世界を変える――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
新章 ベルベット・ローズ

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135/137

第135話 五人の始まり

 朝食を終えると、オヤジがナプキンを卓へ置いた。


「今から行くぞ」


 セイジもカップを戻し、隣へ顔を向ける。


「そうやな、セレスティアに現場は任せる」


「かしこまりましたわ」


 セレスティアは、すぐに頷いた。


 ミレーヌが黒革手帖を閉じる。


「準備は出来ております」


 セイジが椅子を引いた。


 オヤジも立ち上がり、扉へ向かう。


 チリン。


 その先で、バルドが静かに一礼した。


「クラウス国へ参りましょう」



     *



 王立学園。


 開いた教室の扉の前で、四人はルカを見ていた。


 椅子の背へ軽く腕をかけ、こちらを振り返っている。


 明るいブラウンの髪が、肩から柔らかく流れていた。


 薄い前髪の下には、大きな瞳。


 目が合うと、形のよい唇が少し上がる。


「どういう事?!ってかめっちゃ可愛いやん!」


 ジュリアンは戸惑いながらも、教室へ足を踏み入れた。


 その肩越しに、ルイもルカを覗き込む。


「ほんまや!ヒロイン可愛いすぎる!」


 アランは扉の脇へ手をかけたまま、目元を緩めた。


「やばいな、恋愛するゲームやろ?楽勝やん」


「ホンマに可愛すぎるやろ!」


 アルバートまで顔を見合わせ、もう一度ルカを見る。


 四人分の視線を受けても、ルカは照れて俯かなかった。


「知ってる、ありがとう」


 にこっと笑った。


 柔らかな頬が持ち上がり、瞳まで楽しそうに細くなる。


 ジュリアンの足が止まった。


 ルイも、その笑顔を見たまま口元を緩める。


 アランは思わず笑い、アルバートまで釣られた。


 可愛い。


 その返しまで、妙に気になる。


 ルカは四人を順に見て、椅子の上で身体の向きを変えた。


「とりあえずこの国の事調べへん?」


 四人の顔が上がった。


 さっきまで見惚れていたジュリアンが、すぐに頷く。


「それや!」


 アランも扉から手を離し、ルカの近くへ来た。


「この世界の事わかる事からや」


「この学園だけじゃなくな」


 ルイが教室の窓へ目を向ける。


 広い中庭の先には、まだ知らない街が続いている。


「まず知る事からやな」


 アルバートも頷いた。


 何が起きたのか。


 ここで自分たちは、何ができるのか。


 動くにしても、知らないままでは始まらなかった。


 ルカは四人の反応を見て、満足そうに笑う。


「話早くて助かるわ」



     *



 魔法の授業は、広い実習場で始まった。


 高い天井を、大きな梁が支えている。


 壁際には教材が並び、床には生徒たちが間隔を空けて立っていた。


 窓から差し込む光の下で、教師が一人ずつ魔法を確かめていく。


 ルカと四人も、同じ列へ並んでいた。


 教師の説明を聞きながら、ジュリアンが自分の手を見ている。


 隣ではアランも、掌を握ったり開いたりしていた。


「次、君やってみなさい」


 教師がルカへ顔を向けた。


「はーい」


 ルカは列から出た。


 実習場の中央へ立ち、片手を持ち上げる。


 親指と中指を重ねた。


「私はルカ」


 パッチン。


 乾いた音が、実習場へ響いた。


 指先で、白い光が弾ける。


 そこから広がった風が、ルカの長い髪をふわりと持ち上げた。


 四人の制服の裾も、一斉に揺れる。


「何が起こった?!」


 四人が声を揃えた。


 ジュリアンが自分の胸元を見下ろす。


 制服が、黒い衣装へ変わっていた。


 肩から胸へ沿う、硬質な生地。


 胴を覆う装甲は細かく分かれ、腕を動かしても引っかからない。


 腰には幅のあるベルト。


 指先まで覆う黒い手袋に、膝下まで包むブーツ。


 肩から下がった長いマントが、風を受けて広がっている。


 アランも。


 ルイも、アルバートも。


 そして、中央に立つルカまで。


 五人揃って、黒をまとっていた。


「なんか衣装変わった!」


 ジュリアンが両腕を広げた。


「なにこれ?!」


 アランは肩越しに、自分のマントを見る。


「かっこええやんけ!」


 ルイが嬉しそうに笑い、手袋をした指を握った。


「すげぇ!なんなんこの世界」


 アルバートも腕を曲げ、足元まで確かめている。


「乙女ゲームらしいやん?謎やな」


 ジュリアンがルカを見た。


 ルカは、自分のブーツへ目を落としていた。


 踵が、床から少し浮いている。


 片足を持ち上げる。


 もう片方も、離れた。


「あ、飛べそう」


 ルカの身体が、ふわりと浮いた。


 教師が顔を上げる。


 生徒たちも、中央へ視線を集めた。


 ルカは宙で少し姿勢を崩したが、すぐに両腕を広げた。


 マントが背後へ流れる。


 顔を上げ、片腕を前へ伸ばした。


 次の瞬間、天井へ向かって真っ直ぐ飛び上がった。


 長い髪が、風を引いてなびく。


 梁の手前で身体を返し、今度は窓に沿って大きく旋回した。


「素晴らしい!」


 教師が声を上げた。


 その横で、ジュリアンも床から浮いていた。


 自分の足元を見て、それからルカを見る。


 片腕を前へ伸ばすと、身体が一気に進んだ。


 マントが大きく翻る。


 アランも、その後へ続いた。


 最初の勢いに少し目を見開き、それでもすぐに顔を上げる。


 ルイが飛び出し、アルバートも両足で床を離れた。


 四人分の風が、実習場を駆け抜ける。


 生徒たちは髪を押さえ、次々に天井を見上げた。


 教師も、その場で身体を回して五人を追う。


 ルカが振り返った。


 後ろから、四人が飛んでくる。


 ジュリアンはもう笑っていた。


 アランが隣へ並び、ルイは大きく弧を描いてその向こうへ出る。


 アルバートも高さを合わせ、五人が宙で顔を見合わせた。


 足元には、さっきまで立っていた床がある。


 風が頬を撫でていた。


 腕を向ければ、その先へ進める。


 身体を傾ければ、景色が一緒に回った。


 ルカが笑う。


 四人も、堪えきれずに笑った。


「最高やんけ!!!」


 五人の声が、実習場へ響いた。


 その下で、拍手が起こる。


 一人が手を叩くと、隣の生徒も続いた。


 教師も顔を上げたまま、両手を打ち合わせている。


 大きくなっていく音に、ルカが下を見た。


 生徒たちと目が合う。


 ルカは嬉しそうに笑い、宙で四人を振り返った。


「みんな!降りるぞ!」


「おう!!」


 四人の返事が揃った。


 ルカがゆっくり身体を起こすと、背後へ流れていたマントが下へ垂れた。


 ブーツの先を床へ向け、高さを落としていく。


 ジュリアンも、その隣へ降りてきた。


 アランが周りとの間隔を確かめ、ルイとアルバートも続く。


 五人の靴底が、順に床へ触れた。


 マントの裾が揺れ、長い髪がルカの肩へ戻る。


 地面を踏んだ感覚を確かめるように、ルイが一度足を動かした。


 ジュリアンはまだ笑いながら、頭上を見上げている。


 そこを、自分たちが飛んでいた。


 ルカは片手を上げた。


「戻る!」


 パッチン。


 指が鳴ると、五人の身体を淡い光が走った。


 黒い装甲も、手袋も、ブーツも消える。


 肩から下がっていたマントがなくなり、見慣れた制服の裾がふわりと落ちた。


 アルバートが胸元へ触れる。


 アランも自分の袖を見て、指を開いた。


 四人とも、元どおりだった。


 ルカは制服を軽く整えると、四人へ顔を向けた。


「戦いになってもこれで大丈夫やな!」


 ジュリアンが、すぐに頷いた。


「ほんまやな!」


 アランは先ほど飛んでいた場所へ目を向け、それからルカを見る。


「万が一があってもいけるわ」


 ルイは両手を腰へ当て、楽しそうに笑った。


「楽しくなってきたわ」


「この世界悪くないんちゃう?」


 アルバートが四人を見回した。


 ついさっきまで、何が起きたのか分からずにいた。


 今は全員、目を輝かせている。


 ルカは口元を上げた。


「それどころか最高やん?」


「ほんまそれ!」


 四人の声が重なった。


 顔を見合わせ、五人が笑う。


 ジュリアンがアランの肩を叩き、ルイはまだ笑いながら天井を指さしていた。


 アルバートも頬を緩め、その隣でルカが楽しそうに髪を払う。


 教師も、とうとう声を出して笑った。


 近くにいた生徒たちも釣られ、顔を見合わせる。


 さっきまで拍手が響いていた実習場は、今度は笑い声に包まれていた。

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