第130話 一発オーケー
テレビ局には、今日も爽やかな歌声が響いていた。
「もう一回!」
舞ちゃんの声に、七人が揃って返事をする。
「はい!」
歌って、踊る。右へ、左へ。レオンの合図に合わせ、全員が動く。
「次!」
七人がすぐに動きを変える。
「揃ってきた! 昨日よりずっといいよ!」
エリオットが嬉しそうに声を上げると、エミールも表を確認しながら頷いた。
「音から遅れる人もほとんどいない。歌いながらでも声が安定してるよ」
「喉も問題ないよ。全員ちゃんと水分も取れてる」
ノエルも確認を終え、笑顔で頷いた。
「もう一回いくよ!」
セシルが七人の前に立つ。
「右、左、そこで回って、最後に止まる!」
セシルが動くと、七人も同じように動いた。
「できた! もう大丈夫!」
セシルが嬉しそうに笑う。
舞ちゃんは七人の動きを確認すると、音ちゃんと顔を見合わせた。
「これなら、レコーディングに入れます」
「本当ですか!」
土方が聞くと、音ちゃんも頷いた。
「はい。歌も踊りも、かなり安定しています」
「よし」
リリアーナは七人を見た。
「録ろか」
七人は一人ずつ録音室へ入った。
「始めます」
音ちゃんの合図で曲が流れ、最初に土方が歌い始める。
今度は踊らない。身体を大きく動かすこともなく、歌だけに集中する。
低く力強い声が録音室に響いた。
リリアーナもミレーヌも、何も言わずに聞いている。バルドも静かに耳を傾けていた。
やがて最後の音が消える。
「カット! オーケー! 最高!!」
セシルの声が響いた。
「お前が言うんか」
「だって最高だったよ!」
セシルが当然のように答えると、音ちゃんもゆっくり頷いた。
「一発で大丈夫です。直すところがありません」
「ほんまか?」
「はい」
舞ちゃんも頷く。
「踊っていない分、さらに声が出ています。戦場で培った呼吸も歌に合っています」
「次!」
レオンの声で、沖田が録音室へ入った。
曲が流れ、歌い終わる。
「カット! オーケー! 最高!!」
次は斎藤。
「カット! オーケー! 最高!!」
原田も一発で終わった。
「カット! オーケー! 最高!!」
龍馬、高杉、桂も次々と録音室へ入り、全員が一発で録り終えた。
「カット! オーケー! 最高!!」
最後まで同じ言葉を叫んだセシルを、リリアーナが見る。
「お前、いつから監督になったんや」
「いいものは、いいって言わないと!」
「毎回言うとるやろ」
「毎回最高だから!」
「せやな」
リリアーナは七人を見回した。
「ほな、すぐ売り出そか」
「もう?」
エミールが聞く。
「録れたんやろ? 置いとく意味ないやんけ。公園も街も、スクリーンがある場所はそのまま流せる」
「テレビ局からも放送できます」
ミレーヌが続けると、エミールが顔を上げた。
「家庭では?」
「家庭用魔石スピーカーも同時に売り出す」
「値段は?」
「職人が困らん程度に利益は残す。けど、こっちの稼ぎは抑える。高かったら庶民が買われへん。みんなが買える値段にせなあかん」
「利益より普及を優先するんだね」
「せや。音楽だけやない。ニュースも災害情報も避難情報も流せる。家に一台あった方がええ」
ミレーヌは黒革手帖を開き、さらさらと書き込んだ。
『家庭用魔石スピーカー
販売価格:庶民が購入可能な金額
職人利益:確保
王宮利益:最低限
目的:音楽及び放送網の普及
清司判断:非常に良好』
「よし」
リリアーナは改めて七人へ向き直った。
「お前ら! デビューや!」
「おおおおおお!!」
七人の声がテレビ局いっぱいに響いた。
その日の午後、リリアーナたちは馬車に乗って百ちゃんの畑へ向かった。
「百ちゃん、米はどうや?」
「順調です。ですが、お米は収穫までに時間がかかります。楽しみにしていてください」
「そうか。分かった」
リリアーナは育ち始めた稲を眺めて頷いた。
「ほな、もう一か所行こか」
一行が次に向かったのは、モビーズ本部だった。
「メガネ聖女、ちょっとええか?」
「何でしょう」
「稲が育つの、早くできる肥料作れへんか?」
「私もそう思って、作って完成させたところです」
「さすがやん!」
あまりにも早い返答に、ミレーヌはすぐさま黒革手帖を開いた。
『メガネ聖女
役職:モビーズのリーダー
判断速度:非常に早い
先読み能力:極めて高い
リーダー適性:非常に高い』
「あと、日本に行く時に作った薬、作ってくれへん?」
「どの薬ですか?」
「少年名探偵が高校生になる薬です」
ミレーヌが説明すると、メガネ聖女は一度だけ息を吐いた。
「ありますよ。こんなこともあるかと思って」
「あるんかい!」
「ですが、一錠しかありません。なかなか難しくて、成功率は十万分の一です」
「ええええええええ!!」
全員の声がモビーズ本部に響いた。
「大切に使ってください」
「……大切に使うわ」
リリアーナは慎重に薬を受け取った。
その横で、ミレーヌが黒革手帖へ新たな一行を書き足す。
『追記
清司さんより判断が早い』
「それ、書かんでええやろ」
「事実です」
「十万分の一を先に作っとる奴と比べんな!」
「ですが、必要になる前に完成させています」
「ぐうの音も出ぇへんわ!」
ミレーヌは満足そうに黒革手帖を閉じた。




