第129話 姫と若頭
訓練を終えた一同は王宮へ戻り、全員で食卓を囲んでいた。
「うまい!」
原田が大きな声を上げると、ルシアンが笑った。
「今日もたくさん動いたからね。たくさん食べてね」
「あぁ! いただくぜ!」
原田は、すぐに料理へ戻った。
「喉に違和感がある人はいない? 少しでも痛かったら、すぐに言ってね」
ノエルが全員を見回すと、沖田が答えた。
「大丈夫です。ノエルが何度も確認してくれたから」
「水分も取れてるよ。今日の訓練は、全員昨日より動けてた」
エミールの報告を聞き、エリオットが嬉しそうに身を乗り出した。
「本当?! すごいよ! この調子なら、デビューも絶対うまくいくよ!」
「まだ音から遅れるところがある。でも、僕が合図を出せば、全員すぐに戻れるようになった。本番も僕が全体を見る」
レオンが言うと、土方が頭を下げた。
「頼む。踊りは、セシルが何度も教えてくれた」
「僕は教えただけだよ。できるまで、一緒にやればいいから」
セシルは笑った。
右。左。肩の力を抜いて、息を吐いて。
今日のセシルを思い出し、リリアーナが呟く。
「……ヨガの先生みたいやったな」
「たしかに」
ミレーヌも、くすっと笑った。
「ヨガ?」
日本から来た七人が一斉に首を傾げる。
「気にせんでええ」
リリアーナが言うと、桂がセシルを見た。
「セシルは、踊りを覚えられない者の前に立ち、何度でも同じ動きをしてくれた。自分が目立つためではなく、全員が前へ進めるように、ずっと動いてくれていた」
「だって、みんなが困ってたから」
セシルは不思議そうに答えた。
日本から来た七人は、顔を見合わせた。
「俺たち、最初は何で貴族がこんなに俺たちに構うのか、分からなかったんです」
土方が口を開くと、沖田も続けた。
「僕もです。妙に親しくされるほど、何か裏があるのではないかと疑っていました」
「俺たちは、この国では余所者だ。対等に扱われるとは思っていなかった」
斎藤が言うと、原田が笑った。
「俺なんか、いつ追い出されるんだろうって、ちょっと思ってたぜ!」
「わしもぜよ。国も時代も違う。ましてや、相手は王子や公爵ばかりじゃ。何を考えちゅうのか分からんかった」
龍馬が頷くと、高杉も真っすぐ言った。
「親切に見せて、俺たちを利用するつもりかとも思った」
「僕は最後まで警戒していました。見下されているのではないか。珍しい異国人として、面白がられているだけではないかと」
桂は、ロイヤルフラグメントの七人を見た。
「ですが、チャンネルを作ると決まってから、ずっと一緒に働いてきた。誰一人、僕たちを笑わなかった。失敗しても、見捨てなかった」
一度言葉を止め、穏やかに笑う。
「彼らは最初から、僕たちを仲間として扱ってくれていたんですね」
「エリオットは、何度失敗しても場を明るくしてくれた」
土方が言った。
「レオンは、音と動きが合うように、ずっと全体を見て合図を出してくれた」
沖田も続ける。
「エミールは、誰に何が向いているか、一人ずつ考えてくれた」
斎藤が頷いた。
「ノエルは、ちょっと咳しただけでも、すぐ飛んできたよな!」
原田が笑うと、龍馬も笑った。
「ルシアンの飯がなかったら、わしらはとっくに倒れちゅう」
「アレクシスは、俺たちを飾り物にするんじゃなく、俺たちが一番よく見える衣装を本気で考えていた」
高杉が言うと、桂はセシルへ目を向けた。
「そしてセシルは、できない者を置いていかなかった。何度でも同じ場所へ戻って、一緒に動いてくれた。それが本当に嬉しかったです」
セシルが目を丸くした。
「僕は、普通のことをしただけだよ」
「それが普通じゃなかったんだ」
土方が答えると、日本から来た七人は一斉に席を立った。
「舞ちゃん! 音ちゃん!」
土方が姿勢を正す。
「これからも、ご指導よろしくお願いします!!」
七人が深々と頭を下げると、舞ちゃんは一人ずつ顔を見た。
「君たちには才能があります」
「とてもいい声です。教える前から、腹式呼吸がしっかりできています」
音ちゃんも頷いた。
「腹式呼吸?」
原田が聞き返す。
「お腹を使って深く呼吸する方法です。長く声を出す時に、とても大切なんですよ」
「そんなもん、いつ覚えたんだ?」
土方が仲間たちを見ると、舞ちゃんが答えた。
「戦う時の呼吸が、そのまま使えているのでしょう。戦いの経験が、歌にも生きています」
「戦うことしか知らなかった俺たちが、刀を使わずに人の心を動かせるのか」
斎藤が静かに呟いた。
「できるよ! 絶対できる!」
エリオットが、すぐに答えた。
「俺はよ!」
原田が勢いよく身を乗り出す。
「音ちゃんたちの演奏も、舞ちゃん一座の芝居も、格好いいと思ったんだ! 歌って、踊って、芝居して、あんなに大勢を笑わせて、泣かせられるんだぞ! 俺たちにもできるなら、やってみてぇ!」
「僕もです。できなかったことが、できるようになるのは楽しいですから」
沖田が笑った。
「わしらは、狭い国ん中しか知らんかったき。海の向こうに来たら、戦以外にも命を使えるもんが山ほどあった。こりゃあ、乗らん方が損ぜよ」
龍馬も楽しそうに笑う。
「俺は今まで、壊すことばかり考えてきた。身分も、国の仕組みも、腐った連中も、全部ぶっ壊せばいいと思っていた」
高杉は自分の手を見た。
「だが、人を熱くさせるものなら、壊すだけじゃなく作ることもできる。それを知った」
「僕も、この国へ来て、守り方は一つではないと知りました。刀を持つことだけが、国や人を守る方法ではない」
桂も続けた。
「僕たちの声が誰かの力になるのなら、最後までやり遂げたいです」
リリアーナは七人を見た。
「お前ら、ほんまに嫌やないんか。無理してへんか。嫌なら今言え。始まってからでは遅いぞ」
「もう嫌じゃねぇよ」
土方が迷わず答えた。
「最初は、何で俺たちがこんなことをって思ってましたけどね。今は、ちゃんとやり遂げたいと思ってます」
「俺もだ。刀を使わずに人の心を動かす方法を、俺も学びたい」
斎藤も、まっすぐリリアーナを見た。
「アニキ」
土方が席を離れ、リリアーナの前へ進む。
「俺たちを、ここまで連れてきてくれてありがとうございます。アニキのためなら、俺は命をかけられます」
「僕もです。アニキのためなら迷いません」
沖田もリリアーナを見た。
「この命、あなたに預ける」
斎藤も静かに頭を下げる。
「俺もだ! 舞台でも戦場でも、アニキが行けって言うなら、どこへでも行く!」
原田が胸を張った。
「わしもぜよ。アニキについていけば、まだ見たことのない世界が見られる気がする」
龍馬が笑う。
「俺は、アニキが作るものを最後まで見届けたい」
高杉が力強く言った。
「僕も、アニキを信じます。この命をかけてもよいと、そう思える方に、ようやく出会えました」
桂も穏やかに頭を下げた。
「……そうか」
リリアーナは少しだけ目を細めた。
「ありがとな。ええ夢、見つけたやんけ」
「僕たちも、変わったリリアーナに初めて会った時、簡単に命をかけるなって言われたんだよね」
エリオットが懐かしそうに笑った。
「僕も! 他にやることを考えろって言われた!」
レオンが、すぐに続く。
「僕は、リリアーナの好感度表を作って、人を攻略するなって怒られたよ」
エミールが言うと、ノエルも笑った。
「僕を見てって言ったら、人を見られるようになれって言われた」
「僕は、仕事をしろって」
アレクシスも続ける。
「僕もだよ。だから事業も始めたんだ」
ルシアンが笑った。
「僕も、みんなと仲良くしていれば、リリアーナが好きになってくれるって思ってたんだけど」
セシルは少し照れながら笑った。
「ただ仲良くするだけじゃない。人のために、その能力を使えって教えてもらったんだ」
「お前らの命かけるは、覚悟もクソもなかったからな」
リリアーナが言うと、全員が声を上げて笑った。
ロイヤルフラグメントは、リリアーナを見ていた。
日本から来た七人は、清司を見ていた。
全員、別々の相手に命を預けているつもりだった。
けれど、リリアーナも清司も、同じ一人の人間だった。




