↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
128/136

第128話 さわやか

 翌朝。


 サニーテレビ放送局では、朝から明るい音楽が流れていた。


『さわやか』


 白い机の中央で、エリオットが両手を広げる。


「世界のみんなー! おはよう☆!」


 きらきら。


 眩しい笑顔。


 その隣には、歌手や役者たちが日替わりのコメンテーターとして並んでいた。


「朝の情報番組! 『さわやか』の時間だよ!」


 スタジオに拍手が響く。


「今日は、開局記念歌謡祭で顔をお披露目した二組の新人男性アイドル! SNGとBIGWAVEの育成現場に密着するよー!」


 映像が切り替わった。



 鏡張りのレッスン室。


 魔石カメラの前へ、セシルが勢いよく飛び込んでくる。


「世界のみんなー! こちらレッスン室だよー!」


 ぱちり。


 ウインク。


「まずはSNGから☆!」


 セシルの後ろでは、土方、沖田、斎藤、原田の四人が横一列に並んでいた。


 その前には、音ちゃん、舞ちゃん、レオン。


 音ちゃんが楽譜を広げる。


「SNGの曲は、明るくて、聴いた人が一緒に踊りたくなる曲です」


 舞ちゃんも四人の顔を見た。


「ただ笑うだけではいけません。一人ずつ、見ている方へ笑顔を届けてください」


「はい!」


 レオンが手を叩いた。


「じゃあ最初からいくよ!」


 音楽が流れる。


 曲名は。


『爆弾』


 明るい音。


 弾む足。


 大きく広がる腕。


 レオンが拍に合わせて合図を出した。


「右! 左! 回って!」


 最前列では、セシルが四人と向かい合って踊っていた。


 一度教わっただけの振り付けを、すでにほとんど覚えている。


「ここで腕を上げるよー! 次は足を前へ! 最後は笑顔☆!」


 くるりと回り、鏡越しの魔石カメラへ、ぱちりとウインク。


 モニター室。


 リリアーナとバルド、ミレーヌは、その映像を見ていた。


「なんでセシルが一番踊れんねん」


「身体を動かすことがお得意なのでしょう」


 バルドが静かに答える。


 ミレーヌも黒革手帖を見ながら笑った。


「振り付けを一度見て、ほとんど覚えたそうですよ」


「ヨガの先生みたいになっとるやん」


 レッスン室の隅では、エミールが大きな表へ次々に書き込んでいた。


『得意』


『不得意』


『歌』


『踊り』


『表情』


『体力』


『協調性』


 一人が回れば書く。


 一人が歌えば、また書く。


 一人が振りを間違えれば、さらに書く。


「細かいな」


「一人ずつ、得意と不得意を分けているようですね」


 ミレーヌが画面を覗き込む。


 バルドも静かに頷いた。


「全員を同じ形へ揃えるより、それぞれに適した位置へ置く方がよろしいかと」


「せや」


 リリアーナは腕を組んだ。


「全員を同じにすんな。得意なもんを前に出せ。苦手なもんは、隣の奴に支えさせろ」


「プロデューサーらしくなってきましたね」


「最初からプロデューサーや!」


 SNGが、もう一度『爆弾』を踊り始めた。


 まだ揃ってはいない。


 完璧でもない。


 それでも、音を外し続ける者はいない。


 立っていられなくなる者もいない。


 思っていたより、ずっと動けていた。


 舞ちゃんが顎へ手を当てる。


「悪くありません」


 音ちゃんも楽譜を見ながら頷いた。


「声も出ています。ちゃんと育てれば形になります」


「思ったより下手ちゃうな」


「セシルさんほどではありませんが」


「セシルを基準にすな」


 そのセシルは、踊り終えるとすぐに水分補給へ向かった。


 ルシアンが人数分の飲み物を並べている。


「一気に飲まないで、少しずつ飲んでね。汗をかいた分はちゃんと補給するんだよ」


「ありがとう」


 その隣では、ノエルが白い上着を着て待機していた。


 机の上には包帯、薬、冷却用の氷。


「痛いところがあったら、すぐ言ってね! 我慢したら駄目だよぉ!」


「保健医までおるんか」


「安全第一でございます」


「アイドル育成に隙がないな」


 画面の端では、アレクシスが衣装のデザイナーたちと話していた。


 布を広げ、飾りを合わせ、舞台照明の下でどう見えるかを確認している。


「SNGは明るさと親しみやすさを前に出したいね。でも、子どもっぽくなりすぎないようにして」


 別の布を手に取る。


「国外へ出た時にも、一目で覚えてもらえる衣装にしよう」


 デザイナーたちが一斉に書き留めた。


「こっちはもう世界進出の話しとるぞ」


「アレクシスさんですから」


「初めから国外まで見ていますね」



 スタジオのエリオットの声が映像へ重なる。


「SNGのみんな、思ったより踊れてたねー!」


 コメンテーターたちも笑顔で頷いた。


「笑顔が素敵でした」


「『爆弾』も楽しい曲ですね」


「一緒に踊りたくなりました」


 画面が再びレッスン室へ戻る。


 セシルは、もう廊下を走っていた。


 右手には楽譜。


 左手には水筒。


 肩にはタオル。


 魔石カメラに気づくと、走りながら手を振る。


「次はBIGWAVEだよー! 急げ急げー☆!」


「まだ元気なんかい」


 リリアーナが思わず画面へ叫んだ。



 別のレッスン室。


 龍馬、桂、高杉が、黒を基調とした練習着で並んでいる。


 セシルが魔石カメラへ振り返った。


「こちらはBIGWAVEのレッスン室だよー! SNGとは全然違う曲に挑戦するんだって☆!」


 音ちゃんが新しい楽譜を置く。


「こちらは、明るく笑う曲ではありません。別れた相手を思い続ける、切ない曲です」


 曲名は。


『シュンシュン』


 静かな音から始まった。


 舞ちゃんが一人ずつの表情を見る。


「笑わないでください。目線を落として。それでも、見ている方から目を離させないように」


 レオンが指を鳴らした。


「三、二、一。顔を上げて!」


 三人が一斉に顔を上げる。


 音が強くなった。


 足が動く。


 腕が交差する。


 身体が大きく沈む。


 最前列では、セシルがもう一緒に踊っていた。


「ここで止まるよー! 次は一気に前へ!」


 振り返る。


 髪が揺れる。


 切ない顔。


 次の瞬間。


 魔石カメラへ、ぱちりとウインク。


「そこでウインクはいらんやろ!」


「セシルさんですから」


「なんでも可愛くなりますね」


「曲の切なさどこいってん!」


 それでも、BIGWAVEも思っていたより動けていた。


 振りを間違える者はいる。


 拍が遅れる者もいる。


 それでも全員、音を聞いて合わせようとしている。


 舞ちゃんが高杉の顎を少し上げた。


「その目はいいですね。最後まで残してください」


「分かった」


 音ちゃんは桂へ声をかける。


「声が低いので、ここを任せましょう」


「承知しました」


 龍馬は鏡の中の自分を見ながら笑った。


「踊りも、やってみると面白いのう!」


「笑わないでください」


「今の曲は駄目ながか!」


「切ない曲ですので」


「難しいのう!」


 エミールが、また表へ書き込む。


『低音』


『表情』


『瞬発力』


『体力不足』


 書く。


 見直す。


 また書く。


「エミール、表何枚目や」


「十三枚目だよ」


 モニター越しにエミールが答えた。


「本人より詳しくなりそうやな」


「まだ増えるよ」


「怖いわ!」



 リリアーナは、二つのレッスン室を交互に見た。


 SNGは明るく、四人で弾ける。


 BIGWAVEは切なく、一人ずつの個性が目に残る。


「これでええ」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、二つのモニターを静かに見ている。


「同じもん二つ作ってもしゃあない。SNGは、みんなで笑わせろ。BIGWAVEは、一人ずつ惚れさせろ」


 ミレーヌが目を輝かせた。


「分かりやすいです!」


「せやろ」


 バルドが静かに一礼する。


「音ちゃんと舞ちゃんへ、お伝えいたします」


 レッスン室では『シュンシュン』が終わった。


 三人とも肩で息をしている。


 ルシアンがすぐに飲み物を渡し、ノエルは足を痛めた者がいないか一人ずつ確認する。


 レオンは次の振りを考え、音ちゃんと舞ちゃんは楽譜を挟んで話し合っていた。


 アレクシスはBIGWAVE用の衣装へ黒い布を重ねている。


 エミールは十四枚目の表を書き始めた。


 そして。


 セシルは再びSNGのレッスン室へ走っていった。


「まだ戻るんかい!」



 画面がスタジオへ戻る。


 エリオットが両手を広げた。


「SNG! BIGWAVE! 今後も二組の成長を見届けてね☆!」


 スタジオの全員が手を振る。


 コメンテーターたちも楽しそうに笑っていた。


「思っていたより踊れていましたね」


「曲もまったく違って素敵です」


「早く舞台で見たいです」


「二組がどんなアイドルになるのか、楽しみだねー!」


 エリオットが眩しい笑顔で締めると、『さわやか』は次の話題へ移った。



 モニター室。


 リリアーナはSNGとBIGWAVEの資料を見比べた。


「歌も踊りも、これからやな」


「ですが、十分に可能性はございます」


 バルドが静かに答えた。


「うん」


 リリアーナはもう一度モニターを見た。


 歌う者。


 踊る者。


 走り回るセシル。


 表を書き続けるエミール。


 飲み物を配るルシアン。


 怪我を見て回るノエル。


 指示を出すレオン。


 衣装を見るアレクシス。


 皆、それぞれの持ち場で動いている。


 ふと。


 リリアーナの眉が寄った。


「……レイナは?」


 ミレーヌが顔を上げた。


「そういえば」


 黒革手帖をめくる。


「開局記念歌謡祭にも、いらっしゃいませんでしたね」


「昨日のCM撮影にもおらんかった」


 バルドの表情も、少しだけ変わった。


「ここ数日、お姿を拝見しておりません」


 賑やかなレッスン室。


 歌声。


 笑い声。


 足音。


 忙しく行き交う人々。


 そのどこにも。


 レイナの姿だけがなかった。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かにモニターを見つめる。


「……なんかあったんか?」


 さっきまで賑やかだったモニター室が、少しだけ静かになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。