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乙女ゲームの姫に転生した元若頭、攻略そっちのけで世界を変える――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

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第127話 最高のCM

 開局記念歌謡祭の翌朝。


 サニーテレビ放送局。


 リリアーナとミレーヌは、完成したばかりの編集室にいた。


「昨日できたばっかりですよね?」


「せや」


「もう番組表が埋まっています」


「なんでや」


 目の前の魔導液晶テレビが暗くなった。


 革張りの椅子。


 黒いスーツ。


 揺れる煙。


 西郷が葉巻に火をつける。


「ハードボイルドな男」


 静かに煙を吐いた。


「最高な一服」


『最高な一服を貴方に』


「カット!」


「最高!!」


 セシルの声が響いた。


 撮影されたばかりの映像が、そのまま放送されている。


「え?」


 リリアーナが画面を二度見した。


「もうできたん?!」


「今、撮ったみたいですよ」


「今撮ったやつが、もう流れたん?!」


 答えを待つ間もなく、画面が切り替わった。


 舞ちゃん一座の新番組。


『お友達』


 六人の男女が、同じ部屋で騒いでいる。


「その椅子は僕のだ!」


「昨日から私が座ってるわ!」


「では半分ずつ座りましょう!」


「狭い!!」


 笑い声が流れる。


「これももうできたん?!」


「昨日の夜に撮ったそうです」


「仕事が早すぎるやろ!」



 その頃。


 セシルは、すでに次の撮影現場へ走っていた。


 赤い炎。


 黒い煙。


 巨大な玉座。


 土方と高杉が、魔王のような衣装で座っている。


 土方が煙草を吸った。


「うめぇ」


 高杉がゆっくり煙を吐く。


「最高だ」


『貴方の最高な休憩に』


「カット!」


「最高!!」


 映像が即座に放送局へ送られる。


「また?!」


 リリアーナが椅子から立ち上がった。


「撮った直後やろ?!」


「生まれたてのCMですね」


「生まれたてをそのまま出すな!」



 画面が切り替わった。


 大きな螺旋階段。


 華やかな音楽。


 バルドが階段の下に立っていた。


「皆様。『Vステーション』でございます」


 階段の上から、二組の歌手がゆっくり降りてくる。


 一組目が一曲。


 二組目も一曲。


 歌い終えると、画面は再び切り替わった。



 パン屋『パンチ』。


 ノエルが焼きたてのパンを持っている。


「やわらかいパンだよ!」


 龍馬が腕を組んだ。


「そんなパンがあるわけなかろう!」


「もう! 食べてみてよぉ!」


 ノエルがパンを龍馬の口へ押し込んだ。


 龍馬が目を見開く。


「最高ぜよ!!」


『最高なパンを貴方の食卓に』


「カット!」


「最高!!」


「もう流れた?!」


「流れましたね」


「セシル、まだ帰ってきてもないやろ?!」


「次の店に向かっています」


「休ませたれや!」



 そのセシルは、馬車の窓から魔石カメラへウインクした。


「チャンネルはそのまま☆!」



 画面が切り替わる。


 舞ちゃん一座の連続ドラマ。


『悪役令嬢は愛される』


「お前をこの国から追放する!」


「承知いたしました」


「止めないのか?!」


「追放されますので」


「待て!」


「なぜ追うのです?」


「愛しているからだ!」


「では追放しないでください」


「その手があったか!」


 リリアーナが遠い目をした。


「悪役令嬢が一番まともやん」


「話が早いですね」


「恋愛まで業務改善すな」



 ドラマが終わると、再び『Vステーション』が始まった。


 先ほどの歌手たちは、すでに二段の席へ座っている。


 バルドが、その前に立った。


「皆様。本日二回目でございます」


「また続きやるんかい!」


 バルドは何事もなかったように歌手たちを見る。


「では、最近食べた中で最高だったものは?」


「最高しか聞くことないんかい!」


 歌手たちが順番に答えていく。


「昨日食べたパンが最高でした」


「私はアイスクリームです」


「点心店の肉まんも最高でした」


「宣伝まで完璧やないか!」



 画面が切り替わる。


 点心店『777』。


 湯気の立つ、大きな肉まん。


 原田が一口で頬張った。


「んー!」


 飲み込む。


「もう最高!」


『温かな最高の軽食』


「カット!」


「最高!!」


「また流れた!!」


「美味しそうですね」


「そういう問題ちゃう!」


「肉まん食べたいです」


「俺も食いたい!」


「では成功ですね」


「商売としては大成功や!」



 セシルは、もう次の現場へ走っていた。


 振り返りながら魔石カメラへウインクする。


「チャンネルはそのまま☆!」



 氷の翼。


 透き通った氷。


 色とりどりの飲み物。


 沖田が大きなグラスを一気に飲み干した。


「冷たくて最高にうめぇや!」


 隣で斎藤も一口飲む。


「最高です」


『最高なドリンク補給』


「カット!」


「最高!!」


「また?!」


「またです」


「斎藤、一言しか喋ってへんぞ!」


「十分伝わりました」


「伝わったけど!」


「最高でしたね」


「お前まで言うな!」



 すぐに次のCMが始まった。


 氷の翼。


 十三アイスクリーム。


 十三種類のアイスが、巨大な器に積まれている。


 ルシアンが目を丸くした。


「そんなに大きなアイス、大丈夫かい?」


 近藤が大きな匙ですくって口へ入れる。


 ひんやり。


 ぱちぱち。


 口の中で飴が弾けた。


「ひんやりパチパチ最高!」


『色んな味の最高のアイスを貴方に』


「カット!」


「最高!!」


「近藤、十三種類ほんまに食べたん?」


「一発撮りですから」


「全部食うたん?!」


「おかわりしたそうです」


「元気やな!!」


「最高だったそうですよ」


「報告まで最高やん!」



 馬車の上。


 セシルが風に髪をなびかせながらウインクする。


「チャンネルはそのまま☆!」



 ラーメン『壱乱』。


 桂が、ひたすらラーメンを食べている。


 麺をすする。


 スープを飲む。


 また麺をすする。


 セシルが、しばらく待った。


 桂は食べ続けている。


「桂さん?」


「あ」


 桂がようやく顔を上げた。


「最高すぎて集中していました」


 また食べる。


『最高の一杯を貴方に』


「カット!」


「最高!!」


 編集室が静まり返った。


「……終わったん?」


「終わりました」


「ほとんど食うてただけやで?」


「美味しさは伝わりました」


「確かに食いたなったけど!」


「成功ですね」


「なんで全部成功するねん!」



 そして最後の撮影場所。


 情熱温泉。


 白い湯気が立つ、広い露天風呂。


 日本から来た男たちが、揃って湯へ浸かっていた。


 西郷が深く息を吐く。


 土方は肩まで湯へ浸かり。


 高杉は手拭いを頭へ乗せ。


 龍馬は気持ちよさそうに湯を肩へかけている。


 ノエルは温泉卵を持っていた。


 原田は牛乳を飲み。


 沖田は泳ごうとして、斎藤に腕をつかまれている。


「泳いだら駄目だ」


「ちょっとだけです」


「駄目だ」


「けちですね」


「そういう問題ではない」


 近藤は両腕を広げ、豪快に湯へ浸かっている。


 そして。


 桂は。


 まだラーメンを食べていた。


「なんでラーメン持ち込んどんねん!」


 編集室から、リリアーナの声が響く。


 桂が箸を止めた。


「まだ食べ終わっていませんので」


「店で食い終わってから来い!」


「冷めてしまいます」


「温泉入っとる場合ちゃうやろ!」


 その時。


 セシルが魔石カメラの前へ飛び込んだ。


「みんな!」


 湯へ浸かっていた者たちが、一斉に魔石カメラを見る。


「せーの!」


「温泉最高ー!!」


『最高の癒やしを貴方に』


「カット!」


 セシルが両手を上げた。


「最高ー!!」



 完成したCMが、そのまま放送された。



 静まり返る編集室。


 リリアーナは、ゆっくり椅子から立ち上がった。


 ミレーヌも黒革手帖を持ったまま、黙って画面を見ている。


 リリアーナは机へ両手をついた。


「朝から」


「葉巻も」


「煙草も」


「パンも」


「肉まんも」


「飲み物も」


「アイスも」


「ラーメンも」


「温泉も」


「全部――」


 バンッ。


「最高しか言うことないんかい!!!!」



 その頃。


 情熱温泉では。


 セシルが次の予定表を見ていた。


「次はどこ?」


「王都の市場です」


「分かった!」


「まだ行くんかい!!」



 おいたわしいのは。


 開局二日目にして、一人だけ朝から国中を走り回り。


 CM監督。


 現場リポーター。


 番組宣伝。


 そして決め台詞まで担当していた。


 セシルなのである。

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