第125話 サニーテレビ
花田丸で、鉄ちゃんとのテレビ局建設の打ち合わせを終えた。
二組のアイドルとの契約も済ませ、一行は王宮へ戻って、ようやく遅い夕食を囲んでいた。
食卓には、湯気の立つラーメンが並んでいる。
長い一日を終えた者たちが黙々と麺をすすぐ中、リリアーナもラーメンを食べながら、今日一日の出来事を思い返していた。
いい音を見抜く、音ちゃん。
歌を歌う者。
楽器を演奏する者。
芝居を作る、舞ちゃん。
役者。
衣装。
小道具。
照明。
演出。
撮影。
そして、すでに契約を終えた二組のアイドル。
新選組の四人で結成する、歌と一糸乱れぬ踊りを武器にするグループ。
SNG。
さらに。
龍馬。
高杉。
桂。
三人それぞれの個性を前へ出す、もう一つのグループ。
リリアーナの箸が止まった。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、ふと顔を上げる。
「……ちょっと待てよ」
食卓を囲む者たちが、一斉にリリアーナを見た。
「必要な人材、もう揃ってもうたやんけ!!」
リリアーナの声が王宮の食堂に響いた。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、珍しく目を見開いている。
レイナが嬉しそうに微笑んだ。
「これだけの才能を見つけるなんて、さすがですわ」
「いや、俺も今気づいたんや!」
「それでも、見つけるのがさすがですわ」
「そうやけども!」
ミレーヌが黒革手帖を開いた。
「音楽部門には、音ちゃんと演奏者の皆様。映像と演劇には、舞ちゃんと役者、裏方の皆様」
「歌える奴がおる。楽器弾ける奴もおる。衣装も作れる。小道具も作れる。照明も演出も撮影もできる」
リリアーナは箸を持ったまま立ち上がった。
「ほんで、アイドル組とも契約済みや!」
「はい」
「もう番組作れるやんけ!」
「音楽番組も作れますね」
「舞台も放送できる!」
「できます」
「テレビドラマもできるやないか!」
「舞ちゃんたちなら、すぐに始められるでしょう」
「映画まで作れるぞ!」
「いずれは可能です」
「一日やぞ!」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が額を押さえた。
「一日で、なんでここまで揃うねん!」
その隣で、沖田が嬉しそうに麺をすすった。
「この蕎麦、うまいですね」
食堂が静まり返った。
リリアーナが、ゆっくり沖田を見る。
「お前、さっき説明受けたよな?」
「はい」
「これがどういう食いもんかも聞いたよな?」
「聞きました」
「説明受けたのに聞いてへんのかい」
沖田は丼の中を見た。
「蕎麦ではないんですか?」
「ラーメンや!」
「似ていますね」
「似とるけど違う!」
沖田は、もう一度麺をすすった。
「ですが、うまいです」
「そこだけは合っとる」
原田が声を上げて笑った。
「確かに、こいつはうめぇな!」
「お前まで蕎麦言うなよ」
「俺は言ってねぇだろ!」
食卓に笑いが広がった。
今日一日、見たことのない音楽と芝居に圧倒されていた日本から来た者たちも、王宮へ戻って温かい食事を取ったことで、ようやく肩の力が抜けていた。
土方は腕を組み、しばらく黙ってラーメンを見ていた。
「……あの音は、悪くなかった」
沖田が顔を上げる。
「土方さんが褒めました」
「事実を言っただけだ」
「かなり気に入っていましたよね」
「うるせぇ」
土方は目を逸らした。
「俺たちSNGが歌う曲に、あの音が入るなら……今までとは違うものになるだろうな」
レイナが目を輝かせる。
「きっと素敵な歌になりますわ」
「まだ歌ってもいねぇ」
「ですが、楽しみですもの」
「浮かれるな」
リリアーナが口元を上げた。
「否定はせえへんのやな」
土方は答えず、再びラーメンをすすった。
原田は隠すつもりもなく、楽しそうに笑っている。
「俺は楽しみになってきたぜ! 客の前で歌って、四人で踊るんだろ?」
「せや。踊りは全員揃える。一人でも遅れたら目立つぞ」
「面白そうじゃねぇか!」
原田が沖田の肩を叩いた。
「負けんじゃねぇぞ、沖田!」
「原田さんこそ、途中で息が切れないようにしてください」
「誰が切れるか!」
「お前ら」
土方が低い声を出す。
「遊びじゃねぇぞ」
「分かってるって!」
斎藤も静かに頷いた。
「四人の動きを揃えるのであれば、互いの呼吸を把握する必要があります。戦う時と似ていますね」
「せやけど今回は刀やなくて、歌と踊りや」
「はい」
斎藤は、いつもと変わらない顔で丼を置いた。
「楽しみになってきました」
土方が横を見る。
「斎藤までか」
「やると決めましたので」
「切り替え早ぇな」
「土方さんも、先ほどから踊りのことを考えていますよね」
「考えてねぇ」
「嘘ですね」
「沖田」
「はい」
「黙って食え」
「はい」
沖田は素直に返事をして、ラーメンをすすった。
「この蕎麦――」
「ラーメンや!」
続いて、龍馬が勢いよく身を乗り出した。
「わしらの歌も、世界中へ届けるんじゃろ?」
「せや」
「海の向こうでも、同じ歌を聞けるようになる。面白そうじゃのう!」
龍馬は箸を持ったまま目を輝かせた。
「船の上でも見られるようにできんか?」
「いずれな」
「港にも大きな画面を置きたいぜよ! 祭りの時には、広場で皆が一緒に見るんじゃ!」
「お前、もう放送事業の人間みたいになっとるやないか」
「外交も放送も、世界へ届けることには変わらんぜよ!」
「うまいこと言うな」
高杉は黙って話を聞いていたが、やがて箸を置いた。
「あの人たちなら、俺たちの音を任せてもいい」
土方が横を見る。
「ずいぶん信用したんだな」
「あれだけ本気で音を鳴らしていた。音ちゃんも、演奏していた奴らも、遊びでやっていたわけじゃない」
高杉はライブハウスで見た者たちを思い出すように目を細めた。
「俺たちも、半端な歌は歌えない」
リリアーナが頷く。
「ええ覚悟や」
「覚悟なら、もう決めている。やると決めた以上、本気でやる」
「筋通っとるやないか」
「当然だ」
桂も小さく笑った。
「私も楽しみになってきました。あの音と一緒に歌える日が待ち遠しいです」
桂は龍馬と高杉を見る。
「三人とも声も性格も違います。揃えるのではなく、それぞれの違いを力に変えることができるかもしれません」
「さすが桂や。もう自分らの見せ方考えとる」
「SNGとは違うグループにするんやろ?」
「せや。SNGは四人の動きと歌をきっちり揃える。お前ら三人は、一人ずつの個性を思い切り前へ出す」
龍馬が笑った。
「そっちの方が、わしららしいのう!」
「俺は誰かに合わせる気はない」
高杉が答える。
桂は穏やかに微笑んだ。
「そこを合わせるのが、私の仕事になりそうですね」
「苦労するぞ、桂」
「今に始まったことではありません」
「確かに」
再び食卓へ笑いが広がった。
ミレーヌは黒革手帖へ目を落とした。
「出演者以外の担当も、すでに揃っています」
「……まだおるんか?」
「はい」
エリオットが明るく手を上げた。
「宣伝と告知は僕がやるよ! 新しい番組も、出演する人たちの魅力も、ちゃんとみんなに届ける!」
「エリオットは広報やな」
「うん! 任せて!」
エミールは、すでに何枚もの紙を食卓へ並べていた。
「出演者のスケジュール表は僕が作るよ。体調管理表と、得意不得意をまとめた一覧も必要だね。歌が得意な子、踊りが得意な子、芝居が得意な子。朝に強い子と夜に強い子も分けておく」
リリアーナは紙の束を見る。
「もう作り始めとるやないか」
「契約が済んだからね」
「早すぎるやろ!」
セシルが爽やかに笑った。
「僕はみんなのそばにいるよ。緊張してる人がいたら話を聞くし、困ってる人がいたらすぐ声をかける」
「神接客のマネージャーやな」
「それに、現場へ行って、そこで起きてることを伝えるのも楽しそうだよね」
「現場リポーターか?」
「うん! 初めて会う人とも、いっぱい話してみたい」
「お前なら、相手の緊張もすぐ解けそうやな」
セシルは魔石カメラでもあるかのように、食卓の向こうへ笑いかけた。
「現場からは以上だよ! 画面の前の君に届け!」
食堂が静まり返った。
「もう決めゼリフまでできとるやないか!」
「いいでしょ?」
「爽やかすぎるわ!」
レオンが姿勢を正した。
「僕は現場を管理する。開始の合図、出演者が舞台へ出る瞬間、照明や撮影を動かす合図。全部揃えるよ」
「レオンは合図得意やもんな」
「任務で覚えたことが、別の形で役に立つとは思わなかった」
「人を動かすんやなくて、舞台を動かすんや」
「うん。悪くないね」
アレクシスは契約書を確認していた。
「傘下国で放送するための許可は僕が取るよ。国外での公演や撮影に必要な契約書も、こっちで用意する」
「国ごとに決まり違うもんな」
「出演者が不利な契約を結ばされないよう、先に全部確認しておくよ」
「海外と契約関係はアレクシスやな」
「うん。龍馬との外交にも繋がるね」
龍馬が嬉しそうに笑った。
「一緒に世界へ広げるぜよ!」
「まず順番に許可を取ろうね」
「堅いのう!」
「必要なことだよ」
ルシアンは、空になりかけたコップへ飲み物を注いでいた。
「僕は飲み物を用意するよ。歌う前と歌ったあとでは、出すものを変えた方がいいよね」
「食事もいるな」
「収録前に重いものは出せないし、長い撮影なら途中で食べやすいものがいると思う」
「ルシアンは、ドリンク中心の食事担当やな」
「酒は?」
原田が聞いた。
「仕事が終わってから」
「分かってるじゃねぇか!」
「先に仕事を覚えてよ」
「厳しいな!」
ノエルがラーメンを食べながら、静かに手を上げた。
「体調を崩した人がいたら、僕が回復するよ。喉を痛めた人も、舞台で怪我した人も見られる」
少しだけ頬を膨らませる。
「でも、僕が治せるからって無理させちゃ駄目だからね」
「そこ大事やな」
「ちゃんと休ませてね」
「分かった」
「約束だよ」
「分かった言うとるやろ!」
ノエルは満足そうにラーメンへ戻った。
リリアーナは食卓を見回した。
広報。
スケジュール管理。
体調管理。
出演者の世話。
現場リポート。
現場の進行。
傘下国との交渉。
契約。
食事。
飲み物。
回復。
役者もいる。
演奏者もいる。
裏方もいる。
二組のアイドルもいる。
「ほんまに芸能事務所できるやんけ!」
「建物はありませんけど」
ミレーヌが冷静に答えた。
「そこや!」
リリアーナは頭を抱えた。
バルドが静かにラーメンの器を置く。
「残るは、番組を進める者でしょうか」
「司会か」
「はい。出演者をご紹介し、お話を伺い、次の演目へつなぐ者が必要です」
食卓にいる全員が、バルドを見た。
「……なんでしょうか」
「バルド」
「はい」
「お前、司会やれ」
「私が、ですか?」
「お前以外おらん」
ミレーヌも迷わず頷く。
「適任です」
レイナが胸の前で手を組んだ。
「バルドなら、どのような方が相手でも安心ですわ」
セシルも笑った。
「場が騒がしくなっても、バルドならすぐ戻せるよね」
「うん!」
エリオットも大きく頷いた。
「鈴鳴らしたら、僕たちも静かになるよ!」
「お前ら基準なん?」
「すごく効くよ!」
「知っとるわ!」
バルドは少しだけ考えた。
「承知いたしました」
「受けるんかい!」
「必要な役目なのでしょう?」
「せやけど!」
「では、お引き受けします」
バルドは静かに一礼した。
「皆様。本日もサニーテレビをご覧いただき、ありがとうございます」
食堂が静まり返った。
声。
間。
姿勢。
落ち着いた空気。
もう番組が始まっていた。
「できとるやないか!!」
レイナが目を輝かせる。
「素敵ですわ!」
エリオットも身を乗り出した。
「看板司会者だね!」
原田が笑った。
「なんか急に、ちゃんとした番組みてぇになったな!」
沖田がラーメンをすすりながら頷く。
「毎週見たいです」
「お前、出る側や!」
「そうでした」
バルドは何事もなかったように食事へ戻った。
その時、食堂の扉が開いた。
光秀が書類を手に入ってくる。
「失礼いたします」
「なんや?」
「国王陛下より、放送局名について通達がございます」
「もう決めたんかい」
「はい」
光秀は書類を開いた。
「新設する放送局の名称は、サンシャインテレビ……」
一度、言葉が止まる。
「長いな。サニーテレビにせえ」
「とのことです」
食堂が静まり返った。
リリアーナが瞬きをする。
「今の、全部オヤジの言葉か?」
「はい」
「通達の途中で名前変わっとるやないか」
「国王陛下が口に出したところ、長いと判断されたようです」
「考える前に気づけや!」
「すでに正式名称は、サニーテレビとして登録されております」
「はやっ!」
ミレーヌが黒革手帖へ書き込んだ。
『放送局名:サニーテレビ。
命名者:国王陛下。
理由:サンシャインテレビは長い。』
「理由まで残さんでええ!」
「記録ですので」
光秀は、もう一枚の書類を開いた。
「続いて、龍馬様、高杉様、桂様のグループ名についても通達がございます」
「それもオヤジが決めたんか?」
「はい」
龍馬が身を乗り出した。
「なんちゅう名前じゃ?」
光秀は、そのまま読み上げた。
「荒波のような男やろ。やから、BIGWAVEや!」
食堂が静まり返った。
「……勢いだけやないか」
「ええ名前じゃ!」
龍馬が立ち上がった。
「海を越えるわしらに、ぴったりぜよ!」
高杉が腕を組む。
「荒波か。悪くない」
桂も小さく笑った。
「誰が最も荒れるのかは、考えるまでもありませんね」
「俺を見るな」
「高杉以外おらんやろ」
「勝手に決めるな」
龍馬が二人の肩を抱く。
「今日からわしらは、BIGWAVEぜよ!」
「近い」
「離れろ」
「桂も笑っとらんで助けろ」
「よい名前ではありませんか」
「お前まで受け入れるのか」
「荒波のような二人を、私が無事に岸まで運べばよいのでしょう?」
「桂だけ船頭やないか」
光秀は、さらに書類をめくった。
「続いて、放送事業の進捗をご報告いたします」
「待て」
リリアーナが嫌そうに光秀を見る。
「なんで進捗報告があんねん」
「本日の指示を受け、各部門が動きました」
「今日の指示やぞ?」
「はい」
「ほんの数時間前やぞ?」
「はい」
嫌な予感しかしない。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、ゆっくり腕を組んだ。
「魔石カメラは?」
「準備を完了しております」
「は?」
「舞ちゃんたちが使用していた撮影機材を基に、放送へ接続できるよう調整いたしました」
「もう使えるん?」
「はい」
「チャンネルの切り替えは?」
「完成しております」
「待て待て待て」
「番組ごとに切り替えて受信できるよう、魔導通信網へ接続済みです」
「いつやったんや!」
「皆様が花田丸で、鉄ちゃんとテレビ局建設の打ち合わせをしている間です」
「俺らが建物の話しとる間に、中身できとるやないか!」
光秀は、さらに書類をめくった。
「魔石リモコンも完成しております」
「リモコンまで!?」
「はい」
「試作品やろ?」
「量産済みです」
「なんでや!」
「既存の商品を応用できたため、工場で直ちに生産へ入りました」
「ほんで?」
「物流部門より、各地へ発送いたしました」
リリアーナが固まった。
ミレーヌも黒革手帖を持ったまま止まっている。
食卓を囲む者たちが、次々と顔を見合わせた。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司まで、珍しく目を見開いていた。
「はやっ!!!!」
リリアーナの声が、王宮全体に響いた。
「まだテレビ局建ってへんぞ!」
「はい」
「芸能事務所もないぞ!」
「はい」
「番組表もないやろ!」
「現在、エミール様が作成しております」
「もう作らされとるやないか!」
エミールが紙を見ながら答える。
「だいたいできたよ」
「いつの間に!?」
「さっきから」
「ラーメン食べながら作るな!」
「でも明日いるんでしょ?」
「明日!?」
光秀は淡々と続けた。
「ニュースは、エリオット様が担当されます」
「広報だけやなかったんか?」
エリオットが明るく笑った。
「僕、ほかのみんなより暇そうだからね!」
「自分で言うんかい!」
「国のお知らせを分かりやすく伝えればいいんでしょ? それなら任せて!」
「急に仕事増えたのに明るいな!」
「現場からの報告は、セシル様が担当されます」
セシルが爽やかに手を上げた。
「うん!」
そして、すぐに笑顔を作った。
「現場からは以上だよ! 画面の前の君に届け!」
「まだ現場行ってへん!」
「練習だよ」
「完成度高すぎるわ!」
「放送する場所は!?」
「既存の設備を利用いたします」
「なんでもう始める前提やねん!」
「魔導テレビを所有する家庭より、早く見たいとの要望が届いております」
「リモコン届く前から待っとったんか!」
「魔石リモコンは、すでに到着し始めています」
「物流まで速すぎるやろ!」
光秀は、何事もなかったように書類を読み上げた。
「明朝より、サニーテレビの放送を開始する予定です」
「明朝!?」
「はい」
「明日!?」
「はい」
「今日、人材見つけたとこやぞ!」
「皆様、すでに準備へ入っております」
「休ませたれや!」
「音ちゃんは、最初の音楽番組へ出演する者を選んでおります。舞ちゃんは、短い芝居の撮影準備へ入りました。役者と裏方の皆様も、衣装や舞台を整えております」
「仕事早すぎるやろ!」
「SNGとBIGWAVEには、明朝集合するよう通達済みです」
土方が箸を止めた。
「明朝?」
「はい」
「何時だ」
「日の出前です」
「早ぇな」
「浮かれるな言うてた奴が、一番受け入れるん早いやないか!」
「やると決めたからには、遅れるわけにいかねぇだろ」
高杉も静かに頷いた。
「当然だ」
斎藤も箸を置く。
「何時に起きればよいでしょうか」
「お前ら、順応早すぎるやろ!」
原田は楽しそうに笑っている。
「いよいよ始まるんだな!」
龍馬も目を輝かせた。
「BIGWAVEの歌が、明日から世界へ届くんか!」
「最初から世界までは届かん!」
「いずれ届くんじゃろ?」
「届かせるけども!」
桂は穏やかにラーメンをすすった。
「この国では、話が決まってから形になるまでが随分早いのですね」
「早いにも限度があるわ!」
エミールが紙へ書き込む。
「じゃあ、明朝の集合時刻も予定表へ追加するね」
セシルも頷いた。
「みんなが迷わないように、集合場所で待ってるよ」
レオンが椅子から立ち上がりかけた。
「僕、今から現場の動線見てくる!」
「飯食ってからにせえ!」
「でも気になる!」
「明日見れる!」
「今も見れるよ?」
「座れ!」
「はーい」
レオンは素直に座った。
アレクシスは契約書を開いていた。
「放送に関する契約条項を追加しておくよ」
「明日までに間に合うん?」
「間に合わせる」
「今日は寝ろよ」
「終わったら寝るよ」
「小一が仕事しすぎやねん!」
ルシアンは空になった器を下げながら考えていた。
「明朝なら、喉に負担の少ない飲み物を用意しないとね。朝ごはんもいるよ」
「お前まで動き出すな!」
「でも、お腹空くよ?」
「それはそう」
「じゃあ作るね」
「話早っ!」
ノエルも手を上げた。
「僕は救護に必要なもの、まとめておくね!」
「お前も今から?」
「明日の朝にする」
「お前だけ偉い!」
「褒められた!」
ノエルが嬉しそうに笑った。
エリオットは笑顔で紙を掲げる。
「僕は開局のお知らせ書く!」
「広報も待て!」
「でも明日の朝だよ?」
「……書け!」
「やった!」
「何がやったや!」
バルドだけは、静かにラーメンを食べ終えていた。
「では、私は明朝の最初のご挨拶を考えておきます」
「看板司会者まで完成しとる!」
レイナが嬉しそうに微笑んだ。
「楽しみですわ」
「レイナまで!」
「だって、清司さんが見つけた皆様の番組ですもの。絶対に素敵ですわ」
リリアーナは頭を抱えた。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同じように額を押さえている。
建物はない。
芸能事務所もない。
だが。
人材はいる。
撮影機材もある。
放送網もある。
チャンネルを切り替える仕組みもある。
魔石リモコンも、すでに届き始めている。
二組のアイドルがいる。
広報も。
ニュース担当も。
現場リポーターも。
看板司会者まで決まった。
「……ほんまに始まるんか」
「はい」
光秀は迷いなく答えた。
「サニーテレビ」
一度、書類へ目を落とす。
「明朝開局です」
リリアーナは、まだ湯気の残るラーメンを見た。
「俺、今日テレビ局作るって決めただけやぞ……」
誰も答えなかった。
もう全員、明日の仕事のことを考えていた。




