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乙女ゲームの姫に転生した元若頭、攻略そっちのけで世界を変える――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

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第122話 本物

 テルリッチ公園に、大きな声が響いた。


「土方様!」


「沖田様!」


「龍馬様!」


「高杉様!」


 日本から来た者たちが、一斉に足を止めた。


 公園には朝から、多くの人が集まっていた。


 パンチ売店。


 七七七売店。


 氷の翼。


 壱乱。


 どの店にも、長い列ができている。


 その人々が、日本から来た男たちを、きらきらした目で見ていた。


「昨日の放送、見ました!」


「畑で笑っていたところ、すてきでした!」


 沖田の笑顔が止まった。


「昨日の放送?」


「はい!」


「土方様と高杉様が、見つめ合っていたところも!」


「誰が」


「誰とだ」


 土方の声が低くなった。


 高杉も、人々をにらむ。


「見つめ合ってねぇ」


「でも、運命の再会だって!」


「誰が言った」


「中央テレビです!」


 高杉の眉が動いた。


 少し離れた場所では、龍馬と桂も人に囲まれていた。


「龍馬様!」


「桂様と、未来を語っていたんですよね!」


「飯を食うとっただけぜよ」


 龍馬の笑顔が消えた。


 桂も静かに人々を見る。


「どこで撮られたのですか」


「昨日の特別番組です!」


「畑も、街も、食事しているところも、全部ありました!」


 桂の目が冷たくなった。


 斎藤が静かに口を開く。


「全部?」


「はい!」


「毎日密着しているみたいで!」


 原田の顔が変わった。


「毎日?」


「俺たちに黙ってか?」


 人々の声が、少しずつ小さくなった。


 その時。


 公園の大きな魔導テレビが光った。


『密着! イケメン☆日本軍団』


 派手な文字が、画面いっぱいに映った。


 次に映ったのは、畑で働く土方だった。


『仲間を見守る』


『不器用な愛』


「……誰が愛だ」


 土方の顔から、表情が消えた。


 続いて、野菜を持って笑っている沖田が映る。


『天使の笑顔』


 沖田は画面を見たまま、笑顔を消した。


 次は、道具を取りに歩く斎藤。


『誰にも見せない孤独』


「道具を取りに行っただけだ」


 斎藤の声は静かだった。


 だが、目はまったく笑っていない。


 次は、水路の泥を運ぶ原田。


『汗も輝く』


『力強い男』


「ふざけんな!」


 原田の声が公園へ響いた。


「俺たちは、見世物じゃねぇぞ!」


 画面が切り替わる。


 龍馬と桂が、食事をしている。


『未来を語る二人』


 龍馬は画面を見上げた。


「これは、笑って済ませる話じゃないぜよ」


 桂も静かにうなずいた。


「私たちの知らないところで、ここまで撮られていたのですか」


 次は、壁へもたれる高杉。


『輪に入れない』


『不器用な男』


「今すぐ、撮っとる奴を連れて来い」


 高杉の声に、人々が一歩下がった。


 その少し後ろで。


 リリアーナが、画面を見ていた。


 その横には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。


 その目は冷たかった。


 黒スーツ姿の清司が見える者たちも、黙ってその横顔を見ていた。


 ミレーヌが黒革手帖を開く。


「清司さん。昨日、中央放送局で、もう勝手に撮らないよう伝えましたよね」


「言うた」


 リリアーナの声が低くなる。


「俺が直接言うた」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、画面を見たまま動かない。


 画面が、また切り替わる。


 今度は、中央放送局でリリアーナがポスターを破っている映像だった。


『もう』


『こっちのタレント』


『勝手に撮るな』


 土方の顔が、さらに冷たくなった。


「アニキが止めろと言った場面まで、勝手に流したのか」


 沖田の声も低くなる。


「これだけはっきり言われても、まだ続けていたんですね」


 斎藤は、魔導テレビを見たまま静かに言った。


「警告を無視したのか」


 桂の目も、さらに冷たくなった。


「止めるよう言われたことを、承知した上で続けていたのですね」


 原田が拳を握る。


「俺たちだけじゃねぇ。アニキまで見世物にしやがった」


 龍馬も笑っていなかった。


「わしらは、人を殺す道具として使われてきた。やっと、自分の仕事を選べるようになった。それを、また勝手に使うたんか」


 桂の手も、静かに握られている。


「本人の意思を聞かない。それでは、日本にいた頃と何も変わりません」


 高杉が画面をにらんだ。


「俺たちの意思を、また無視する気か」


 誰も止めなかった。


 日本から来た者たちは、全員、本気で怒っていた。


 その怒りを、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は静かに見ている。


 その拳が、ゆっくり握られた。


 リリアーナは、公園の木を見る。


 枝の間に、小さな撮影用魔石が隠されていた。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同じ場所を見ている。


 リリアーナは木へ近づき、枝へ手を伸ばした。


 撮影用魔石をつかむ。


 その瞬間。


 公園の画面が切り替わった。


 テルリッチ公園。


 繁華街。


 王宮。


 各家庭。


 傘下国。


 世界中の魔導テレビへ、リリアーナの姿が映った。


 その横には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。


 転生者にだけ、その姿が見えている。


「詠女」


 リリアーナが撮影用魔石へ言った。


「お前、勝手に撮るなって、俺が直接言ったよな」


 少しして、魔石の向こうから詠女の声が返ってきた。


『ですが』


『数字は取れておりますので』


 その瞬間。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司の目が、大きく変わった。


 強い怒りが、リリアーナへ重なる。


 姫の姿と、黒スーツ姿の清司が一つになった。


 その姿が見える者たちが、息を止める。


「数字が取れたら、何してもええんか」


『多くの視聴者が喜んでおります』


「本人らが喜んでへんやろ」


『ですが』


「もうええ」


 リリアーナは、詠女の言葉を切った。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、まだリリアーナへ重なっている。


「よう聞け」


 世界中の人々が、魔導テレビを見ていた。


「俺たちは、本物のチャンネルを作る」


 公園がざわついた。


「本人に黙って撮らん。勝手に話を作らん。知らん間に見世物にもせん」


 リリアーナは、撮影用魔石をまっすぐ見た。


「出る奴にも、撮る奴にも、作る奴にも、ちゃんと話を通す。それが、俺らの作る新しいテレビや」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、ゆっくりリリアーナの横へ戻る。


 だが、その目はまだ怒っていた。


「土方」


 土方が顔を上げる。


「沖田。斎藤。原田」


 四人がリリアーナを見た。


「龍馬。桂。高杉」


 三人も、まっすぐリリアーナを見る。


「この二組を、正式にアイドルとして売り出す」


 一瞬。


 公園から音が消えた。


 次の瞬間。


 大きな歓声が響いた。


「本当に!?」


「二組とも!?」


「土方様が!」


「龍馬様たちも!」


 リリアーナは、歓声の中で言葉を続ける。


「こいつらが、自分の足で、自分の意思で舞台に立つ」


 日本から来た者たちは、黙って聞いていた。


「勝手に撮られた姿やない。自分らで決めて、自分らの名前で、胸張って立つ姿を、俺らが流す」


 怒りは、まだ消えていない。


 だが。


 自分たちの立つ場所を、清司が正面から作ろうとしている。


 そのことは、全員に伝わっていた。


「それとな」


 リリアーナが、世界中へ言った。


「新しいチャンネルができるからって、今ある魔導テレビを捨てんでええ」


 人々が顔を見合わせる。


「買い替えんでええ。余計な金も使わんでええ。今までの番組も見られる。俺らの番組も見られる」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、人々の顔を静かに見ている。


 魔導テレビは、安い物ではない。


 新しい物を、また買わせる気はなかった。


「見たい方を、自分で選べるようにする」


 公園の人々の表情が和らいだ。


「どっちを見るかは、俺らが決めることやない。お前らが決めろ」


 人々が、ほっとしたように笑った。


「今ある暮らしを壊さんように、こっちで道を作る。せやから、安心して待っとけ」


 世界中から、大きな歓声が上がった。


 リリアーナは歓声の中で、撮影用魔石へもう一度、冷たい目を向けた。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、同じ目で魔石を見ている。


「詠女」


『はい』


「これ以上、勝手に俺らへ関わったら」


 一度、言葉を止める。


「お前、その仕事から降ろすぞ」


 魔石の向こうが静かになった。


 詠女からの返事はなかった。


 リリアーナは、撮影用魔石をバルドへ渡した。


 バルドは静かに受け取る。


「こちらは、中央放送局へ返却いたします」


「ああ」


 その時。


 沖田がリリアーナを見た。


「……やっぱり、アニキですね」


 原田も少しだけ笑った。


「ああ。やっぱり、アニキだ」


 斎藤は静かにうなずく。


 土方も、口元をわずかに上げた。


「……やっぱり、アニキだな」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、四人を見た。


 少しだけ口角を上げる。


 だが、何も言わない。


 少し離れた場所では、龍馬がリリアーナを見ていた。


「……やっぱり、あの人について来て、よかったのう」


 桂も静かにうなずく。


「ええ。怒るだけで終わらせない。次に立つ場所まで、作ってくださる」


 高杉は、腕を組んだまま口の端を上げた。


「俺たちが、あの人について来たのは、間違いじゃなかったな」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、その言葉を聞いて少しだけ目を伏せた。


 その時。


「黒王子!」


 パードの声が響いた。


「うちらも、新しいチャンネルやるからね!」


 その後ろには、パードの仲間たち。


 そして、スギナとアネイモもいた。


「私たちも、お手伝いいたします」


「新しく入られる方々を支えます」


 リリアーナは彼女たちを見た。


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かに見ている。


 少しだけ黙ったあと。


「悪いけど、中央テレビに帰ってくれ」


「えっ」


 パードの笑顔が止まった。


 スギナも目を瞬かせる。


「でも、うちら、向こうもこっちもやるって――」


「両立なんて、中途半端になる。こっちは俺たちだけでやる。お前らは、お前らの仕事をしてくれ」


 パードは何も言えなかった。


 スギナも、胸の前で組んでいた手をゆっくり下ろした。


「私たちは、必要ではないのでしょうか」


「ちゃう」


 リリアーナは、すぐに答えた。


「中央テレビに、お前らが必要やから言うとる。今まで作ってきたもんを、途中で放り出すな。向こうで、お前らを待っとる奴もおる。その仕事を、ちゃんとやってくれ」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、少しだけ目を伏せた。


「気持ちはありがたかった。せやけど、一緒におることだけが役に立つことやない。自分の持ち場を守ってくれ」


 パードは、いつものように文句を言わなかった。


 スギナも静かに頭を下げる。


「……分かりました」


 アネイモも、隣でうなずいた。


「中央テレビへ戻ります」


「ああ。頼むわ」


 パードと仲間たち。


 スギナとアネイモは、何度も振り返りながら中央放送局へ帰っていった。


 リリアーナは、その背中をしばらく見送っていた。


 誰かのそばにいることだけが、仲間ではない。


 それぞれが、自分の持ち場を守る。


 それもまた。


 一緒に進むということだった。

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