第118話 重大発表
翌日。
リリアーナは龍馬を連れ、学園へ向かっていた。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が静かに歩いている。
龍馬は新しいブーツで軽く地面を踏み、嬉しそうに足元を見た。
「ええなぁ。動きやすいぜよ」
「世界中歩くんやろ。それくらい丈夫やないとな」
「大事にするぜよ」
「使い潰せ。また作ったる」
龍馬が笑った。
「頼もしいぜよ」
「今日はアレクシスとリキュウに正式に引き合わせる。お前の進路、外交と商いや。それでええんやな」
龍馬は迷わず頷いた。
「やりたいぜよ。海を越えて国と国を繋ぎたい。物だけやない。人も、考え方も、未来も。全部じゃ」
「ええやん。そのための二人や」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、少しだけ目を細めていた。
学園の応接室では、アレクシスとリキュウが待っていた。
「連れてきたで」
アレクシスが椅子から立ち上がり、龍馬を見る。
「君が龍馬だね」
「そうぜよ。よろしく頼む」
リキュウも静かに頭を下げた。
「お話は伺っております。海と交易に、強い関心をお持ちだと」
「関心どころやない。わしは海の向こうまで全部繋ぎたいがじゃ」
リリアーナは三人を見渡した。
「アレクシスは外交と見せ方。リキュウは商いと交渉。龍馬は海と未来。三人で動け」
「分かりやすい配置だね」
アレクシスが笑う。
「顔もうるさいしな」
「それ必要?」
「必要や。外交は第一印象も大事やからな」
「じゃあ最大限使う」
「すぐ乗るやん」
リキュウは机の上へ地図を広げた。
「まず、傘下国の産物と不足している物を整理しております。こちらでは穀物が不足し、こちらでは布と薬を必要としております」
龍馬がすぐに地図へ身を乗り出す。
「この海路、もう少し港を増やせるぜよ。陸路とも繋げたら荷が止まらん。船も増やせるし、人の行き来も増える」
アレクシスも別の国を指した。
「ここは品物を置くだけじゃ動かないよ。何がいいのか、ちゃんと見せないと」
「なら、実際に使うところまで見せるぜよ」
「それいいね」
リキュウも頷いた。
「よい考えです。商いは売って終わりではありません。必要な物を必要な場所へ届け、その先の暮らしまで変えてこそ続きます」
「わしもそう思うちゅう」
龍馬は真っすぐ二人を見る。
「儲けるだけやない。国も、人も、豊かになる商いがしたい」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、三人を静かに見ていた。
海を見る龍馬。
国と人を見るアレクシス。
品と商いを見るリキュウ。
見ている場所は違う。
だが、向かう先は同じだった。
アレクシスが龍馬へ手を差し出す。
「じゃあ、一緒に世界変えよう」
龍馬は迷わず、その手を握った。
「望むところぜよ」
リキュウも二人の横へ立つ。
「商いで、国を豊かにしましょう」
「頼んだで」
三人が同時に頷いた。
応接室を出ると、廊下にはすでに令嬢たちが集まっていた。
「……龍馬さん?」
「龍馬さんですわ!」
「本物ですの!?」
「テレビで拝見しました!」
「爽やかですわ!」
「笑顔が素敵です!」
次々に令嬢が集まってくる。
「握手してくださいませ!」
「お話ししてもよろしいですか!?」
「サインはございますの!?」
「さいん?」
龍馬が困ったように笑った。
「まだ持ってへん」
「今作ろうとすな」
「姫さん、えらいことになっちゅう」
「思ったより人気出とるな」
リリアーナの横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、集まった令嬢たちを見ながら静かに腕を組んでいた。
チリン。
澄んだ鈴の音が廊下へ響く。
令嬢たちが一斉に静かになった。
人混みの向こうには、いつの間にかバルドが立っている。
「皆様、校門前へお願いいたします。道をお空けください」
令嬢たちは不思議なくらい素直に動き、バルドが歩く先から人の波が左右へ分かれていった。
「海割れとるやん」
「進行ですので」
校門前には、生徒たちが次々と集まってきた。
王子。
公爵。
王女。
令嬢。
教師。
窓から顔を出している者までいる。
バルドが階段の上へ立ち、魔石式の拡声器を手にした。
チリン。
「皆様。リリアーナ姫様から、重大発表がございます」
ざわめきが一瞬で止まる。
「全員に聞こえとるな」
「問題ございません」
リリアーナは龍馬と並び、階段の中央へ立った。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が集まった生徒たちを見渡している。
「この龍馬」
令嬢たちの目が一斉に輝く。
「それから、桂、高杉。この三人で一組」
ざわっ。
「そして、土方、沖田、斎藤、原田。この四人でもう一組」
今度は別の場所から歓声が漏れた。
リリアーナは大きく手を上げる。
「この二組――アイドルになる!」
一瞬。
学園が静まり返った。
「両方、推したってくれ! 俺が自らプロデュースする!」
「キャーーーーーー!!!!!」
学園が揺れた。
「龍馬様!」
「高杉様!」
「土方様!」
「沖田様!」
「桂様!」
「斎藤様!」
「絶対見に行きますわ!」
「両方応援いたします!」
「素敵ですわー!!!」
その中で、一人の令嬢が首を傾げた。
「……原田って?」
隣の令嬢も考える。
「どなたでしたっけ?」
「…………」
二人は顔を見合わせた。
「まあ」
「ま、いっか!」
「やったーーー!!!」
「キャーーーーーー!!!」
リリアーナは少しだけ顔をしかめた。
「原田、可哀想ちゃうか」
ミレーヌは黒革手帖を閉じる。
「まあ、見ていてくださいよ」
「自信あるな、お前」
「私が選びましたので」
「……もしかして親近感枠か」
「正解です」
「やっぱりかい」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、騒ぐ生徒たちと笑っている龍馬を見て、少しだけ目を細めた。
まだ歌も決まっていない。
衣装もない。
グループ名すらない。
それなのに。
ファンだけは、もう十分すぎるほど集まっていた。




