第117話 新しい制服
翌日。
リリアーナは西郷を連れ、リュミエール王国の孤児院へ来ていた。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、静かに建物を見渡している。
「ここや」
西郷は大きな孤児院を見上げた。
「思っていたより、大きいですね」
「子ども多いからな。農業も続けてええで。ここにも畑作れる場所ある」
西郷はゆっくり頷いた。
「ありがたいです。子どもたちと一緒に育てたいです」
その時、孤児院の扉が開いた。
中から子どもたちが一斉に飛び出してくる。
「大きい!」
「すごく大きい!」
「お父さんみたい!」
「大きいお父さん!」
「もう懐いとるやん!」
子どもたちは、そのまま西郷の足へ抱きついた。
「遊んで!」
「肩に乗せて!」
「お腹空いた!」
「最後だけ要求やな!」
西郷は少し戸惑いながら、一人の子どもを抱き上げた。
「高い!」
「大きいお父さん!」
「私も!」
「俺も!」
「一気に行くな!」
さらに一人が背中へしがみつき、西郷は困ったように笑った。
「順番です。皆、順番にしましょう」
「めっちゃ向いとるやん」
その様子を見ながら、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も静かに目を細めていた。
奥からノエルが歩いてきた。
「リリアーナ、来てたんだ!」
「お前もおったん?」
「うん。僕の国の孤児院に行く前に、こっちの子たちにも会いに来たの」
「ちょうどええわ」
リリアーナは西郷を指した。
「新しくここで働く西郷や」
ノエルは西郷を見上げた。
「大きいね!」
「よく言われます」
「子どもたち、もういっぱいくっついてる」
「今来たとこやぞ」
「じゃあ、すぐ好きになったんだね」
「そういうことやな」
西郷がノエルへ頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「うん! 僕もここに時々来るから、分からないことあったら聞いてね」
「ありがとうございます」
ノエルは、西郷に抱き上げられている子どもを見て嬉しそうに笑った。
「みんな楽しそう。よかった」
リリアーナは西郷を見る。
「ほな、ここ頼むわ」
「はい。必ず、子どもたちを腹いっぱいにします」
「そこ一番大事や。任せた」
その日の午後。
王宮前には新選組が集められていた。
近藤、土方、沖田、斎藤、原田、山南、永倉、藤堂。
全員、何が始まるのか分からないまま並んでいる。
「アニキ」
近藤が尋ねた。
「今日は何の話ですか」
「先に、これ渡す」
王宮の使用人たちが大きな箱を運んできた。
中に入っていたのは、人数分の黒い制服だった。
黒を基調に金の縁取り。高い襟に長い上着、細く入った刺繍。肩には新選組の印が入り、腰には武器を下げられる金具も付いている。
動きやすさを残しながら、見た目は完全に乙女ゲームの攻略対象が戦場で着るような制服だった。
「……これを、俺たちが?」
土方が一着を持ち上げる。
「あぁ。警備の制服や。着てみ」
しばらくして、新選組が制服姿で戻ってきた。
「おお」
リリアーナが思わず声を漏らす。
「めっちゃかっこええやん」
近藤は嬉しそうに胸を張った。
「動きやすいです!」
沖田も腕を動かして確かめる。
「剣も振れますね」
「警備の制服で最初に剣振ること考えんな」
「確認です」
「お前の確認、信用ならんねん」
斎藤は静かに襟を直した。
「悪くありません」
「気に入っとるやん」
原田は鏡の前で、自分の姿を何度も見ていた。
「俺、結構似合ってません!?」
「めっちゃ似合っとる」
「やった!」
「嬉しそうやな!」
山南も並んだ仲間たちを見て、穏やかに笑った。
「全員そろうと、統一感がありますね」
永倉も頷く。
「街歩いたら、すぐ警備だって分かるな」
藤堂は目を輝かせた。
「目立ちますね!」
「警備やから、目立つくらいでええ」
その中で、土方だけは鏡の前から動かなかった。
襟を見る。
袖を見る。
肩を見る。
腰を見る。
少し横を向いて、後ろ姿まで確認する。
「……いいな」
「気に入ったん?」
「はい」
土方は真顔で頷いた。
「かなり」
「正直やな」
「これは格好いいです」
「せやろ」
リリアーナの横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、少しだけ満足そうに新選組を見ていた。
「あと、オヤジが王宮の警備もしてほしい言うとった」
近藤が振り返る。
「王宮もですか」
「あぁ。街の見回りと王宮の警備、両方や。王宮も街の一部やからな」
土方が静かに頷いた。
「分かりました。任せてください」
「頼んだぞ」
話が一段落したところで、土方が制服の袖を見ながら口を開いた。
「アニキ」
「なんや」
「アイドルの件ですが」
「あぁ」
「衣装も、こういうものですか」
リリアーナは制服を指した。
「ダサくはさせん。この制服みたいに、お前らがちゃんとかっこよく見えるやつにしたる」
土方は少しだけ安心したように襟を直した。
「なら、まだ何とかなりそうです」
「信用しとけ」
沖田が楽しそうに笑う。
「僕は楽しみです」
「お前は最初から楽しみだろ」
「はい」
「素直やな」
リリアーナは何でもないように続けた。
「それと、龍馬、桂、高杉もアイドル活動する」
「…………」
新選組が一斉に止まった。
「えーーーーー!!!!!」
土方が目を見開く。
「あいつらもですか!?」
「あぁ。別グループや」
リリアーナは、にっと笑った。
「ほな、これからアイドルとしてはライバルやな」
沖田が嬉しそうに笑った。
「面白くなってきましたね」
斎藤も静かに目を細める。
「負けるつもりはありません」
原田は拳を握った。
「絶対勝ちましょう!」
「急にやる気出たな!」
永倉まで腕を組む。
「新選組が負けるわけにはいかねぇな」
藤堂も頷いた。
「応援します!」
「お前も出る側ちゃうけど熱いな!」
近藤は満足そうに笑っていた。
「トシ、やるからには一番目指せ!」
「近藤さんまで……」
土方は小さく息を吐いた。
それでも、制服の襟を整えながら口元をわずかに上げる。
「……高杉には、負けられません」
「お前も完全に乗ったな」
「それとこれとは別です」
「何が別やねん!」
王宮前に笑い声が広がった。




