第113話 新選組の進路相談
翌日。
王宮の会議室には、新選組がそろっていた。
近藤、土方、沖田、斎藤、原田、山南、永倉、藤堂、山崎。
全員、妙に姿勢がいい。
リリアーナの横には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。少し後ろではミレーヌが黒革手帖を開き、バルドが静かに茶を並べていた。
チリン。
「新選組の皆様、進路相談を始めます」
「学校みたいやな」
「進路相談ですので」
「そうやけど」
リリアーナは新選組を見渡した。
「まず、何したいか聞く。遠慮せんでええ」
近藤が代表して口を開く。
「アニキ。俺たちは、街を守る仕事がしたいです」
「警備か」
「はい」
土方も続けた。
「これまで、人を守り、街の治安を守る仕事をしてきました。今度は命令で人を斬るのではなく、この国で暮らす者を守りたい」
沖田も静かに頷く。
「子どもたちも、安心して歩ける街にしたいです」
斎藤は短く答えた。
「危険を見つけ、起こる前に防ぐ。その仕事なら力を使えます」
原田は少し身を乗り出す。
「力仕事もできます! 揉め事も止められます!」
「止める方な」
「分かってます!」
「ほんまか?」
永倉が笑った。
「俺たち、集団で動く方が得意なんです」
藤堂も続ける。
「見回り、護衛、避難誘導。何でもやります」
山南が皆の言葉をまとめるように、穏やかに口を開いた。
「新選組として、この街を守らせていただけませんか」
会議室が静かになる。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、一人ずつ顔を見ていた。
剣。
隊列。
警戒。
判断。
仲間同士の連携。
向いている。
「採用や」
新選組全員が顔を上げた。
「警備、街の見回り、護衛、危険時の避難誘導。お前らに任せる」
「ありがとうございます!」
近藤が深く頭を下げ、全員も続く。
「ただし、勝手に斬るな」
「はい」
「捕まえるんは最後の手段。まず止める。話を聞く。危険から離す」
「分かりました」
「現場壊したら即配置換えや」
「肝に銘じます」
ミレーヌが黒革手帖へ書き込んだ。
『新選組』
『配属』
『警備』
『街の見回り』
『護衛』
『避難誘導』
『注意』
『斬る前に止める』
「最後大事やな」
「最重要です」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司は、山崎へ視線を向けた。
「山崎」
「はい」
「お前は別や」
山崎が少しだけ目を見開く。
「私だけですか」
「情報集め、得意やろ」
「はい」
「潜入、尾行、聞き込み。気付かれずに動く」
「できます」
「ほな、イレギュラーのとこ行け」
「イレギュラー……」
その時。
会議室の隅から手が上がった。
「歓迎する」
「おったん!?」
イレギュラーは、いつからそこにいたのか分からない。
その横には、シャーホムズとワトゾンまで静かに座っていた。
「情報収集ですので」
「今の登場も怖いねん」
シャーホムズが山崎を見る。
「現場の情報が増えるな」
ワトゾンは、もう記録帳を開いていた。
「山崎。情報班へ加入」
「まだ本人返事してへんぞ」
山崎は立ち上がった。
「ぜひ、お願いいたします」
「決まりやな」
ミレーヌも黒革手帖へ追記する。
『山崎』
『配属』
『イレギュラー情報班』
『担当』
『潜入』
『尾行』
『聞き込み』
『現場情報』
「向いとるな」
土方が山崎を見る。
「頼んだぞ」
「はい。こちらから皆さんの警備にも情報を回します」
「助かる」
「もう連携始まっとるやん」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かに頷いた。
バルドが空いた茶を取り替える。
チリン。
「新選組の皆様、進路相談は以上でしょうか」
「いや」
リリアーナが止めた。
「もう一個ある」
土方の眉が少し動く。
「まだあるんですか」
「ある。警備は採用。それとは別で頼みがある」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、四人を見る。
土方。
沖田。
斎藤。
原田。
「土方」
「はい」
「沖田」
「はい」
「斎藤」
「はい」
「原田」
「はい!」
リリアーナは、四人を順番に見た。
「お前ら、アイドル活動してくれへんか」
「…………」
新選組が止まった。
ミレーヌだけが、すでに黒革手帖を開いていた。
一番最初に反応したのは土方だった。
「……嫌です」
「即答やな」
「俺は、そういう柄ではありません」
「知っとる」
「では、なぜ俺なんですか」
「人気あるから」
「知りません」
「テレビ映っとる」
「聞いていません」
「令嬢ら、お前の話ばっかりしとったぞ」
「さらに嫌です」
「ほんま嫌そうやな」
沖田は少し身を乗り出した。
「アイドルって、歌って踊るんですよね」
「そうや」
「面白そうです」
「食いつくんか」
「やります」
「決断早っ!」
「動きをそろえるんですよね?」
「まあな」
「剣の稽古と少し似ています」
「多分ちゃう」
「楽しそうです」
「前向きやな」
斎藤は静かにリリアーナを見る。
「アニキが必要だと言うなら、俺はやります」
「ありがとう」
「警備の妨げにならないのであれば」
「両立できるようにする」
「分かりました」
「聞き分けよすぎるな」
そして原田は、自分を指差した。
「俺もですか!?」
「あぁ」
「本当に?」
「なんで疑うん」
「俺、入っていいんですか!?」
「嬉しそうやな!」
「選ばれると思ってませんでした!」
「そこまで正直に言わんでええ!」
「ありがとうございます!」
「まだ決定ちゃうぞ」
「やります!」
「沖田より早いな!」
ミレーヌが静かに補足する。
「グループには、バランスが必要ですので」
「バランス」
原田が少し止まった。
「……それでも嬉しいです!」
「強いな!」
土方だけは腕を組んだまま、明らかに嫌そうな顔をしていた。
「俺は断ります」
「トシ!」
近藤の声が飛ぶ。
土方が振り返った。
「近藤さん」
「アニキが頼んでんだ。やれよ!」
「しかし」
「俺がやりてぇくらいだ!」
「…………」
土方が黙った。
「近藤さんが?」
「あぁ! 歌って踊って、街の奴ら喜ばせられるんだろ? 日本のことも知ってもらえる。だったら俺がやりてぇ!」
リリアーナが近藤を見る。
「近藤、入りたいん?」
「アニキが入れって言うなら!」
「いや、今回は四人でええ」
「残念です!」
「ほんまに残念そうやな!」
近藤は土方の肩を叩いた。
「トシ。お前がやれ。皆が喜ぶなら、立派な仕事だ」
「……近藤さん」
「頼む」
土方はしばらく黙り込み、深く息を吐いた。
「……分かりました。やります」
「説得された!」
沖田が笑う。
「楽しみですね」
「俺は楽しみではない」
「衣装も着るんですよね」
「聞いていない」
「踊りもあります」
「聞きたくない」
「歌も」
「もう黙れ」
「仲ええな」
ミレーヌが黒革手帖へ書き込む。
『新選組アイドル』
『土方』
『沖田』
『斎藤』
『原田』
『全員承諾』
「もう結成なっとるやん」
「承諾されましたので」
リリアーナは土方を見る。
「顔死んどるぞ」
「警備の話だけで終わると思っていました」
「甘かったな」
「アニキが言いますか」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、少しだけ肩を揺らしていた。
チリン。
バルドが静かに鈴を鳴らす。
「次回より、歌と踊りの稽古を開始いたします」
「もう決まっとるん!?」
「会場と講師も準備済みでございます」
「逃げ道ないやん!」
土方は、静かに天井を見上げた。




