第112話 進路相談
翌日。
農地の広い休憩場所には、日本から来た者たちが集められていた。
近藤、土方、沖田、斎藤、原田、山南、永倉、藤堂。
龍馬、桂、高杉、西郷、大久保。
百ちゃん、聖子、心絆。
その家族たちまで、何の話か分からないまま並んでいる。
「アニキ。全員、集まりました」
近藤が姿勢を正した。
「あぁ」
リリアーナの横には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。
少し後ろではミレーヌが黒革手帖を開き、バルドは静かに椅子と茶を並べていた。
チリン。
「皆様、お掛けください」
「面接会場なっとるやん」
日本勢は顔を見合わせながらも、順番に椅子へ腰を下ろした。
リリアーナは、集まった者たちを一人ずつ見た。
日本では、命令されていた。
逆らえば殺される。
何をするかも、どこで生きるかも、自分で選べなかった。
けれど、ここでは違う。
「これから、一人ずつ進路相談する」
土方が眉を寄せた。
「進路相談?」
「何やりたいか。何が向いとるか。何なら続けられるか。それを話す」
山南が静かに尋ねる。
「こちらで決めるのではないのですか」
「決めへん。俺から向いとる仕事は言うし、国に必要な仕事も言う。でも最後に決めるんは自分や」
日本勢が静かになった。
龍馬が少し驚いた顔をする。
「わしらが、自分で決めてええがか」
「当たり前やろ。働かせる言うても、奴隷にする気ちゃう。お前らの人生や」
高杉が腕を組んだまま聞いた。
「断ってもいいのか」
「ええよ」
「別の仕事したいって言っても?」
「ええ。農業続けたい奴はそのまま続けたらええし、何個かやりたい奴は兼任したらええ」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かに全員を見渡している。
「ただし、向いてへんのに意地張って現場壊すんはあかん。そこは止める」
「それは当然だ」
大久保がすぐに頷いた。
「話早いな」
ミレーヌが黒革手帖を開いた。
「順番はいかがなさいますか?」
「まず新選組から」
近藤たちが一斉に姿勢を正す。
「新選組は一人ずつでもええし、何人か一緒に受けたいならそれでもええ」
沖田が首を傾げた。
「一緒でもいいんですか?」
「お前ら、長いこと一緒に動いとったやろ。一人やと話しにくい奴もおるやろし、同じ仕事したい奴もおる。無理に離す気はない」
近藤は隣を見る。
土方。
沖田。
斎藤。
原田。
山南。
永倉。
藤堂。
「ありがたいです」
「ほな、どう受けるか自分らで決めといて」
「承知した」
次にリリアーナは、幕末反乱軍へ視線を向けた。
「龍馬、桂、高杉、西郷、大久保」
五人が顔を上げる。
同じ反乱軍だった。
けれど、見ているものは全員違う。
龍馬は海と交易。
桂は情報と生存。
高杉は人と兵。
西郷は人をまとめる力。
大久保は制度と国そのもの。
「お前らは、一人ずつの方がええな」
龍馬が笑った。
「そうながか?」
「やりたいこと、全員違うやろ」
「それは否定できんぜよ」
大久保もすぐに頷く。
「私も個別でお願いしたい。制度の話は時間がかかる」
「長そうやな」
「必要です」
「ミレーヌみたいに言うな」
桂も小さく笑った。
「私も個別でお願いします。話したいことがあります」
「あぁ」
高杉は少し考えてから、腕を組み直した。
「俺は、まだ決めてねぇ」
「それを話すんが進路相談や」
「……そうか」
西郷もゆっくり頷いた。
「では、わしも一人でお願いいたします」
「決まりやな」
百ちゃんが、少し不安そうに手を上げた。
「私は、農業を続けたいです」
「知っとる」
「では、相談はもう終わりでしょうか」
「早いな」
リリアーナは笑った。
「向いとるし、本人もやりたい言うとる。終わりでええ」
百ちゃんは、ほっとしたように笑った。
「ありがとうございます」
「百ちゃんはむしろ、これから人教える方も頼むで」
「はい。そちらも頑張ります」
「話早いわ」
「私も!」
聖子が勢いよく手を上げた。
「私は何するの!?」
「今から考える」
「アイドル!?」
「まだ言うてへん!」
「でも歌えるよ!」
「聞いてへん!」
心絆も負けじと手を上げる。
「私も相談を受けます!!!」
「声デカ!」
「一人で受けます!!!」
「分かったから座れ!」
「はい!!!」
「返事までデカいねん!」
少しだけ笑いが広がった。
リリアーナは、もう一度全員を見渡した。
農業。
外交。
物流。
制度。
警備。
情報。
放送。
芸能。
教育。
この国には、いくらでも仕事がある。
今度は誰かに命令されて、嫌な仕事をする必要はない。
「明日から順番に始める。自分が何したいか、ちょっと考えといて」
日本勢は、それぞれ違う顔で頷いた。
楽しそうな者。
戸惑っている者。
まだ何も浮かんでいない者。
けれど、誰も怯えてはいなかった。
自分の次の仕事を、自分で選べる。
ただそれだけのことが、日本にいた頃にはなかった。
その横で、ミレーヌは何食わぬ顔で黒革手帖を閉じた。
リリアーナは横目でその手帖を見る。
「……なあ」
「はい?」
「それ、見せて」
「嫌です」
「なんでや」
「まだ本人たちへお話ししていませんので」
「何書いとんねん」
「進路候補です」
「見せろ」
「嫌です」
「余計怪しいわ!」
ミレーヌは黒革手帖を胸元へ隠した。
そのページには。
『新選組』
『アイドル候補』
『幕末側』
『アイドル候補』
と、すでに書かれていた。




