第11話 学園へおいで
翌日。
リリアーナは、バルドに腕を支えられながら廊下を歩いていた。
一歩。
もう一歩。
昨日より足は動く。
それでも少し進むだけで、細い肩が上下した。
「姫様、昨日より二歩多く歩けております」
「二歩か」
「立派な前進でございます」
「昨日の俺より今日の俺やな」
「おっしゃる通りでございます」
リリアーナが息を整える横には、黒スーツ姿の清司が刀を肩に担いで立っている。
「焦らんでええ。一歩ずつや」
「分かっとる」
少し離れたところでは、ミレーヌが黒革の手帖を開いていた。
『歩行訓練。昨日より二歩前進』
清司が覗き込む。
「二歩まで書くんか」
「記録は武器ですから」
「見たことを、なかったことにせえへんのやな」
「はい」
その時、廊下の向こうから騒がしい足音が近づいてきた。
「リリアーナーーー!!」
「早く学園来てよーーー!!」
「みんな待ってるよぉーーー!!」
リリアーナは顔をしかめた。
「朝からうるさい奴ら来たな」
扉が勢いよく開き、エリオット、レオン、ルシアン、アレクシスが雪崩れ込んできた。
「リリアーナ! 歩けるようになったんだね!!」
「まだ練習中や」
「じゃあ学園まで歩く練習をしよう!」
「距離考えろ」
「途中で休めばいいよ!」
「何時間かかんねん」
ルシアンが胸を張った。
「氷の翼ぁ!! 送り迎えも可能ぅう!!」
「お前、昨日帰ったんちゃうんか」
「報告! 連絡! 相談! 今日は全部してきたぁう!!」
「昨日ほうれん草やと思っとった奴が得意げに言うな」
「成長だよ!」
エリオットがリリアーナの前へ身を乗り出した。
「本当に早く来てよ! セシルも待ってるんだから!」
リリアーナは眉をひそめた。
「誰やねん。特にそのセシルって奴」
「学校一の人気者だよ!」
「みんなセシルが大好きなんだ!」
「この気持ち、君に届け!って言って、いつもウインクするよ!」
「うさんくさっ」
「運動もすっごくできる!」
「魔法は?」
「全然!」
「剣術は?」
「もっと全然!」
「何ができんねん!」
「誰とでも仲良くできるよ!」
「一度に十人と話せる!」
「妖怪やないか」
「一人でいる子を見つけるのも得意だよ!」
「絶対に仲間外れを作らないんだ!」
リリアーナが少しだけ目を細めた。
「……それは、ええ奴やな」
「うん!」
「でも一番お馬鹿だよ!」
「最後の一言いらんやろ」
レオンも嬉しそうに続けた。
「エミールも待ってるよ!」
「そいつは何ができんねん」
「好感度表を作ってる!」
「は?」
「爆弾表も持ってるよ!」
「はぁ?」
「誰といつ話したか、何が好きか、何を嫌がるか、全部覚えてるんだ!」
「怖っ」
「何日話してないかも分かるよ!」
「もっと怖っ」
「話さない日が続くと爆弾がつくんだ!」
「人の感情を危険物みたいに管理すな!」
「でも一度も爆発させたことないよ!」
「それが一番ヤバいねん!」
アレクシスが美しい髪をかき上げた。
「エミールは努力家だからね。僕の好みだって全部覚えてるよ!」
「お前の好みは自分の顔やろ」
「よく分かったね!」
「今ので分からん奴おらんわ」
清司が無言で刀を抜いた。
ミレーヌが黒革の手帖へ一行書き足す。
『アレクシス。一太刀』
誰も気づかない。
「それからノエルも待ってるよ!」
「まだおるんか」
「僕の双子の弟だよ!!」
エリオットが誇らしげに胸を張った。
「すっごく可愛いよ!」
「能力聞いとんねん」
「可愛い!」
「それ以外や!」
「ずっと『僕を見て!』って言ってるよ!」
「知らんがな!」
「でも、みんな見るよ!」
「成立しとるんかい!」
「だって可愛いから!」
「僕より?」
アレクシスが割り込んだ。
「種類が違うよ!」
「どっちも可愛いよぉ!」
「美しさなら僕だね!」
「聞いてへん!」
四人は一斉にリリアーナへ詰め寄った。
「早く学園来てよ!」
「セシルも待ってる!」
「エミールが爆弾つくって言ってた!」
「ノエルも僕を見てって言ってるよ!」
「みんなリリアーナに会いたがってる!」
「絶対楽しいよ!」
「毎日お祭りだよ!」
「僕がいるから華やかだよ!」
「氷の翼ぁ!! 送迎準備完了ぉう!!」
「うるさーーー!!!」
リリアーナが叫んだ瞬間、横に立っていた清司が刀を振り抜いた。
エリオット。
レオン。
ルシアン。
アレクシス。
まとめて一刀両断。
もちろん、誰も気づかない。
四人はそのまま騒ぎ続けている。
ミレーヌだけが静かに黒革の手帖へ書き込んだ。
『本日。四名まとめて斬首』
「斬首ちゃう」
ミレーヌは一度線を引き、書き直した。
『四名まとめて制裁』
「それでええ」




