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任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第一章 現場復帰編

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第11話 毎日お祭り

 翌朝。


 リリアーナは、バルドに腕を支えられながら廊下を歩いていた。


 一歩。


 もう一歩。


 昨日の午後は、部屋の中を少し歩いた。


 今朝は、扉の外まで来ている。


 それでも少し進むだけで、細い肩が上下した。


「姫様、昨日より二歩多く歩けております」


「二歩か」


「立派な前進でございます」


「昨日の俺より今日の俺やな」


「おっしゃる通りでございます」


 リリアーナが息を整える。


 横には、黒スーツ姿の清司が立っていた。


 刀を肩へ担ぎ、同じところで足を止めている。


 焦らんでええ。


 一歩ずつや。


 リリアーナは、もう一度床へ足をついた。


 少し離れたところで、ミレーヌが黒革の手帖を開く。


『歩行訓練。昨日より二歩前進』


 リリアーナが覗き込んだ。


「二歩まで書くんか」


「記録は武器ですから」


「見たことを、なかったことにせえへんのやな」


「はい」


 その時、廊下の向こうから声がした。


「リリアーナーーー!!」


「早く学園来てよーーー!!」


「みんな待ってるよぉーーー!!」


 リリアーナが顔をしかめる。


「朝からうるさい奴ら来たな」


 曲がり角から、四人が現れた。


 エリオット。


 レオン。


 ルシアン。


 アレクシス。


 廊下が、一気にきらきらした。



     *



「リリアーナ! 歩けるようになったんだね!!」


「まだ練習中や」


「じゃあ学園まで歩く練習をしよう!」


「距離考えろ」


「途中で休めばいいよ!」


「何時間かかんねん」


 バルドが、壁際の椅子へリリアーナを案内した。


 四人もその方へついてくる。


 腰を下ろした途端、ルシアンが胸を張った。


「氷の翼ぁ!! 送り迎えも可能ぅう!!」


「今日も叫ぶんか」


「報告! 連絡! 相談! 今日は全部してきたぁう!!」


「こないだまで、ほうれん草やと思っとった奴が得意げに言うな」


「成長だよ!」


 エリオットが笑った。


 レオンも頷く。


 清司は四人を見た。


「仕事は」


「終わらせてきたよ!」


「俺も!」


「報告もした!」


「僕も、お約束した話を聞いてきたよ!」


 アレクシスが胸へ手を当てた。


 ミレーヌが、その手元の封筒を受け取る。


「……なら、ええけど」


「だから、今度は学園だよ!」


「話飛ぶな」


 エリオットが身を乗り出した。


「本当に早く来てよ! セシルも待ってるんだから!」


 リリアーナが眉を寄せる。


「誰やねん。特にそのセシルって奴」


「学園一の人気者だよ!」


「みんなセシルが大好きなんだ!」


「この気持ち、君に届け! って言って、いつもウインクするよ!」


「うさんくさっ」


 ミレーヌの筆が動いた。



     *



「運動もすっごくできる!」


「魔法は?」


「全然!」


「剣術は?」


「もっと全然!」


「何ができんねん!」


「誰とでも仲良くできるよ!」


「一度に十人と話せる!」


「妖怪やないか」


「一人でいる子を見つけるのも得意だよ!」


「絶対に仲間外れを作らないんだ!」


 リリアーナが少しだけ目を細めた。


「……それは、ええ奴やな」


「うん!」


「でも一番お馬鹿だよ!」


「最後の一言いらんやろ」


 レオンが嬉しそうに続けた。


「エミールも待ってるよ!」


「そいつは何ができんねん」


「好感度表を作ってる!」


「は?」


「爆弾表も持ってるよ!」


「はぁ?」


「誰といつ話したか、何が好きか、何を嫌がるか、全部覚えてるんだ!」


「怖っ」


「何日話してないかも分かるよ!」


「もっと怖っ」


「話さない日が続くと爆弾がつくんだ!」


「人の感情を危険物みたいに管理すな!」


「でも、一度も爆発させたことないよ!」


「それが一番ヤバいねん!」


 ミレーヌの筆が止まった。


 清司が顔を向ける。


「参考にすなよ」


「まだ、何も申し上げておりません」


「顔に出とる」


「どの辺りでしょうか」


「出てへんけど、分かるねん」


 アレクシスが髪をかき上げた。


「エミールは努力家だからね。僕の好みだって、全部覚えてるよ!」


「お前の好みは自分の顔やろ」


「よく分かったね!」


「今ので分からん奴おらんわ」


 黒スーツ姿の清司が、刀を肩から下ろした。


 鞘ごと振る。


 アレクシスの身体を、すり抜けた。


 ミレーヌが一行書き足す。


『アレクシス。一回』


「今日も数えるんか」



     *



「それから、ノエルも待ってるよ!」


「まだおるんか」


「僕の双子の弟だよ!!」


 エリオットが誇らしげに胸を張った。


「すっごく可愛いよ!」


「能力聞いとんねん」


「可愛い!」


「それ以外や!」


「ずっと『僕を見て!』って言ってるよ!」


「知らんがな!」


「でも、みんな見るよ!」


「成立しとるんかい!」


「だって可愛いから!」


「僕より?」


 アレクシスが割り込む。


「種類が違うよ!」


「どっちも可愛いよぉ!」


「美しさなら僕だね!」


「聞いてへん!」


 清司は額へ手をやった。


 セシル。


 エミール。


 ノエル。


 まだ会っていない。


 会っていないのに、もう少し疲れた。


 ミレーヌが手帖をめくる。


 新しい名前が、三つ増えていた。


「全員、王子なんか」


「うん!」


「そうだよ!」


「仕事、割り振る方の身になれや」


「何の仕事?」


「こっちの話や」



     *



 四人が、揃って近づいた。


「早く学園来てよ!」


「セシルも待ってる!」


「エミールが爆弾つくって言ってた!」


「ノエルも、僕を見てって言ってるよ!」


「みんなリリアーナに会いたがってる!」


「絶対楽しいよ!」


「毎日お祭りだよ!」


「僕がいるから華やかだよ!」


「氷の翼ぁ!! 送迎準備完了ぉう!!」


「うるさーーー!!!」


 黒スーツ姿の清司が、鞘を横へ振り抜いた。


 エリオット。


 レオン。


 ルシアン。


 アレクシス。


 まとめて、すり抜ける。


 誰も気づかなかった。


「ね! 楽しそうでしょ!」


「みんな仲良しだよ!」


 まだ喋っていた。


 ミレーヌが、静かに書き込む。


『本日。四名まとめて斬首』


「斬首ちゃう」


 一度、線が引かれた。


 書き直す。


『四名まとめて制裁』


「それでええ」


 バルドが一歩前へ出た。


「皆様。姫様は、歩く練習を終えられたところでございます」


 四人が顔を向ける。


「少し、お下がりください」


「あっ、ごめん!」


 エリオットが退いた。


 レオンも、ルシアンも続く。


 アレクシスは椅子の脇へ回り、リリアーナの顔を見た。


「疲れちゃった?」


「お前ら来てからな」


「じゃあ、学園の話はまた今度だね!」


「まだ話す気か」


「みんな待ってるから!」


 リリアーナは四人を見た。


 来いと言う。


 会いたいと言う。


 誰が待っているかまで、次々に教えてくる。


 鬱陶しいほど、入れる気でいる。


「……歩けるようになってからや」


 四人の顔が明るくなった。


「待ってる!」


「俺も!」


「送迎もできるよ!」


「綺麗な服も選ぼうね!」


「一個ずつにせえ!」


 バルドが銀の鈴を取り出した。


 チリン。


「本日の歩行練習は、ここまでです」


 ミレーヌが手帖を閉じる。


 四人が、期待に満ちた顔でこちらを見ていた。


 リリアーナは椅子へ深く背を預けた。


「学園、毎日これなんか」


「もっと賑やかだよ☆」


「行く前から疲れさすな」

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― 新着の感想 ―
昨日見つけて読み始めました。 姫なのに関西弁丸出しの男言葉。誰も突っ込まないのが不思議で、面白くて。 このエピソードで、残る三人の王子の情報が出てきましたが、誰一人として真面な王子がいない!七人揃っ…
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