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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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危機一発(ききいっぱつ)

危機一発考——たった一発にて全てが終わる窮地

挿絵(By みてみん)

(『兵站危急録』民明書房刊・一九九八年/著者・一発堂命拾)


「危機一発(ききいっぱつ)」——一つの動作、一つの決断、あるいは一発の弾丸によって、それまで積み上げてきた全てが瞬時に終わりを迎えかねぬほどの、絶体絶命の窮地を指すこの言葉。かの有名な「危機一髪」——髪の毛一本ほどの僅差で危難を逃れることを指す成語——と音韻近きゆえに混同されがちであるが、両者はその成り立ちを全く異にすることを、まずもって明らかにせねばならぬ。


事の起こりは清代末期、火薬庫の管理を任されていた武官・一発堂命拾(いっぱつどうめいひろい)の逸話である。命拾はある地方の要塞にて、城内随一の規模を誇る火薬庫の警護を任されていたと『兵站危急録』は伝える。この火薬庫には城の防衛に必要な弾薬の全てが集約されており、いわば城の命運そのものがこの一室に凝縮されていたという。


ある夜、城内に忍び込んだ間者が、この火薬庫に火矢を放とうと弓を構える事態が出来した。命拾がこれに気づいた時、間者はすでに火矢をつがえ、今まさに射んとする刹那であったと記録は語る。命拾はこの時、こう悟ったという。「もしあの一発が火薬庫に届けば、城の弾薬は一瞬にして灰燼と帰し、城そのものが持ちこたえられなくなる。まさに一発が、全てを終わらせるのだ」と。


命拾は間一髪のところでこの間者に組みつき、事なきを得たと伝えられるが、この時の恐怖を後年こう述懐したという。「あの時ほど、たった一発の重みを思い知らされたことはない。刀を幾千合わせようとも及ばぬほどの危うさが、あの一発にはあった」と。この逸話が城内に広まり、「一発にして城の危機に至る」との評判から、「危機一発」の成語が定着したと『兵站危急録』は記す。これが初出であることに、もはや疑いの余地はない。


注目すべきは、この言葉が「危機一髪」とは似て非なる構造を持つ点である。危機一髪は「僅差で助かった安堵」に重心を置く言葉であるのに対し、危機一発は「たった一つの事象がもたらす致命的な結末そのもの」に焦点を当てる言葉である。すなわち前者が過程の際どさを語るのに対し、後者は結果の重大さそのものを語る言葉であり、両者を混同して用いれば、伝えたい窮迫の質そのものが変わってしまうことは、兵法用語を学びし者であれば当然知っているであろうが、あえて詳述する次第である。


現代においても、たった一つの判断ミス、たった一発の失言、たった一つの事故が、それまで築き上げてきた事業や信頼の全てを瞬時に崩し去ってしまう場面は少なくない。かかる時、人はこの清代の武官・命拾が火薬庫の前で味わった、あの一発の重みを思い起こすべきであろう。危機一髪の幸運に頼る前に、そもそも危機一発の窮地を招かぬよう、日頃の備えを怠ってはならぬのである。

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