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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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一車千里(いっしゃせんり)

一車千里考——丁寧なる作りは、千里の道すら苦にせず

挿絵(By みてみん)

(『匠作耐久記』民明書房刊・一九八八年/著者・車輪堂千里)


「一車千里(いっしゃせんり)」——作りが丁寧にして堅牢なるものは、いかに酷使されようとも長きにわたり用をなし続けることを指すこの言葉。単なる職人礼賛の慣用句と片付ける者は多いが、この成語が戦国時代、ある車大工の手がけた一台の荷車が、実際に千里の道程を走破し続けたという逸話に由来することを知る者は、今日ほとんど残っていないのである。


事の起こりは戦国時代、趙の国のとある邑に工房を構えていた車大工・千里(せんり)である。千里は師より受け継いだ車輪作りの技において、当代随一と評された職人であったが、その仕事ぶりは尋常ならざる丹念さで知られていたと『匠作耐久記』は伝える。並みの車大工が一日で仕上げる車輪を、千里は十日かけて仕上げ、木材の乾燥から車軸の削り出しに至るまで、いかなる工程も一切の妥協を許さなかったという。


ある時、趙の国の商人が、遠く斉の国まで塩を運ぶための荷車を千里に注文した。往復数千里に及ぶ過酷な行程に耐えうる車を求めるこの商人に対し、千里は通常の三倍の手間と歳月をかけて、一台の荷車を仕上げたと記録は語る。周囲の職人たちは「そこまで丹念に仕上げずとも、荷車など数年で潰れて当然のもの」と千里の仕事ぶりを訝しんだが、千里は「己の作りし物が、いかなる道をも越えて働き続けられるかどうか、それこそが職人の本分」と譲らなかったという。


この荷車は完成後、実際に趙より斉への塩の輸送に用いられ、幾度となく往復を重ねたが、驚くべきことに十年を経てなお車軸一本、車輪一片も損なわれることなく走り続けたと『匠作耐久記』は伝える。この商人が晩年、千里にこう感謝の意を述べたという。「貴殿の作りし一台の車、すでに千里をはるかに超える道程を走り抜き申した。まさに一車にして千里を走るとは、この事なり」と。これが「一車千里」の初出であることに、もはや疑いの余地はない。


注目すべきは、この故事が単なる職人の技量礼賛に留まらぬ点である。千里の仕事ぶりが示すのは、目先の手間や納期を惜しまず、見えぬ部分にまで丹念を尽くすことこそが、結果として最も長い道のりを走り抜く力を生むという逆説である。急いで仕上げた粗雑な車は初めこそ早く納品できようとも、道半ばにして壊れ、かえって多くの手間と損失を生む——この「急がば回れ」にも通じる職人の理は、匠作の道を学びし者であれば当然知っているであろうが、あえて詳述する次第である。


千里の工房は代々この教えを守り続け、「一車にして千里を走るを旨とすべし」という家訓が、後の世代にまで受け継がれたと伝えられる。


後世への系譜——西方における一車千里の精神


興味深いことに、この「丹念な作りが千里を超える耐久を生む」という理は、時代と大陸を超えて、思わぬ形で西方にも受け継がれることとなったと『匠作耐久記』の後世の注釈者は指摘している。


スイスの時計職人たちが、一つのムーブメントに数百の部品を組み込み、狂いなく時を刻み続ける機構を作り上げた背景には、まさに千里の車輪作りに通じる、見えぬ部分への執念があると評されよう。数十年の使用に耐え、親から子へと代々受け継がれる腕時計——中でも堅牢な作りで知られるある高級腕時計メーカーの品などは、まさに「一車千里」ならぬ「一表千里(いっぴょうせんり)」の体現と言えるかもしれぬ。


同様に、欧州の一部の高級スポーツカー工房が、車体の一本のネジ、内装の一針に至るまで手作業で仕上げ、量産車の何十倍もの歳月と手間をかけて一台を仕上げる姿勢もまた、千里の職人魂の遠い末裔と見ることができよう。かかる車は、単に速く走るためだけでなく、幾十年を経てなお価値を失わず、時に持ち主の代を超えて受け継がれていく。これもまた、目先の効率を度外視してでも丹念を尽くすことが、結果として最も長い「道のり」——物理的な走行距離のみならず、時代を超えて語り継がれる価値の道のり——を走り抜く力を生むという、千里の教えそのものである。


無論、こうした西方の逸品の職人たちが、直接戦国時代の千里の教えを知っていたわけではあるまい。しかし洋の東西を問わず、真に優れた作り手は皆、同じ結論——すなわち「丹念さは、時を超えて走り続ける力である」という真理——に至るものと見える。


現代においても、目先の効率やコストを優先して作られた品が早々に故障する一方、手間を惜しまず丹念に作り込まれた品は、驚くほど長きにわたり働き続けることがある。かかる時、人はこの戦国の車大工・千里の逸話を思い起こすべきであろう。真に良き仕事とは、目に見えぬところにまで手を尽くした、その丹念さの積み重ねの中にこそ宿るのだから。

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