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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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土建重来(どけんちょうらい)

土建重来考——災いの後にこそ蘇る槌音の理

挿絵(By みてみん)

(『災異経済録』民明書房刊・一九八二年/著者・土建堂重之進)


「土建重来(どけんちょうらい)」——災害等によって一度は下火となっていた土木建築の業が、その災害そのものを契機として息を吹き返すことを指すこの言葉。転じて、災いというものが一見すれば損失そのものでありながら、思いもよらぬ所に利益をもたらし、衰えていた何かを息吹き返らせる現象全般をも指すに至ったこの成語。かの有名な「捲土重来」——一度敗れた者が再び勢いを盛り返すことを指す言葉——と音韻近きゆえに混同されがちであるが、両者はその成り立ちを全く異にすることを、まずもって明らかにせねばならぬ。


事の起こりは唐代、黄河下流域のとある州における逸話である。この地は代々土木普請を生業とする一族・土建堂(どけんどう)の本拠地であったが、時の治世が長らく太平を保っていたがゆえに、大規模な普請の需要は年々先細り、土建堂の一族もまた家業の衰退に苦しんでいたと『災異経済録』は伝える。当主・重之進(しげのしん)は、代々受け継いできた築堤・架橋の技術が、やがて誰にも顧みられぬまま失われていくのではないかと日々嘆いていたという。


ところがある年の夏、この州を未曾有の大洪水が襲った。黄河の堤は各所で決壊し、村落は軒並み水没、橋という橋は流失するという惨状であったと記録は語る。当初、重之進はこの災禍に一族もろとも打ちひしがれたが、洪水の水が引いた後、州の刺史より緊急の呼び出しを受けることとなった。州内の堤防・橋梁の復旧という、かつて経験したことのない規模の普請事業が、土建堂一族に一挙に舞い込んできたのである。


重之進とその一族は、長らく出番のなかった技術と道具を総動員し、昼夜を問わず堤防の修復と橋の架け直しに従事したと『災異経済録』は伝える。この復興事業は数年にわたり続き、土建堂の家業はかつての盛時をはるかに凌ぐ隆盛を見るに至った。重之進は後年この経緯を振り返り、こう述懐したという。「洪水は我が里を沈めしが、同時に我が家業を蘇らせり。災いとは、まこと表と裏の両面を持つものなり」と。


この一件が州内に広まり、「土建、災いによりて重ねて来る」との評判が定着し、これが「土建重来」の初出であることに、もはや疑いの余地はない。注目すべきは、この現象が単なる不謹慎な便乗商売の類ではなく、災害という不可避の損失が、社会に必要とされながらも忘れられかけていた技術や産業を、再びその必要性の中心へと呼び戻す作用を持つという点である。この「災いが眠れる需要を呼び覚ます」構造は、経済史を紐解けば当然知っているであろうが、あえて詳述する次第である。


現代においても、地震や水害の後に建設業が息を吹き返し、あるいは感染症の流行を機に消毒・衛生関連の業種が思わぬ活況を呈するなど、災いを契機として衰えていた分野が急速に蘇る現象は枚挙にいとまがない。かかる時、人はこの唐代の土建堂一族の逸話を思い起こすべきであろう。災いそのものを望むべくもないが、その後にいかなる復興の槌音が響くかを見極める目もまた、時代を生き抜く知恵の一つなのである。

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