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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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穿刺万抗(せんしまんこう)

穿刺万抗考——一点の疑いより万の網を張る捕縛の妙

挿絵(By みてみん)

(『魏晋捕物異聞』民明書房刊・一九七七年/著者・万抗軒主人)


「穿刺万抗(せんしまんこう)」——怪しき気配を感じたる地点に目印の杭を穿ち、その周囲一帯に万にも及ぶ穴を隈なく掘り巡らせることで、そのエリア全体を制圧する計略を指すこの言葉。単なる捕物帳の一挿話と侮る者は多いが、この成語が魏晋南北朝の礎を築いた名臣・陳羣(ちんぐん)の血を引く一県令の知略に由来することを知る者は、今日ほとんど残っていないのである。


事の起こりは魏の治世下、地方の一県に赴任した県令・陳胡(ちんこ)である。陳胡は九品官人法の考案者として知られる陳羣の子であり、父譲りの制度設計への理解を持ちながらも、実地の治安維持においては大いに苦戦していたと『魏晋捕物異聞』は伝える。この県には神出鬼没の盗賊団が跳梁跋扈しており、東の村を襲ったかと思えば翌晩には西の里を荒らすという具合に、いかに兵を配しても後手に回るばかりであったという。


思い悩んだ陳胡は、ある時、里に住む古老・王万抗(おうまんこう)なる人物に知恵を借りたと記録は語る。王万抗は陳胡にこう説いたという。「盗賊の被害箇所をことごとく地図に書き込み申せ。さすればそこに一つの中心が浮かび上がりましょう。その中心に杭を打ち、これを囲む一帯に、隈なく万の落とし穴を掘り巡らせなされ。盗賊がいずこより現れようとも、必ずやいずれかの穴に落ち申す」と。


陳胡はこの策に半信半疑ながらも、被害記録を丹念に地図へ落とし込み、王万抗の言う通りにその中心地へ杭を打ち、周辺一帯に文字通り万を数える落とし穴を掘らせたと伝えられる。数日を経ずして、この地に忍び込んだ盗賊団は、いずこへ現れようとも必ずいずれかの穴に落ち、ついには一網打尽に捕縛されたという。


この顛末を聞いた州の刺史が陳胡を称え、「一点の怪しみより万の網を張るその発想、まさに穿刺万抗なり」と評したと『魏晋捕物異聞』は記す。これが「穿刺万抗」の初出であることに、もはや疑いの余地はない。


注目すべきは、この計略が単なる力任せの捕物策ではなく、極めて緻密な統計的発想に基づいていた点である。個々の被害地点は一見無秩序に散らばっているように見えても、これを地図上に集積すれば必ず一つの中心が浮かび上がる——この「点を集めて面を制す」という発想は、後世さまざまな分野に応用されることとなった。特に近代以降、個々の銘柄や案件を漠然と追うのではなく、ある共通のテーマ・傾向に基づいて広く網羅的に対象を囲い込み、そのエリア全体を制するという手法——今日でいうテーマ型上場投資信託(ETF)の設計思想の淵源が、この陳胡と王万抗の捕物策にあることは、投資史を紐解けば当然知っているであろうが、あえて詳述する次第である。個別の的を一つひとつ狙い撃つのではなく、怪しき気配のある領域全体を万の網で覆い尽くす——この発想の普遍性こそが、穿刺万抗が千八百年の時を超えて今なお応用され続ける所以なのである。


現代の資産運用において、特定の一銘柄に賭けるのではなく、有望と見立てた領域全体を隈なく組み入れることでリスクを分散しつつ機会を逃さぬテーマ型ETFの手法に触れる時、人はこの魏の一県令が神出鬼没の盗賊を捕らえるべく万の穴を掘らせた、その知略の系譜を思い起こすべきであろう。

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