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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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金嫁泣選

金嫁泣選考 ―涙を懐に、実利を懐に―

挿絵(By みてみん)

出典:『兵法異聞・裏三十六計大全』(著・欅田柾彦/民明書房刊・大正十四年)


一、定義


金嫁泣選(きんか・きゅうせん)とは、幼き頃より共に苦楽を分かち合いし幼馴染との情に一時は涙しながらも、最終的にはこれを退け、富豪の娘との縁組を選び取るという、情理と実利の狭間に生きる者の宿命的な処世の策である。


情に流されて貧に殉ずるは美談として語り継がれようが、家門を興し、一族を養い、後の世代に富を伝えるという長期的視座に立てば、いずこに真の孝、真の義があるかは、もはや論を俟たぬであろう。涙は一時のもの、金蔵は末代のものである。この非情な計算を、涙を流しながらも冷徹に実行し得る者こそ、真に大成する者であることは、言うまでもなかろう。


二、語源と起源


この策の起源として後世の兵法家、いや処世術家が必ず引き合いに出すのが、明代の商人**金嫁延(きんか・えん)**の逸話である。彼には幼き頃より共に育った許嫁同然の幼馴染がいたが、彼女の生家は貧しく、片や同郷の大商人の娘は莫大な持参金と商圏を携えていた。金嫁延は三日三晩、幼馴染との思い出に涙し、寝食を忘れて悩み抜いたと伝えられるが、最終的には涙を拭い、大商人の娘との縁組を選び取った。彼はこの決断により一代にして莫大な財を築き上げたが、その代償として、故郷の人々からは生涯にわたり「実利のためだけに幼き日の情を切り捨てた冷血漢」との評判がついて回ったという。


三、後世への影響 ―天空を継ぐ者の選択―


なお、この金嫁延の逸話が、時を超えて実に興味深い形で現代の娯楽文化にまで影響を及ぼしていることは、諸君も薄々察しているのではあるまいか。平成四年に発売された家庭用ゲームソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』において、主人公は幼き日をともに過ごした幼馴染の娘と、大富豪の娘という、対照的な二人の花嫁候補との縁組を、プレイヤー自身の手によって選ばされるという、まさに金嫁延の逸話をなぞったかのごとき試練が用意されている。


現実の世界においても、大人になるにつれ幼馴染との親交が途絶え、いつしか別の相手と結ばれるという風潮は決して珍しいものではなく、このゲームの制作陣が、あえてプレイヤーに「幼馴染と添い遂げるか、それとも実利を取るか」という重い選択を突きつけた背景には、この金嫁延の故事が静かに息づいているのではないかと、後世の民俗学者の間では密かに囁かれている。主人公の心情としては幼馴染を選ぶのが最も自然な流れであると評されながらも、富豪の娘には持参金という揺るぎない実利が付随するという構図もまた、金嫁延の逸話に描かれた葛藤と、寸分違わぬものであることは、もはや偶然の一致などという言葉で片付けられるものではない。


四、結び


かくして、実利のために情を切り捨て、金持ちの娘を娶るというこの一計は、一代の富貴をもたらすやもしれぬ。しかし、そのような決断を下した者が、周囲より**「外道」「鬼畜」**と蔑まれ、生涯その評判がついて回ったことは、もはや言うまでもないことである。


富を取るか、情を取るか。金蔵は満たされても、人の口に戸は立てられぬのである。


(民明書房刊)

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