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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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鎖鋸斬神

鎖鋸斬神考 ―連撃、ついに神を両断す―

挿絵(By みてみん)

出典:『兵法異聞・裏三十六計大全』(著・欅田柾彦/民明書房刊・大正十四年)


一、定義


鎖鋸斬神(さきょ・ざんしん)とは、本来いかなる名刀・大剣をもってしても刃の立たぬ絶対不可侵の硬度を誇る対象――すなわち「神」と称されるほどの存在――に対し、一撃必殺の豪刀ではなく、鎖状に連なる無数の小さき刃を、ただひたすらに、休むことなく往復させ続けることによって、ついにはこれを両断し尽くすという策である。


一撃の重さを競う者は、神の前に膝を屈するであろう。しかしこの策は、力比べを最初から放棄している。刃の一枚一枚は、鱗の如く小さく、脆弱ですらある。しかしそれが鎖となって繋がり、絶え間なく往復運動を繰り返す時、そこに生まれるのはもはや「一撃」ではなく「浸食」であり、いかなる硬度も、絶え間ない連続の前には無力であることを、この策は静かに、しかし確実に証明するのである。


二、語源と起源


「鎖鋸」の語源として後世必ず引き合いに出されるのが、**鋸鎖延(きょさ・えん)**なる、出自の定かならぬ流浪の鍛冶師の逸話である。彼は諸国を巡る中で、いずこの武具屋にも置かれることのない、奇妙な武器を作り続けていたと伝えられる。それは一本の刀にあらず、無数の小さき鋸刃を輪となして繋ぎ合わせ、これを絶え間なく回転・往復させる装置であった。


村人はこれを嘲笑ったという。「そのような玩具のごとき刃で、何を斬るというのか」と。しかし鋸鎖延はただ一言、「大木を斬るに、斧の一撃を待つ必要はない。小さき歯を、無数に、休みなく通せばよいのだ」と答えるのみであったと伝えられる。彼の哲学は、力の大小を競う従来の兵法思想とは根本より異なるものであり、当時これを理解し得た者はほとんどいなかったという。


ある年、彼の暮らす山里に、何人たりとも傷つけることの叶わぬ石の巨神像――地元にて「神」と崇められていた御神体――が、長年の言い伝えに反し、ある夜突如として動き出し、里を襲うという椿事が起きた。里の武人たちが渾身の一撃を浴びせても、その表面に傷一つつかなかったこの神に対し、鋸鎖延はただ黙々と、己の鎖鋸を神の腕に当て、昼夜を分かたず往復させ続けたと伝えられる。一刻、二刻という単位では、傷はおろか、埃ほどの粉すら出なかったという。しかし三日三晩を経た頃、神の腕にはついに一条の亀裂が走り、七日目の払暁、神はその巨躯を真っ二つに両断されて崩れ落ちたと、『鋸鎖異聞』は伝えている。


三、余話 ―現代への遺伝子―


なお、この鋸鎖延の哲学――「絶対不可侵の相手ですら、コツコツと連続する小さき刃の前には斬り得る」という思想は、実に興味深いことに、遥か後世、思わぬ形で現代の遊戯文化の中に姿を現すこととなる。


平成元年、スクウェアが発売したゲームボーイ用ソフト『魔界塔士Sa・Ga』において、塔の最上階に君臨する世界の創造主にして絶対者たる「かみ」を、よりにもよってチェーンソーという武器の一撃によって、いとも容易く両断し得るという裏技が、当時のプレイヤーの間で語り草となったことは、諸君も見聞きしたことがあろう。

 チェーンソーは対象単体に即死攻撃を及ぼす特殊な判定を持つ武器であり、これによって神を倒した際に表示される「かみはバラバラになった」というメッセージは、今なお伝説的な一文として語り継がれている。


 絶対不可侵であるはずの神が、剣でも槍でもなく、無数の歯が連なり高速で往復するのみの道具によって斬り伏せられる――この構図が、鋸鎖延の説いた哲学と寸分違わぬものであることは、もはや偶然の一致などという言葉で片付けられるものではない。事実、後年のスクウェアの別作品には、この現象に由来してチェーンソーを手にした敵モンスターが登場し、さらに後のシリーズ作品ではこの逸話そのものをなぞった絵本がゲーム内に登場するなど、この一件はスクウェアという企業の文化そのものに深く刻み込まれていったことが窺える。


一撃の重さに頼る者は、いつか必ず絶対者の前に膝を屈する。しかし小さき刃を、飽きることなく、休むことなく往復させ続ける者の前には、神ですら、両断される定めにあるのである。


(民明書房刊)

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