秘密の部屋
ぎょっ!どこか余裕のある客が名無しの酒場の扉で引き返した。
四十代には見えようか、白髪はさておき、めかし込んだ店主が、店を閉じると詩人に歩み寄った。詩人は銀の竪琴を抱え俯いたまま。
「…先生は慧眼の持ち主です。そして冷徹です。…でも、残忍では無かった筈です。」見上げた。
「不可思議です。ご存知ですか?1000不可思議で太陽の質量を持ったブラックホールが蒸発…」
店主は詩人の腕を掴み引っ張り歩き始めた。
詩人の手を引き、そのまま書斎に入り、シークレットドアの本棚の鍵を開れば、中からは闇が溢れ出す。
「ランタンに明かり」詩人は言われるがままに明かりを灯した。
「イレーゼちゃん、先行って。私はね、闇が怖いから。」
「…はい。」
詩人は黙って歩き始める下へ降りる螺旋階段である。
「科学者が占い師に道案内を頼むの?」詩人はクスクスと笑った。
途中踊り場があり、格子窓のついた扉があった。詩人は常闇の中、トトっと歩み寄り、緑色の眼が暗闇の中を覗き込む。
「ああっ覗かないで!」もう遅い。
「准教授が、倒れろー倒れろーって先生を呪詛してます。」
店主は…くらっとのけぞった。耳を塞いだ
「先生呪われてます!呪われてます!」詩人は爆笑だ。また階段を駆け下りて。
「イレーゼちゃん!待って!」
店主が義足の足元を確かめながら後を追いかけると、何と詩人は扉の格子窓に腕を突っ込んでるではないか。
「何をしているっ!」
店主は詩人の肩を掴んで扉から引き剥がした。
「ふふふ。」手に持つは白い便箋。赤いハートマークの蝋を外せば、
「名無しの店主に尻の穴を捧げてもいい!!!」と書かれている。先生愛されてます!愛されてます!詩人は爆笑である
びりっ店主は手紙を破いて鉄格子に放り投げると、詩人の手を握り、言い聞かせゆっくりと階段を降り始めた、途中の鉄扉は揉みあいになったが接近戦で指定医に勝てる訳が無く、医者の前に人権は無いことを証明された。暗闇の中で次第に何か居ると詩人が騒ぎはじめて漸くその扉に辿り着いた。
「これや。」ずももももも…闇のオーラが格子窓から溢れ出ている。
詩人は思案顔。
「…これは、先生の因果律と相対論で四次元ドアに変容をきたしてますね…。」
「イレーゼちゃん、私を救って!」
詩人は少しドアを開けて覗き込む
「生きて帰れそうに無いです…。」
中には夜空に瞬く星々、宇宙
「この星々は人に見えます。…。X軸Y軸Z軸時間。愛。先生がここで0になって私がレミニスカート。」
「難しく考えちゃダメ!この世の真実を提示すればいい!平穏を約束すればいい!イレーゼちゃんの翼の下で、あんな奴らもこんな奴らも兄弟姉妹にしちゃえばいいんだよ!」
詩人はスクロールを一つ取り出し、スペルを発動した。ウィッシュである。詩人の胸元から、スペードの9が、店主の胸からハートのAが現れ、それを交換して、互いの胸に収めた。
「何したんだ?」店主が呆然と尋ねた。
「命を交換したんです。」詩人はそう告げて、ドアを開いた。前後左右上下ない世界である。トン…と空間に降り立つと、銀の竪琴を爪弾きながら、扉を閉じる。暗闇に一人残された店主が、ハッ。と
「イレーゼちゃん、すぐ戻って!!!暗闇に一人ぼっちは怖いんだよ!!!」
無理な注文をするが詩人はそれどころではない。




