18 そして迎えた朝
朝日が窓から差し込んで俺を目元を照らし、気持ちの良い目覚めへと導いてくれた。そっか、昨日はあのまま寝てしまったのか。
そう思いながら虚ろに寝返りをうつと、智佳の顔が目の前にあった。
俺は一気に目が覚めて、飛び跳ねるように起き上がった。
ベッドが大きく動いてしまったのか、その振動で智佳も目を覚ます。
「あ、部長、おはようございます」
「おはよう……、じゃなくて、なんでここにいるんだ!? 自分の部屋は?」
「部……太一さん、昨日の夜のこと覚えてないんですか~? あんなに激しい夜を一緒に過ごしたのに……」
智佳は「きゃーっ」と手を顔に当てて、指の隙間からわざとらしく、ちらっとこちらを覗いてくる。
「確か、マッサージをしてもらって、そのまま寝落ちして……しか記憶がないんだけど」
「それであってますよ。それ以上のことは何もありませんでした」
「からかうなよ……」
ケロッとした表情で事実を伝えてくれた智佳に対して、俺は深い溜め息をついた。一瞬、記憶がないのに過ちを犯したのかとヒヤッとしてしまった。
どうせ間違えるなら記憶があってほしいというのも、本音ではあるが……
「太一さんは紳士で潔白ですからね~」
智佳は嫌味っぽく膨れた。どうしてこのタイミングで拗ねるのかが理解に苦しむ。襲ってほしかったのか? まさかな。
「さて、そんなに早起きするつもりもありませんでしたが、思ったより早く起きちゃったので、お風呂に入ってから市場に行きますか!」
「そうだな。ってか、わざわざ2部屋とったのに完全に無駄にしてるじゃないか」
「じゃあ次からは1部屋で十分ってことですかね。そんなに一緒に寝たいんですね、全く。」
「頼むから2部屋用意してくれ……」
「えー」
智佳はすごく不服そうに頬を膨らませた。
「まあ、私を部屋まで送り届けないで先に寝てしまった太一さんにも非はあるので、部屋代が無駄になったという話は、とりあえず手打ちにしましょうか」
智佳はパンと両手を合わせながら言った。俺は一瞬その音に反応してしまったが、何事もなかったかのように洗面所に向かって歯磨きをする。
「手打ちって、別に争っていたわけではないけどな」
「私はすっぴんまで見せているんですから、むしろ敬ってください」
「ごめん、この話の流れから全くが理解できない」
「すっぴんでもかわいいね、の一言くらいあってもセクハラにはなりませんよ?」
智佳は布団から立ち上がって俺の後ろに立ってきた。俺はだんだん面倒くさくなってきて、口をゆすいでから適当にあしらう。
実は俺は低血圧なのかもしれない。……いや、朝から智佳のテンションが異常に高いだけだ。
「はいはい、すっぴんでもかわいいね」
「はい、心がこもってませーん。ダメでーす。太一さんって本当にひどいですね」
智佳は両手でバッテンを作ってから、俺の頬を軽くつねってくる。
「悪かったな。お前も早く準備しろ」
俺は智佳のおでこに軽くチョップをすると、智佳は「あうっ」と変な声を出してから、こちらを「う~っ」と睨んできた。犬かよ。
朝風呂に入って荷物をまとめてからとのことだったので、一時間半後にロビーで待ち合わせにして、智佳を部屋から追い出した。
朝の新鮮な空気を吸いながらの露天風呂は、この世のものとは思えないくらい贅沢な時間だった。
◆
ロビーには俺が先に到着した。
智佳が来るまでまだ時間がかかるだろうと思い、俺は優雅にフロントでコーヒーを飲んでいたが、思った以上に早く降りてきた。
俺は感心しながらコーヒーを飲み干し、二人分まとめてチェックアウトを済ませ、市場に向かった。ここは駅チカのホテルなので、荷物は帰りまで預かってくれるとのことだった。非常に助かる。
市場にはホテルから歩いていける距離にあった。
都会とは全く違う朝の空気を体内に取り込みながら、活動前の静かな町並みを歩いていると、全身をリフレッシュさせている気持ちになる。
暫く歩くと、大きなアーケードが見えてきた。アーケードに入ると、さっきまでの静けさや空気とは一変し、市場特有の魚の生臭さと活気で、ここだけ別世界のように感じた。
「そこのにーちゃん、いい魚入ってるよ! 買ってかないかい?」
ほぼ叫び声に近い声を何度もかけられ、俺は心臓が飛び出そうになる。
俺らは立ち止まって、時折試食もさせてもらったが、さすがは朝の市場、新鮮さが違う。試食の小さな1切れの刺し身でも、顎が落ちるほど美味しかった。
智佳も隣で頬を手で抑えながら幸せそうな顔をして食べている。連れてきてよかった。
ただ、旅行中で荷物になるのは嫌なので、買うのは断って、朝食を食べられるようなお店を探した。
その後も智佳と市場の雰囲気を楽しみつつ、お店を見て回った結果、朝食は贅沢にお寿司屋さんに行くことにした。
理由は、比較的混雑していなかったことと、食べる量を調節できるからだ。
正直、昨日の夜の食べ過ぎもあり、朝はそれほど食べたいという気にはならなかった。
もちろん、そんなに食べるつもりもないから、こうして回らないお寿司屋さんに来ることができているわけだが。(ガッツリ食べると懐が寂しくなってしまう)
「回らないお寿司屋さんとか、めったに来ないからドキドキしますね♪」
智佳はめったに来られないお寿司屋さんを前にして、遊園地でアトラクションを待っている子供のように目をキラキラさせていた。
こういう素直なところは本当に可愛いよな……
俺らは味噌汁とお寿司を4貫ほど食べた。
昨日初めて知った『のどぐろ』のお寿司もあったので、折角だから注文してみた。これがまた、うまいんだよな……
智佳は隣で、一口食べるごとに幸せそうな表情をして、ご機嫌でお寿司を頬張っていた。
さて、金沢2日目は、どこを観光しようかな。
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