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19 呼んで

 

 朝食で軽くお腹を満たした俺らは、智佳の意向があり、金沢城公園に向かった。


 夏の暑さは感じるものの、日差しも強すぎず、青空も垣間見えて絶好の観光日和と思えた。


 金沢城公園へはバスもあったが、時間があったので歩いていくことにした。昨日バスで通った金沢の町並みをゆっくり見て歩きたいとのことで、意見が一致した。



 金沢城へ行く途中にはアイスモナカを売っているお店を見つけた。うだるような夏の暑さを前に買わないという選択肢はなかった。

 智佳はオレンジシャーベット、俺はバニラのアイスモナカを選んだ。お店の外に長椅子が置いてあったので、そこで座って食べたが、俺らが買い終わると何人か行列ができていて、「タイミングバッチリだったね」と智佳と離しながら食べていた。


 アイスモナカは、外はサクッとしていて、中はひんやり冷たく、最高に美味しかった。


「太一さん、バニラですよね? 一口くーださいっ!」


 そう言うやいなや、智佳は俺が持っているアイスモナカにかぶりつく。


「ん~バニラもおいし~ あ、太一さんもオレンジ食べますか?」

「……じゃあ、一口だけ」

「あ、さっき間接キスしちゃいましたね」


 俺が智佳からモナカを受け取る手が止まる。智佳はそれを見て、ニヤッとした。


「そんなの、三十路の大人が気にするかよ」


 俺はからかわれていると思い、ムキになって智佳のモナカにかじりつく。うまい。


「でも、一瞬手が止まりましたよ? 実は意識してましたよね~?」

「してない! そういう智佳が意識してるんじゃないか?」


 女子同士が恋話をしているときのようなニヤニヤした表情で見つめてくるので、うまい返しかどうかはさておき、大人気ないが言い返してやった。


「……そうですね。私は間接的でも、嬉しかったですよ……?」

「え……?」


 智佳は少し耳を赤くしてそう言うと、「さて、行きますか」と話の腰を折った。


 それは俺にとって予想外の返答だった。

 俺は深く追求しなかったが、そういうことなのだろうか。いや、さっきまでからかっていたのだから、これもその一部だろう。なんか自分で言っていて照れくさくなってきたとかそういうことだと思うことにした。



 金沢城公園は、城のような建物があるが、本殿は無いようだ。その代わりに地面に城跡が白線で描かれている。

 俺と智佳は城内を見て回り、門や石垣など復元されているものを背景に写真を撮ったりした。


 敷地内は思った以上に広く、あっという間に新幹線の時間が近づいてきた。

 駅にはバスで行きたかったが、丁度いい時間帯のバスがなかったので、歩いてきた道を戻る形になってしまった。

 それでも智佳は「良いですね! 歩きましょう♪」とご機嫌で答えてくれた。


 太陽が雲に隠れて、さっきまでのうだるような暑さは少し和らぎ、歩きやすい天気になっていた。


 ホテルで荷物を受け取って、その後に駅でお土産を見て回る時間を考えると、少し急がないといけないので、途中走ったりもして、ホテルを経由して駅につく頃には、すっかり汗をかいてしまっていた。


 智佳が「もっと余裕のある行動をしないとダメですね」と言うものだから、二人で笑ってしまった。


 お土産屋さんには、加賀野菜やのどぐろ、モナカの中身がお味噌汁の具になっていて、お湯をかけて食べるというものもあった。東京ではきっと一部のお店でしか売っていないんだろうな。


 おみやげコーナーを一通り見て回って、気になったものを購入し、俺らは時間通りに新幹線に乗って、金沢の地を後にした。


「部長、最初は全然乗り気じゃなかったのに、結局楽しんでましたね?」


 ニコニコと笑顔を見せながら智佳が満足げに声をかけてくる。俺はそう言われて、ふと、この二日間を思い返す。



「そうだな、なんだかんだ楽しかったよ。智佳は?」


「……もう一回」


 智佳は一瞬ハッとしたような表情になってからうつむき、ぼそっと呟いた。


「え?」

「だから、もう一回、言ってください」

「楽しかったよ」

「それも嬉しいですけど、その後!」


 智佳はガバっと顔を上げて俺に詰め寄る。


「智佳は……楽しくなかった?」


 気のせいだろうか、若干、智佳が涙ぐんでいるようにも見える。


「……楽しかったですよ。めちゃくちゃ楽しかったですよ。……太一さん、やっと名前で呼んでくれましたね」


「……そうだっけ」


「そうですよ。最初に新幹線で呼んで以来、一回も呼んでくれなかったんですから」


「……ごめん」


「もう一回、呼んでください」


「……智……佳」


「もう一回」


「もういいだろ! 恥ずかしくなってきた!」


「太一さん!」


 智佳の目から一粒の涙が溢れていた。でも、決して悲しい表情はしていなく、むしろ幸せそうな表情で、彼女は泣いていた。


「すっごく、嬉しいです!ありがとうございます」


 俺はどう返事していいかわからず、ただただ幸せそうな智佳を見て、もっと名前を呼んであげればよかったと後悔していた。


「名前くらいで、そんなに喜ぶなよ……」


 この独り言が智佳の耳に届いたのかは、俺は知らない。


 新幹線のアナウンスが「次は終点、東京」と告げている。

 俺らの非日常が幕を閉じ、また、いつも通りの日常が戻ってくる。


金沢城公園って兼六園の隣だったんですね…

記憶がごっちゃになってました。

金沢にゆかりのある皆様、ごめんなさい…

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