17 葛藤
10分近くもマッサージをしていると流石に疲れてきた。
さっきから部長に話しかけてはいるものの、返事がない。まるで屍のようだ。
部長はすーすーと寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っていた。
部長があまりにも無防備でかわいい寝顔だったので、私はクスッと笑ってしまった。
私は部長の隣に寝転がり、優しく部長の髪を撫でる。思ったよりも髪質が柔らかい。男の人の髪ってもっとゴワゴワしてるものかと思った。
「太一さん、今日、最初だけでしたね。私の名前を呼んでくれたの」
寝息を立てている部長に髪を撫でながら、小さな声で問いかける。
「なんで、もっと名前を呼んでくれないんですか……?」
返事は当然返ってこない。
「私、少しは覚悟決めてたんですよ? なのに寝ちゃって……こんな状況でも襲わないなんて、本当に太一さんは優しくて、紳士ですね」
私の髪を撫でる手が、止まる。
「それとも……私には、女性としての魅力が足りないんですか……?」
少し、目が濡れてきた。どうしよう。そんなつもりじゃなかったのに。
でも、この距離に部長がいて、溢れ出る言葉が止まらない。
「どうして、私の気持ちに気づいてくれないんですか……?」
私は、少しだけ、泣いてしまった。
部長は私の気も知らず、すやすやと眠っている。
その表情を見て、愛おしさが込み上げてきた。
私は唇を部長の頬に軽く当てた。
嬉しいはずなのに、切ない気持ちで胸が熱くなる。
また、涙が止まらなくなってしまった。
私は声に出さないように堪え、涙を拭いて、お母さんが赤ちゃんをあやすように、ポンポンと優しく、部長の肩を叩いてあげた。
そのまま、いつの間にか、私も眠ってしまっていた。




