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13 片想い裁判

「部長、係長がお呼びです」

「ああ、ありがとう。直に向かうよ」


 社員旅行から1週間が経とうとしている時、初のお呼び出しがかかった。


 このやり取りをするのも何回目だろう。もういい加減に慣れてきたし、山田君の中でも係長が部長に『相談があって』呼び出すということが当たり前になっているのだろう。というか、この前の社員旅行で癖だって言っていたような……


 いつものように伝えてきた山田君が、今日は追加で耳打ちをしてきた。


「仕事の相談だとは思うんですけど、なんか、係長すごく不機嫌だったので、早めに行ったほうがいいかもしれませんよ」

「ああ、そうなのか、ありがとう。気にしておくよ」


 部長に早くいけって言うのもなかなかだが、新人だし、山田君だし、別に気にしない。

 それよりも……不機嫌なのか……山田君に言われるってことはいつにも増して……


「今日は、なんの用なんだか」


 ボソリとつぶやきながら、重い腰を上げて会議室に向かった。



 コンコン。

 いつもどおり、ノックを2回鳴らして会議室に入ると、智佳はいつものようにうなだれて……はいなくて、口の前で両手を組む、いわゆる「ゲンドウポーズ」をとっていた。


「お忙しい中、ご足労頂き感謝します。それでは、被告人、席に座ってください」

「被告人!? ちょ、どういうことかちゃんと説明してくれ」


 反論する俺を、ギロッと睨み付けて禍々しいオーラを放つ智佳を前に、俺は従うしか選択肢がなく、渋々椅子に座る。

 被告人って、裁判かよ。何の裁判ですか、これ。


「それでは、罪状ですが、先日の社員旅行で若い女性社員に囲まれて、鼻の下を伸ばしながらキャッキャッうふふして嬉しそうにしていた件について、被告人、弁解はありますか?」


「いやそれは、呼ばれたから仕方なく行っただけで、飲み会なのに不機嫌面してるわけにもいかないだろうし、部長として、仕方なく……」


「楽しかったんですよね?」


「……」

 威圧されて、つい、黙ってしまった。


「若い子たちに囲まれて、ちやほやされて、鼻の下伸ばして、さぞかし楽しかったんですよね?」


「……はい」


「はい、証言が取れました。判決、ギルティ。よって極刑に処します」


「いやいや待て、落ち着けって」


「うるさいです。舌を噛んで黙るか、舌を噛んで死ぬかしてください」


「ひどいっ!?」


 こいつ……ギルティって言いたかっただけじゃないのか。なんか響きかっこいいし。ってそんな中二心な訳ないか。とにかく、智佳の考えが読めない。


「まあ、落ち着けって。いつもみたいに頭撫でてやるから、それで一つ」

「頭を撫でたらすべてが解決すると思ったら大間違いです」


 やっぱりか、もしかしたらと思って言ってみたが、どうやら許してはくれないようだ。


「まあ、そこまで言うなら撫ででもらってあげますけど……」


 そう言って智佳は頭を差し出してくる。結局、撫でるんじゃないか。

 頭を撫でると「えへへ~」と嬉しそうにする智佳を見て、俺は思わずため息を付いた。


 そのため息で我に返ったのか、ハッとしたように頭を手から離し、コホンと咳払いをして、腕を組んで、告げてきた。


「さて、気を取り直して。求刑を2つ、言い渡します。1つ目は、私の言うことを1つなんでも言うことを聞いてください」


「……はい?」


「いいですか?」


「いや、それはいいんだけど、なんで2つなの?」


「社員旅行中……宴会の時以外、全然かまってくれなかった重罪をお忘れですか」


 智佳は頬を膨らませてそっぽを向く。

 やっぱり、それを根に持っていたか……


「それで2つ目は?」


「2つ目は……その……」


 膨れていたかと思ったら、急にしおらしくなった。智佳の頬がりんごのように紅潮していくのが俺からでも見て分かる。そんなに言いにくいことなのか。



「私と……二人で、旅行に……行ってください! そしたら許してあげます!!」



「……はい???」



「詳細は私が決めます。追って連絡します。じゃあその2つ、約束ですからね、絶対に守ってくださいね!!」


 ガタッと椅子から立ち上がり、俺を指さしながらまくしたてるように話して、智佳は会議室から出ていった。


「……嵐のようだったな」


 従わざるを……得ないんだよなあ。


 悪い気がするどころか、むしろ旅行に誘ってくれたことを嬉しく思ってしまっていた。


 なにより、ずっと不機嫌な表情をしていたのに、最後は照れて真っ赤になってしまっている智佳をみて、不謹慎なまでに可愛いと思ってしまった。


「……ギルティ」


 そんな俺自信に、つぶやく。


 1つ目の、なんでも言うことを聞くって、なにをさせるつもりなんだろう。


 無意識だったか、緊張してしまっていたのだろう。少し肩が凝っている。

 背伸びをして腕を回して、俺は会議室を後にした。



 数週間後、差し入れと一緒に、集合日時と駅名が書かれた付箋が俺の机の上に置いてあった。

 名前は書いていなかったが、文字と内容で、すぐに智佳だとわかった。


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