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12 社員旅行3

 沖縄観光は、あっという間に時間が過ぎた。


 首里城を観に行って、水族館に行って、海辺を散歩し、買い物をして、ちんすこうと紅芋タルトも食べた。ゴーヤチャンプルーはちょっと苦手かも……


「ちんすこうって、チョコとか、普通の味以外のもいっぱいあるんだね! 初めて知った!」

「よーし、智佳。全味試食しちゃおうぜ」

「あはは、結衣、ノリノリだね~」

 ご機嫌で試食を始める結衣に続いて、私も少しずつ全種類のちんすこうに舌鼓を打つ。


「ちょっと……美味しいけど、喉が渇くかも……」

「間違いないね。お茶がほしい」

 そんなやり取りをして笑ってば、二人で沖縄を満喫していた。


        ◆


 夜になると社員で集まって懇親会が開かれた。

 基本的に懇親会は最初に会長の言葉があるが、その他は自由だ。席替えも自由だし、部署も年齢も関係ない。みんなで楽しく飲むことを目的にしている。


 私は比較的早い段階で宴会場についたので、結衣の隣に座った。

 掘りごたつのように足を入れることができるので、足をブラブラさせながら結衣と雑談していると、次第に他の部署の同期も集まってきた。


 ふと、入り口に視線を送ると、部長が会長や社長と一緒に部屋に入ってくるのが見えた。接待していたのかな、と思いながらハンカチで汗を拭いている部長を横目で見る。

 沖縄に来てから初めて部長の姿を目にしたかもしれない。久しぶりの部長の姿に、見つけた瞬間は一瞬ドキッとしてしまった。


 社員全員が席につき、会長のそこまで退屈しない乾杯の挨拶が終わると、食事が次々と運ばれてきた。さすがは沖縄、魚介類が美味しい。私は幸せいっぱいに頬張りながら、ビールでグイッと流し込んだ。


 しばらくすると、同期の集まりもパラパラと人が入れ替わり、いつの間にか同じ部署での集まりになっていた。

 因みに部長は、最初は会長や営業部長たちと飲んでいたが、いつの間にか他の部署の若い女性社員に囲まれて、お酒を注がれていた。


 その光景を見た山田君が一言、余計なことを発する。

「いや~、やっぱり部長は若い人に人気ですね! さすが部長」


 ピキッ


 何の音だろう。私のこめかみに血管が浮き出る音かな。実際に聞こえたわけではないけど。


 山田君はほどよく……とも言えないくらいにお酒が回っていて、饒舌になっていた。


「あれ~、係長、何か不機嫌ですか? せっかくの旅行なんだからスマイルですよ~」


 純粋にイラッとしたので、山田君をつい睨み付けてしまった。

 流石に後輩にそんな態度を取るのは良くないと思い、冷静になり、満面の笑顔で言ってやった。


「別に不機嫌じゃないから気にしないでいいのよ」


 すると山田君はこちらを両手で指を指して茶化してきた。


「あ、もしかして、部署みんな集まってるのに部長だけいなくて寂しいんじゃないですか~? それとも、普段たくさん相談してるのに他の子に取られてヤキモチですか~?」

「山田君……無礼講でも言っていいことと悪いことがあることを、教えてあげましょうか?」


 私はビールを飲み干し、強めにジョッキを机に置くと、にこやかに山田君に微笑み返した。

 山田君は調子に乗りすぎていたのを自覚したのか「あ……すみません」と頭を下げてきた。私はその頭に軽くデコピンをする。


「じゃあ、俺、部長のこと呼んできますね!」

「え!?」


 罪滅ぼしのつもりなのだろうか。お酒で顔が赤くなっている山田君はそう言ってダッシュで部長のもとに向かった。


「部長、係長がお呼びですよ!」


「なんで私にも聞こえる声の大きさで言うのよバカ! ってか呼んでないし!」

 と言いたかったが、喉のところまで出かかってなんとか押し殺した。その反動というわけではないが、机に突っ伏してしまった。

 他の人はその状況を見て、微笑ましそうにクスクスと笑っていた。


 部長は「え?そうなの?」と言いながら、自分のお酒とお皿とお箸を持って私の隣の席に座った。というか、山田君が気を利かせたのか隣の席を譲ってくれたのだ。


「えっと、栗田、呼んだ?」

「お呼びじゃありません!!」

「でも、山田が……」

「山田君が勝手にそう言って部長を連れてきただけです!」


 部長が山田君の方を見ると、「すみません、いつもの癖で」と頭をかいていた。


「でもまあ、部長も揃ったところで、再度乾杯しますか!」

 山田君が音頭をとって、再度乾杯をする。山田君は普段は真面目で素直なのに、お酒が入るとお調子者になるようだ。覚えておこう。


 隣に座っている部長を横目でちらっと見ると、視線が合ってしまった。

 私はいたたまれなくなり、おかわりしたビールを飲んだ。


「部長、良かったんですか? こっちに来て」

「え、どうして?」

「若い子たちに囲まれてた方が、楽しかったんじゃないですか?」

「まあ、それはそれで楽しかったけど、やっぱりみんなといる方が気が楽でいいな」

「ふ~ん、あ~そうですか」

「あのさ、栗田」

「なんですか」

「……痛いんだけど」


 私は机の下で部長の足の小指を踏んでいた。掘りごたつ式なので他の人からは見えていないだろう。


「気のせいじゃないですか?」


 そんな会話をしていると、さっきまでクスクス笑っていた女性社員たちが声をかけてきた。


「なんか、そうしていると、おしどり夫婦みたいでいいですね♪」


 私は意表を突かれた言葉にドキッとして、りんごのように顔が真っ赤になってしまった。


「~~~~っ! ななな、なに言ってるの!?」


「二人は付き合ってるんじゃないか~って、みんなの間で噂になってますよ?」


 私はあまりの恥ずかしさに、机に突っ伏して顔を隠す。


「いやいや、俺と栗田はそんな関係じゃないよ。全然」

「そうなんですか? てっきり付き合ってるものかと思ってました」


 部長がフォローを入れてくれたお陰でその場はおさまったが、私は再度部長の足の指を強めに踏む。


「痛ったい! なんで??」


 私は机に突っ伏したまま知らんぷりをした。もう部長なんて知りません。


 その直後、音頭がとられ解散となった。



 その後の沖縄旅行では、二日目も帰りの飛行機でも、部長と話しをすることはなかった。


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