25、
宿に着き、明日の朝食まで解散となった。
今日はフェンリルもレイとミオの部屋だ。
部屋に入ったとたんため息が出る。
ガイスト達には力を隠すのはやめようとは思った。でもそれは、あくまで下弦の月が対象であまり目立つつもりはなかった。
「オーガは失敗だったかなぁ…」
「零?」
「ギルドに目を付けられたかも…」
「ん?そんなの『下弦の月』と一緒に行動してるだけでも注目はされてるんじゃないの?」
ミオは今日のギルドで他の冒険者達の反応を思い出し、色んな情報が入っているであろうギルドなら、きっと前から自分達は注目されていただろうと思う。
「でも、さ。Aランクのパーティーに目をかけられてるルーキーってことだったと思うんだ。ガイスト達が口で何を言っても目をかけてるルーキーを売り込もうとしてるようにも取れるだろ?どこのギルドも半信半疑だったと思うんだ…」
それが今回のオーガキング単独討伐で最低でもその程度の実力はあるとバレた事になる。
厄介事に巻き込まれる予感がひしひしするレイ。
対してミオは…
「零の強さはどうせそんなに永く隠せないよ。」
と、何故か少し嬉しそう。
何が嬉しいのかわからないし、隠せる所まで隠そうって話し合ったはずなのに?
「このさい、下手に隠そうとするより、強いよ?手出ししないでね?に方針転換しちゃおう?」
もう色々面倒事が寄って来そうだし、日本でもなければ、勇者でもないんだから…
フェンリルを下ろし零に近寄ってきて抱きつく。
そんなミオの背中にそっと腕をまわすと
「折角なんのしがらみもないんだもん。自由に生きよう?私は零が居てくれたらそれでいいから。」
そう言うと、レイの背中に回していたミオの腕に力が入り、ぎゅっと服を掴む。
確かに命懸けで自分達の生活を守らなければならないこの世界は優しくはない。でも家族からすら身を守らなければならなかった日本での世界に比べれば、野営時でなければ安心して眠れるこの世界のほうがいい。いや野営時でもレイが一緒なら安心して眠れる。
それに、強い事は悪い事じゃない。レイには堂々としていて欲しい。
サッカー場で皆をまとめながら走っていた零は、堂々として光っていた。
今は、私を守ろうとするあまり力が入り過ぎてる気がする。
私だって簡単にやられたりしない。
前の異世界では勇者だったのだ。
零と一緒に死線だってくぐり抜けた。
まぁその時の経験から、私をあんな危険に晒したくないっていうのもあるのだと思うけど……
レイの過保護っぷりは時に皆が苦笑する程。
でも私だけにひたすら甘いのはとても嬉しい。
私がレイに貰っている優しさを、レイにどれだけ返せているのかわからないから、少しでもレイの生きやすい生き方をして欲しいと思う。
何故この世界に来てしまったのかはまだ解らないけど、誰の事を気にするでもなく二人一緒にいられるなら、日本にいるよりずっといい。
「私だって強いんだよ?」
腕の中にすっぽり収まる小さくて、自分とは違う柔らかい体と温もり。
俺が守って行くと決めた。でも、この腕の中の生き物は守られるだけを良とはしないと知っていたはずなのに、忘れていたみたいだ。
頬を撫でると意識はないはずなのに手に摺よってくる。
そんな無防備な姿も自分だけが知ってると思うとまた、ぞろ庇護欲が立ち登ってくるけれど……
ミオの言う通り、力を見せてしまったほうが危険は減るのかもしれない。
まずは、アルやガイスト達に色々話してしまおう。ミオが起きたら相談はするが、多分ミオも反対はしないだろう。
※
その頃、とある酒場では………
「久し振りやなぁ。」
「おう。お前のとこのパーティーがこっちに来るのは珍しいもんな。」
ソラはガイストに言われ街で情報収集に当たっていた。元々スカウトで情報収集がパーティー内でのソラの役目。
下弦の月に入るまでは、それだけで食べて行ける程だったので、その世界での伝もアルが感心するほどだ。
今日はフェンリルに関する情報集めと、今の時点でレイ達の事がどの位広まっているかの調査である。
「こっちの方はそこそこ戦力揃ってるやん?うちのリーダーは面白味のないとこには興味ないねん。」
「面白味ねぇ。そういえば新顔連れてたなぁ、お前とこのパーティー。あれ誰だ?」
「誰って名前位はもう知ってるんちゃうの?」
「名前くらいは、な」
「それで?何くれるん?」
「それはお前が何をくれるかによる」
お互いを探るように視線を交わす。
先に折れたのは相手の方だった。
「わかった。何が欲しい?」
「うちのお嬢ちゃんが連れてたちょっと変わったペットに付いて」
「お嬢ちゃんて…お前と年は変わりないような感じだが?」
「無駄口はええねん。なんかある?ない?」
ソラの前に座る男は、わざとらしくため息をつきながら
「お前も昔はもう少し可愛げがあったのに…」
「ないんやったら他をあたるけど?」
「オマロを2日程前に出たのがいるらしい。」
「それで?」
「オーガの件で森を通るのは制限が掛かってたんだが、解除されたとたんあわてて出発したそうだ。商人風に装ってたらしいが、俺の所の奴が見た限り傭兵崩れだろう。」
「ふーん。何人くらい?」
「5人。」
「へーえ。」
「へーえってお前…傭兵は対人戦闘じゃ冒険者の上を行くだろ?!」
「そやけど、有名な傭兵やないんやろ?名前がでてこえへんってことは」
「まぁ、そうだが…」
「そんなん幾ら来てもどってことないわ。うちの大将やで?」
ソラには嬉々として返り討ちにしてる情景が思い浮かぶ。
「ああ、ガイストだもんなぁ。」
弱冠遠い目になる男に
「それだけ?他にないん?」
「14、5日前までは親らしいのが結構下まで来てたらしいが最近は見掛けんらしい。諦めたんだろう。いくらあの犬っころの親とはいえ、あそこであまり下の方にいると無傷ってわけにいかないだろうからな…」
「ふーん。狩られたわけじゃないんやったらいいか…」
「で?あの二人は?」
「ああ。男はレイ。女はミオ。」
「お前なぁ…名前位はもう知ってると言ったろう?」
「レイやんは、Eランクになったばかりの冒険者でオーガキングを単独で討伐出来る猛者や。」
「は?」
聞いた男は訳がわからない…Eランクの冒険者が単独でオーガキング?
だがソラの顔を見た男はそれが真実だと解る…
「まじかよ……」
「ついでにゆうと、レイやん無傷やったから。」
「は?」
「オーガ2体とオーガキング1体。単独討伐で無傷。」
すごいやろ?と笑うソラに言葉もない男であった。




