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案外、長からの許可は簡単に貰えた。
子孫を持てないのはしょうがないと諦めていたそうで、問題があるかもしれないが子を持てる機会があるのなら受けたいと。
実験みたいな事をする気は無いが観察されるのは嫌じゃないのか聞いてみたが、交尾を見たいのかと聞かれ、全力で否定した。
更に、どうせ知りたいのは番のスキルと子のスキル程度だろうと言われたので、身体とか性格とかも知りたいと言うと失笑されたけど。
そんな日々を過ごし今日、黒エルフの集団がうちに来た。
ま、来たところで、僕に出来る事は無い。
実際、彼らを迎えてからは横目で諸々の手続きを眺めるだけだった。
ダンジョンボスとして紹介はされたが彼等からの紹介は無かった。
それからここ最近は決まった時間に来て、作業の様子を眺める。
黒エルフがゴブリンに声をかける訳が無いので、もっぱらご主人様が探して来た資料を眺めていた。
警戒されてるなー。
作業の休憩を交代で行なっているが、男性黒エルフが常に僕を見張る様になっていて、更に女性黒エルフだけにならない様に常に男性が近くにいた。
ゴブリンダンジョンだから、そうなるのは当たる前だ。
それにここに来れるのはご主人様と僕だけだと説明されている筈、だが侵入者感知の魔法も仕掛けられている。
苦労したんだな。
僕も人間の頃は……ん?
いつもと違う気配がある。
子供か、って実年齢は知らないので、本当に子供か疑わしいけど。
興味本意か、実力試しか。
もしもの時の為に鑑定を騙せる工作をしてる。
鑑定で見られたとこで、スキルは種付と緑の手の二つだけ。身体中に貼り付けたスキル紋も使わなければただの紋様だし体の表面をただのゴブリンに見える様に常に偽装している。
「ゴブリンさん」
チラリと見て、用件と書かれた紙を見せる。
「用件は無いよ、話に来たんだ」
言葉だけで反応しないで、言われている事が分からない振りをして紙を押し付ける。
というか大人はどうした?
近くに気配はあるのは感じる。
見た目は子供だし、情報引き出し要員ってやつかな。
しかし、知能がある素振りは見せていない筈なんだけど、読んでる資料は僕にしか見えない様になってるし。
「ゴブリンさん実は頭良いでしょ」
本当に言ってる意味が分からないので、頭を傾げて見せた。
「おそらく声を出すなって言われていると思うんだけどさー。主人以外にまで徹底して実行するゴブリンはいないよ、普通。それは自身の声が誰にでも不快だと思われるっていうのが分かってるからの行動だよね」
言われてみれば。
が、ここで声を出せば、ある種の肯定的行動になるかもしれない。
何しても駄目な気がするので、興味失った様に座り直そう。
もうすぐ帰る時間だし。
この日はこれ以上何事も無く終わったが、次の日から毎日来る様になった。
流石に邪魔。
目的が分からない。目的があるのは分かるんだけど。
いや、目的が無いのか? からかいたいだけとか。
見た目通りの年齢の人間ならそういう可能性もあるんだけどなぁ。
なんか疲れる。もう無視無視。
スキル記憶の書。
記憶を本にするスキルだが現実に本にするわけではない、頭の中の本を本当にある様に見せている幻術みたいな物だ。
使いこせる様になれば他者にも見せられる様になるらしいが、そこまで習熟するつもりは無い。
しかし、このスキルはゴブリンが覚えるんだよなー。
ゴブリンと言ってもなんだかんだで頭の良さに差はあるけど、これを使いこなせるゴブリンがいるとは思えないが、案外どこかにいるんだろうか。
ご主人様が探して来てくれた資料を一通り読んだけど、魔法陣劣化の法則性は他から貰った魔法陣で起こる以外に無かった。
うーん、番が多い時は魔法陣劣化が起きるのが一代か二代遅い様に見えるけど、孫の代で一気に出る場合もある。
自分の魔法陣と貰った魔法陣で起こる起こらないの差が出るのか、そして貰った魔法陣でもゴブリンには起こらない理由。
ぱっと見は人間との間の子供だから、多分その理由は間違っていない、だけど何故人間だから大丈夫なのか。
何か見落としはないか?
んー、そういえば一つの魔法陣で大量のゴブリンを生み出す時、警告が出たけどなんで出たんだろう。
あの時は急いでいたし、大量に生み出す事に関してご主人様も何も言わなかったから、すぐ出る様な問題は無いだと思っていたけど、何故僕に警告が出たんだろう、今にして思えばあれはスキルが出した物だったんじゃないだろうか。
警告の中身は確かめて無かったな……。
魔法陣劣化に関係しているとはちょっと思えないけど、まあ行き詰まっているし別の事で気を紛らわせようか。
種付スキル発動、過去の使用記録ってあるんだろうか……あった。
『警告 同一スキル持つ雌雄による繁殖は世代を重ねるごとに負の補正効果が加算されていきます』
声にならない呻き声が出た。
種付スキル、本来は繁殖に関するスキルだよな。
つまりあの時は同じスキルを持ったゴブリンで繁殖をするかもとスキルは判断したのか。
牡しかいなかったわけだが、牝も大量に生み出す可能性もあったから、警告が出たのか。
納得した。そして魔法陣劣化が起こる要因も。
そうだ資料には、大体一つの番分しか渡されていない、子孫にはスキルが継承されるわけだが、最小で一つ最大で五つのスキルしかない組み合わせはそう多くないだろうし元々被っている可能性もある。
生物的に考えればそのダンジョンで生き残った物同士が番になると考えると淘汰されるスキルも出てくる筈、つまり偏ったスキルの組み合わせになるという事で、警告文に乗っ取ると負の補正がずっと積み重なっていく事になるのか。
元のダンジョンで起きないのはランダムでスキルが付くからだな。
あ、すぐにメイズ様に知らせてもらわないと、将来的に負債が大きくなってダンジョンの運営が大変になる。
バッと顔を上げると目の前に、少年エルフの顔があった。
驚愕の声を上げそうになるのを堪えたが、バランスが崩れて体勢は耐える事が出来ずに後ろに倒れる。
「あ、やっとこっちを向いた」
え、何この子、怖い。
「前々から言葉が通じるゴブリンに会ったら聞いてみたい事があったんだけど、ゴブリンさん全く話を聞いてくれる素振りを見せないからもう勝手に聞くね?」
通じるかどうか分かってないだろ。側から見たらゴブリンに一方的に語る痛い奴だよ。
「ゴブリンってなんで人間と子供を持っても大丈夫なのかなって思ってたんだ」
ん? どういう事だ? ゴブリンってそういう物じゃ。
「長生きして色々な所を見て回っていると、猫の様な大型の動物を二種類程見た事があるんだけどさ、見た目は全然違うんだよ」
まあ鳥もそんなの一杯いるから、猫にいたって不思議ではない。
「その二種類の動物ってすごっく偶に子供を作る事があるんだけどさ、見た目が変なんだよね、二つ合わせて割ったみたいな感じになってね」
それは……。
「それに病気とかにも弱いっぽいし子供を作る能力も無いっぽいんだよね。ま、なんでそんな事が分かるかというと人間の一種の冒涜なんだけど、知識欲って怖いよね。と、そんな事を言いたいんじゃなくて、実は人間とゴブリンの間の子もそういう障害が起きてるんじゃないかって思っているんだ」
まさか……。
「ほら、牝のゴブリンって見ないじゃん。だから人間とゴブリンの間の子に牝が出来ないもしくは出来ずらいんじゃないかって思っているだよねー。それと見た目の醜さと知能の低さも案外それが要因じゃないかと思うんだけど、どうかな?」
そんなの知っているわけがない。
「その様子だと、知らないか。知能が高いゴブリンならもしかしたら、特殊な方法で知能を維持して口伝でも残しているのかも思ったけど、ハズレかぁ」
ダンジョンのモンスターがどういう生物なのか知らないのか?
いや、こちらを動揺させて何か情報を聞き出そうと?
だけど、この黒エルフが言った事に対して引っ掛かる部分が多過ぎる。
子孫を残す事が何故スキルという物が必要なのか、なんとなくだが想像が出来てしまう。
もし本当にそうならなんて袋小路な生物なんだゴブリンは。
僕はその場から逃げ出した。
「あれー、どうしたの?」
心なしかご主人様が心配そうに尋ねてきた。
(いえ、ちょっと頼みたい事が二つありまして)
「なーにー?」
(ゴブリンの伝承とか文献とか伝説とか、とにかく古い情報が欲しいです。古ければ古い程いいです)
「うん、わかったー。後一つは?」
(こっちは結構至急なんですが——)
魔法陣劣化についての自論を話した。
「言われてみれば確かにー。証明するには時間が掛かるけど、証明出来た頃には手遅れになってる奴だね。じゃあ、ちょっと行ってくるねー」
ご主人様の気配が消えた。
直後にスヴェルドから念話が来る。
『主殿、一つご報告が』
(何?)
『森を警戒している者が、最近人間をよく見かけると』
(いつ頃から?)
『黒エルフを受け入れてからしばらく経って、森に来る人間の数が増えたそうで御座る』
人気が無い場所と言っても年に何人かは人間が入って来る、大半はいい理由ではないが。
クロだったか。
やっぱり信頼が出来る外部の者はなかなか得れないか。
『どうするで御座るか?』
(放置で)
『大丈夫で御座るか?』
(見つかる事はないし、見つかっても彼らが住んでいる所ですから問題無いです)
さてと、あっちも放置でいいか。
んー、問題は知能が高い事がバレたかな? 最低でも言葉が通じる事は確信を持たれただろう。
まぁ、昨日の今日みたいな事にはならないだろう。




