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後二十五分以上耐えられるのか。
土で壁を作って体勢を整えないと。
あの一瞬で間合いを詰られる理由は分からないけど、ここまで壁が近いんだ突進してくる事はないだろう。
後は咆哮波に耐えられる形にすれば。
地面と壁を繋げる曲面の壁を作る。
直後に衝撃波が襲い壁を揺らした。
土魔法を使い続けてどうにか耐え、一旦攻撃は止んだ。
とりあえず呼吸を整えて、これからどうするか考える。
勝ち目が見えない、いや元々勝ち筋がある勝負でも無かったが。
勝負を始まる前の全てにおいて時間が足らなかった。
こうなれば……、いやそれはまずい。
狼が近くまで来たのがわかる。
だが、どう物理で殴ろうが、落ち着いて土魔法を使える状態では土壁を壊す事は出来ない。
少し安心していると、殺気を感じてしゃがみこむ。
体勢を変える時に一筋の光が横に走ったのが見えた。
しゃがみ終わったと同時に上半分が吹き飛ばされた。
何が……!
狼は振り返る様な動きを見せる。
尾で吹き飛ばしたのか。
その前の一線は——。
疑問を浮かべる前に、狼が咆哮波の体勢になる。
盾を構えるのは間に合ったが、踏み締める事は出来ずに壁に押し付けられる。
力一杯押し返そうとするが体勢が悪く出来ない。
すると変な音が聞こえる、すぐに分かる。
盾が端から削れているのだ。
だが音に違和感を感じる。
砕き削るというより斬り当てて削り取られるというか。
唐突に咆哮が止まった。
狼の息継ぎの一瞬壁に沿って走る。
壁沿いを走る小柄な相手に自身も走りながら攻撃は出来まい。
咆哮も直線技だ、咆哮だから首を動かすと技に支障が出るし身体の回転で追おうにも発射点と到着点はズレる。
範囲が広い攻撃だからダメージは受ける事にはなるが、走る事だけに専念すればいかに攻撃範囲が広かろうと中心に比べれば端の方が威力は低い、どうにか耐えられる。
咆哮が止んで、息継ぎにしては長いと思っていると、走ってこちらに向かって来ていた。
なんで!
狼はどんどん加速してあと数秒で爪を当てる事が出来る距離まで近づく。
でも、壁が邪魔で攻撃は出来ない筈。
すると聞き慣れない大きい音が響いた。
何事⁉︎
後ろを見ると、狼が壁を削りながら迫って来ている。
四つ目は削るスキル?
が、削る様な音では無い。
なんというか地面に突き刺した剣をそのまま引き摺る様な……。
今響いている音と盾を削った音、土壁に走った一線、が唐突に一つに繋がった。
斬撃付加か。
でも、斬撃付加でなんであんな事が出来る?
狼は壁を削る攻撃をやめたがすぐに再開する。
その時狼の声が聞こえた、唸り声と思ったが、伸ばす様な鳴き声。
もしかして咆哮波を走りながら放ってる? 咆哮波を纏う様にしながらそれに斬撃付加している?
そんなのありかよ。ていうかどうやって、口を開けないで声なんて—— 腹話術か!
五つ目は腹話術のスキル?
大道芸のスキルがこんな使い方あるのかよ。
これがメイズ様がよく言っているシナジーか。
しかし、うまく合わさってないな。
咆哮波がここまで届いていない、いくら走破加速で速度が上がるにしても音より速く出来るわけではない。
僕に届いていないという事は、咆哮を完全に攻撃に変換出来ていないという事だ。
攻撃範囲はそれ程広くないのかもしれない、壁が削れているのを見るに一メートルくらいか。
そしてまだ僕が斬り刻まれていないということは、加速スキルが何かしら影響を受けている。
五つ同時に使っているから、効果が中途半端になっているのか。
そこは生まれたばかりだからな、もし経験を積まれていたらもう死んでた。
いや持ちうる全ての札を使わされていたな。
ともかく、このまま逃げ切れるのか。
もしくは、狼が使いこなし始めるか。
長くて咆哮は十秒続いて、二秒間息を吸う。
この二秒で現状を破る。
何かを企んでいるかを企んでいるかを悟られない様に一発勝負。
今!
コケた様に見せ掛ける。
ほんの僅かに感情の隙を作る狼。
仰向けになり盾を被り土魔法で柄を覆って剣を固定する。
予想通り、狼は止まることが出来ず、剣の上を通る事になった、だが鉄の様な硬さと毛量で固定していた剣の安定性はすぐに崩れた。
狼は倒れ込んだ。
剣に血が滴っていたが、ほとんど表面をなぞる程度にしか斬れてないだろう。
しかし、畳み掛けるなら今しかない。
考えてもみなかった傷。
その事による思考の停止、生まれて初めての痛み、身体の硬直。
茫然自失。
このチャンスを逃すなど、最弱の冒険者だった僕でもありえない。
鼻に向かってシールドチャージ。
怯んだ。
刺突ならいける。
腹部目掛けて剣を突き出す。
狼が一鳴きすると盾が弾き飛ぶ。
ただの鳴きでも攻撃に変換できるのか、しかし威力は低い。
この威力、一発までなら鎧でかろうじて防げる。
盾を弾き飛ばされた反動でずれた刺突の軌道を強引に身体を捻り戻す。
もう一鳴き来た。
先程より強い鳴き声、大丈夫と思ったが剣を持つ腕に斬られた様な痛み走った。
斬られた⁉︎ どうやって?
疑問が頭の中を占める視線の先、狼の頭が下に向いていた。
そ、うか。
土壁への一線は何にどういう風に斬撃を付与したのかと思えば、一直線に流れる力を斬る動作に見立てて斬撃を与えていたのか。
だが土壁への一撃より弱い。
鎧のおかげで斬り飛ばされていない。
なら、進める!
だが、肉体的に出来る最後の攻防。
腹部には迫れない。
なら目標は。
『ストップ!』
マズルに突き刺そうとした切先が直前で止まる。
『時間切れです。ルールに則り勝者はゴブリン!』
勝った?
体から緊張が抜けて、そのまま尻餅をつく。
疲労困憊で動けない、なのに身体中が痛く身じろぎしたいのに出来ない。
拷問だーと思っていると身体が楽になってきた。
ご主人様が回復魔法を使ってくれているようだ。
(ありがとうございます)
「どういたしましてー」
狼を見ると、体を伸ばして伏していた。
すると離れの狼から鳴き声が聞こえると、耳がペタンと倒れた。
ゴブリンが驚いた様に見ている。
あの狼が何を言われたのか分からないからだろう。
私は自身で開発したイアールンヴィズの狼用の言葉変換魔法で何を言われたのか把握している。
魔法を教えてやってもいいが、同じダンジョンのモンスターだ。狼側が拒絶を解けば言葉が通る様になるだろう。
しかし、このゴブリンは異常だ。何故、五体満足でいられる。
上級モンスターと下級モンスターの素質差は生まれた早さで覆るほど小さくはない。それも成長出来ないこのダンジョンで強くなれるというのは、おかしい事だ。
いくらダンジョンボスとはいえ、強さの上限など高々しれている。
この勝負のきっかけになった凄い発見っていうのが関係しているのかしら?
もしそうなら話は違ってくる。
短期間で強くなる方法、誰もが欲しくなる力だ。
どうにかして教えて貰えないだろうか。
無理か。
希望があるとすれば、今回の驚くべき新発見を超える新発見が今後に出て来たら教えてくれるぐらいだろうか。
とりあえずは、今回の組み合わせの記録でダンジョンボスのスキル選定に必要な情報は手に入った……と思いたい。
流石に時間をかけ過ぎている、先輩の目が痛くはないが、なんか生暖かい。
最後に彼にスキルの使い心地を聞いて帰ろう。
「せ、い、ざ」
ご主人様に言われて、黙って正座する。
「とりあえず、昨日はご苦労様」
(ありがとうございます)
「じゃあ、君が見つけた新発見を聞こうか」
(はい。とりあえず実際に見てもらいます。視覚共有します?)
「そうだねー」
目に違和感を感じて繋がったのが分かる。
接木を発動してから穂木を選んで適当にスキル紋を選択、そして台木を僕に選択して、手のひらにスキル紋を押し付けると、手のひらにスキル紋が付着した。
「ちょっと待って、流石に、本当に、ちょっと、待って」
言われた通り待つ。
余程驚いたのか、妖精の体を消している。
分かっている事はまだ少ないとはいえ、報告しないといけない事はまだあるんだけど、いつ落ち着くかなぁ。
あ、帰ってきた。
「それをどの程度試したの?」
(まぁ、我ながら調子乗ってしまってこの程度ですかね)
全身の表面に施していた擬態を解いた。
ご主人様の目が見開く。
まぁ全身にスキル紋が描かれているのだから、そうにもなる。
「なんか足が速い気がするするなーとか、なんか頑丈だなーとは思ったけど」
(頑張って調節しました)
「という事はー、本気を出していたら勝ててたー?」
(どうですかね? 勝率は高かったと思いますけど。スキルを使う為の魔力が足りたかどうかが分からないんで。後先考えず全力の短期決戦でやれば八割か九割はいけるかもしれませんけど)
「まー、力を出来るだけ隠したのは賢明だねぇ。一ヶ月そこらで下級モンスターが下級モンスターのまま上級モンスターを圧倒出来る様になったとか、情報を教えないと勇者差し向けられていたよぉー、いや情報教えてもされてたかもー」
(あんまり信じたくないんですけど、勇者を導く妖精って……)
「半々……いやもうちょっと少ないかなー流石に。ちゃんと埋め込まれた情報を確認してる様で偉いよー」
褒められた。




