音楽
「汰駆郎君も手伝って」
クリスマスツリーの頂点は仕上げではなかったのか。
「あそこに飾りあるから」
釣井が指した先には二つの段ボール箱があった。
それぞれ開けてみると、オーナメントがぎっしりと敷き詰められていた。
装飾は終盤に差し掛かっていたわけでもなかったらしい。
それから釣井監修の下、装飾を手伝う羽目になった。
サンタクロースや雪だるまの置物を、桟やデスクなど指定の場所に置いていく。
面倒だ。
別にどこに置いてもいいじゃないか。
デスクは自分の陣地じゃないか。
流石に準備が早過ぎるだろ。
その前にまずハロウィンだろ。
細かい指示に、嫌々従う。
「あっ、ラジオ体操の時間だね」
スプレーと型紙を持ってウィンドウデコレーションを担当している参田の言葉で釣井は「あっ、そうだった」と思い出し、自分のパソコンに向かった。
「はい、皆、作業中だーんっ! ラジオ体操はぁーじまぁーるよー」
その言葉で再生された、未だに慣れない気恥ずかしい時間が終わると、「じゃあ、全員揃ったし、ラジオ体操で体あっためたし、本格的に作業始めるよー!」と、現場監督モードを再開させた。
今までは本格的ではなかったらしい事に、度肝を抜かれた。
「よし、かかれぇい!」
僕も含め、全員が作業を再開し始めている故、その台詞は単に言いたかっただけだろう。
「BGM掛けっか。気分上がるっしょ」
「うん、賛せーい」
釣井がそう返すと渡仲は、スマホをスピーカーに繋いだ。
それから、大音量で音楽が流れ始めた。
「ちょっとちょっとっ! うるさいっ! 音おっき過ぎっ!」
「BGM掛けんの賛成っつったろ」
「そんな大音量は大反対だからっ!」
「レゲエだけど」
「いや、だったら何なの。レゲエだったらしょうがないってならないから。早く音下げて曲変えて。嫌なんだけど、その曲」
「レゲエは大音量って決まってるだろ」
「知らないから、そんなルール。てか、ないからそんなルール。早く音下げて曲変えて」
「常識だろ。レゲエは大音量じゃねぇと意味ねぇだろ」
「それはあんたの常識であって一般常識じゃないし。意味なくていいから早く音下げて曲変えて」
「大音量じゃねぇレゲエなんて、カツのないカツカレーだろ」
「じゃあ別にいいじゃん。カレーとして食べろよ。早く音下げて曲変えて」
「レゲエはマックスで聴くって決まりなんだよ。授業で習ったろ」
「何そのオワコン学校。一人の時にマックスで聴けばいいでしょうが。早く音下げて曲変えて」
痺れを切らした釣井はスピーカーの音量を適したそれに下げた。
「音下げんなって」
「別にしよ。アタシはレゲエ嫌いだし、あんたにとって大音量じゃないレゲエはレゲエじゃないんでしょ。だったら他の曲にしたら皆納得でしょ。てか、どっちにしろこれはうるさ過ぎ」
釣井は渡仲のスマホをスワイプして曲を変えていく。
「はい駄目、これも駄目」
即不採用が続く。
「もう全部レゲエじゃん。じゃあもう、アタシのプレイリストにしよ」
「スズのスマホ、韓国ばっかだろ」
「いいじゃん、韓国。韓国の何が問題なのさ」
「我が国を愛せよ」
「どの口が言ってんのさ。レゲエの方が日本感ないでしょ。韓国の方が近いし」
「馬鹿野郎、めちゃくちゃ有名なレゲエの日本人、めちゃくちゃいるわ」
「例えば?」
釣井に言われた渡仲は、知らない名前をどんどん列挙していく。
「知らんわ。全部知らんわ」
それから自分のスマホでKーPOPを流し始めた釣井は、時折渡仲と衝突しながら現場監督モード全開で指示を出していく。
クリスマス仕様にするのはまだ早いだろ。
まずハロウィンだろ。
作業が進むにつれてそれ等の思いが強まる。




