変身
「じゃあ、君が立派だなって思う大人は身近にいるかな」
「〝シフトマン〟ッ!」
〝身近〟の意味を理解していないのか、彼の中では〝身近〟にカテゴライズされているのか、どちらだろう。
「じゃあ、他にはいるかな」
「んー……」
少年は空を見上げる。
「パパかな」
彼が小学校に入学して間もなく、父親が病死したらしい事がデータに表示されている。
「パパのどんなところに憧れてるの?」
「んー……」
少年は考える。
「優しくて、カッコ良かったところ」
過去形なのが儚い。
「でも、パパはねぇ、料理が下手っぴで何でも丸焦げにしてたし、男なのに虫が嫌いだったの」
〝死んじゃったの〟という言葉が続くと予測していたが、まさかの愚痴だった。
彼の憧れている人ランキングでパパが〝シフトマン〟に次ぐ二番目である理由は、それ等らしい。
「じゃあ、君の思う、立派な大人ってどんな大人?」
再度訊いた。
「んー……」
「パパみたいになりたいんだよね?」
「あっ、パパみたいに優しくて、カッコいい人」
少年がそう言った瞬間、アラームが鳴った。
ギリギリクリア。
何とか彼を、合格に導けた。
「ありがとう。これで全部終わりだからね。じゃあね」
「ふーん、変なの」
そりゃ、そう思うよな。
少年のランドセルにGPSシールを貼る。
「ん? 何?」
少年は振り向いた。
「何が?」
「何か付けた?」
バレてしまった。
とぼけてみても無駄だった。
「何も付けてないよ」
「嘘だぁ」
少年はランドセルを肩から外した。
「何も付けてないってば」
全く聞く耳を持たない。
「気のせいだよ」
少年の手の動きを制止しようとするが、意味がない。
「何これぇー!」
バレてしまった。
どうしよう。
自分は知らないのは無理がある。
〝お守り〟も通らないだろう。
「これ、〝シフトマン〟の変身バッジじゃんっ!」
でかした。
「えっ、これくれるの?」
「うん、いいよ」
「やったぁ!」
少年はGPSシールを剝がし、自分の左胸に貼り直すと、更に喜んだ。
GPSシールが〝シフトマン〟の変身バッジとやらに似ているらしくて良かった。
「お日様の様に熱く輝く〝サンデーレッド〟に、シフトッ!」
少年はGPSシールのある左胸を押さえながら言うと、両腕を十字にクロスさせた。
〝シフトマン〟の真似らしい。
すっかりご満悦だ。
もう彼へのプレゼントはこれで充分なのではないだろうか。
そう思ったと同時に、残り六人のヒーローが変身する際はどんなフレーズなのだろうかと、少し〝シフトマン〟に興味を持ち始めた自分に気付き、妙な悔しさを覚える。
「それじゃあね、協力ありがとう」
「うんっ! 変身バッジありがとうっ!」
再び変身ポーズをやって見せた少年に倣いながら、別れた。




