憧憬
「え、あぁ、全部好きだよ」
「例えば?」
「例えば……? 例えば……、じゃあ、君は?」
「僕はやっぱり、〝ブラックカメレオン〟かな」
「ああ、いいよね。僕も〝ブラックカメレオン〟が一番好きかな」
「ふーん。他にはどの怪人が好きなの?」
マジか……。彼の好きな怪人に乗っかるだけでは駄目だったか。
「えっ、あの、あれだよ、カニの……」
「ああ、〝クラブナイト〟ね」
「そうそう、〝クラブナイト〟」
制限時間が削られていく。
これ程に心を開いてくれれば大丈夫だろうか。
「あのさ、サンタクロースってどんな人だと思う?」
「んー、太ってて、赤い服着たおじいさんかな」
タイマーを停めた。制限時間は残り七秒だった。
彼が心を開いてくれて良かった。
〝シフトマン〟の名前を聞いた事があって良かった。
話を合わせる事が出来たて良かった。
カニの怪人がいて良かった。
様々な安堵が込み上げる。
「じゃあ次は、心理テストだよ」
「心理テスト……?」
少年は首を傾げる。
心理テストの説明をする必要はないだろう。
「君が家に火を着けたとする。君が火を着けたのは何でかな」
「えっ……」
少年は言葉に詰まり、戸惑う。
そりゃ、そうなるよな。
「〝ダイナミックドラゴン〟の真似かな。何か、よく分かんないけど」
よし、クリア。
恐らく怪人の事だろう。
「成程ね。確かに火吹くもんね」
「違うよ、吹くんじゃなくて爪で引っ搔いたら火が出るんだよ」
「ああ、そうだった。爪だったね」
「火吹くのは〝サファイアドラゴン〟でしょ」
「そうだった。〝サファイアドラゴン〟だったね」
不要な勝負に挑んだ結果、失敗してしまった。
調子に乗り過ぎたらしい。
「じゃあ、最後の質問にするね」
「うん」
「君にとって立派な大人って、どんな大人かな」
「うーん……」
タイマーを動かす。
「立派な大人……」
頑張れ……。
「何だろう……」
時間が迫る。
「じゃあ、君の好きなヒーローは何だっけ」
「〝シフトマン〟ッ! そうだっ! 〝シフトマン〟みたいになりたいっ!」
作戦が成功したらしい。
だが、これで合格とは言い難い。
「〝シフトマン〟のどんなところに憧れてるの?」
「うーん」
少年は首を傾げる。
頑張れ……。
「うーん……」
時間が迫っていく。
この年の子供はまだ、〝憧れる〟という感覚が分からないのかもしれない。
「じゃあ、〝シフトマン〟のどんなところが好き?」
ヒントを出す。
「うーん、必殺技がカッコいいところかな」
「あとは」
「うーん、主題歌がカッコいいところ」
「あとは」
「あとは、七人が個性的でやり取りが面白いところかな」
「あとは」
「何だろう……。毎回、ドキドキ、ハラハラするところかな」
駄目だ。
憧れている部分に置き換えられないものばかりだ。
時間が迫っていく。
何か、いい作戦はないだろうか。




