名前
監視と質問は回数を重ねるにつれてペースを上げていき、多くて一日数百人の子供をギフターリストに入れる事が出来る様になった。
質問をする際、やはり彼等は総じて訝しげな表情を浮かべる。
それも無理はない。
今まで防犯ブザーを押されていないのが奇跡だ。
警戒された状況であの様なおかしな質問をするのは容易ではない。
いかに彼等の緊張と警戒を解くかが重要だ。
これまで接する機会がなかった子供の扱いに少しずつ慣れ、スムーズに進められる様になったと、実感している。
河川敷を歩くターゲットの少年が、点滅し始めた。
サングラスを外し、走る。
すると、まだ数メートル先という早い段階で少年は振り向いた。
「ちょっと、いいかな」
少年は、「えっ……」と声を出しながら半歩下がる。
「ちょっとだけ訊きたいんだけど」
少年は再び半歩下がる。
パーソナルスペースが広いらしい。
「な、何ですか」
少年は引きつった表情で更に半歩下がる。
不審者判定が早過ぎるだろ。
ただ道を尋ねたいだけの可能性があるだろ。
いや、ネットもスマホも普及したこの時代である上に、大人がわざわざその相手に子供を選ぶのは無理があるか。
とりあえず質問しなくては。
「突然なんだけど、名前、訊いてもいいかな」
少年は半歩下がると、しばしの沈黙の後、か細い声を発した。
恐らく名乗っているのだろうが、「です」しか聞き取れない。
何度か聞き返すが、下を向いたまま発せられる、もごもごとした声はむしろ、回を重ねる毎に小さくなっていく。
そうだ。
「教科書、見せてもらえるかな」
少年はランドセルの蓋を開け、〝こくご〟と書かれた教科書を取り出し、その裏を僕に見せる。
マジックで書かれた名前が、乱雑過ぎて解読出来ない。
何故、自分で書いてしまうんだ。
何故、こんなにも読めない字なのだろう。
記入欄から大いにはみ出した名前を睨む。
駄目だ。
「ちょっと、他の教科書も見せてもらえる?」
少年は頷くと、今度は〝さんすう〟と書かれた教科書を取り出した。
互いの文字を補い合う形で認識が出来そうだ。
「〝おにづか〟……、〝ごうけん〟……」
少年は頷く。
「〝おにづかごうけん〟って言うのか」
少年は再び頷く。
その名前をタブレットで検索する。
鬼塚豪剣。
こんなにもゴツい名前があるだろうか。
こんなにも名前とイメージがかけ離れた人物がいるだろうか。
鬼塚豪剣感が微塵もない。
画面上のデータによると、この少年の父親は柔道教室の講師らしい。
いかにもそういう人物がつけそうな名前だと納得した。
その父親に嫌々柔道をやらされ、しごかれているのだろうか。
そんな妄想が浮かぶ。




