五秒
「あの、ところで、子供をギフター認定したら、その子の住所を特定する為にGPSシール貼るじゃないですか」
「えっ、まさか、貼ってんのバレた?」
「いや、違います」
「失くしたの?」
「失くしてもないです。あの、あれって大丈夫なんですか」
「大丈夫って?」
「法律上、大丈夫なのかなって思って」
「ああ、ホントは駄目じゃない?」
薄々そんな気はしていたが、どうか大丈夫と言ってくれという願望は叶わなかった。
「えっ、駄目なんですか」
「うん、駄目だと思うよ」
一応、聞き返してみたが、答えは変わらなかった。
「クリスマスは不法侵入っていうもっと悪い事しなきゃいけないからね。ダークヒーローって感じ?」
係長の言葉でふと冷静になり、プレゼントをくれるという利点が隠していたサンタクロースの犯罪に気付いた時、二人の少年が、学校の玄関から現れた。
それぞれネットに入ったサッカーボールを蹴りながら並んで歩く彼等を追う。
「何だかエモいね、あの感じ」
時折、大笑いする二人に係長は、微笑みながら呟く。
「なぁにがあんなにおかしいんだか。でもホント、あれぐらいの時期って笑ってばっかりじゃなかった? アタシ、小学生の頃って笑ってた記憶しかないもん。担任の先生が言ってたんだよね。んと……、何だっけ……。笑う事は何だかって、先生が言ってた名言……」
名言を忘れたのか。
「あっ、そうだ。人は笑顔でいると幸せだって錯覚するんだって。それに、笑顔って人に伝染するから人を幸せにする魔法だし、落ち込んだ時の特効薬でもあるんだって」
係長はさも自分発信かの様な表情で言った。
大部分を忘れていたらしい。
その時、二人の少年が点滅し始めた。
「よし、オッケー」
係長に倣ってサングラスを外す。
「じゃあ、汰駆郎君はあっちのおチビちゃんで、アタシはあのおデブちゃんね」
〝お〟と〝ちゃん〟を付ければいいってものではないだろ。
「ごめん、ちょっとだけいいかな」
僕と係長はそれぞれ担当の子供に近付き、隔離する。
「ちょっと質問してもいいかな」
「何ですか……」
〝おチビちゃん〟と称された少年は、か細い声を出した。
恐らく言う程小さくなく、これが小学校低学年の相場だと思う。
名前を確認すると、やはり喘息持ちの少年で間違いなかった。
「サンタクロースって、どんな人だと思う?」
そう言ってタイマーを作動させた。
「んー……、髭が生えてて、太っちょで、クリスマスにプレゼントくれるおじいさん」
少年は、〝太っちょ〟のタイミングで思い出したかの様に友達の方を見る。
「成程ね。じゃあ、次はもしもの話なんだけど、君が家に火を着けたとする。どうして自分は火を着けたと思う?」
「えっ……、んー……」
ギフターの子供が悩んでいても、例を挙げたり誘導するなどの口出しはご法度。
何度も念を押されたこの鉄則を破ってしまいそうな衝動に駆られる。
少年は悩み続ける。
「んー……、嫌いな……、人の、家だった……、とか……?」
クリア。
「成程ね。じゃあ、最後の質問だよ。君にとって、立派な大人はどんな大人かな」
「んー……」
少年は助けを求める様に友達をちらちらと見ながら熟考する。
制限時間は五十秒を経過した。
その時、少年は口を開いた。
「何にでも……、一生懸命な人……、かな」
よし、クリアだ。
制限時間は、残り五秒だった。
少年の目を盗んでランドセルにGPSシールを貼る。
「ちょっとここで待ってて」
何やら大笑いしている係長の方へ向かう。
傍まで来ても、彼女はお構いなしだ。
「終わりましたけど」
まだ、笑っている。
何がそんなに可笑しいのだろう。
それから係長の笑いが治まるのを待っている羽目になった。
「この子、前に先生の事、〝ママ〟って呼んじゃって、〝あなたを産んだ覚えはありません〟って言われたんだってぇ!」
そんなベタな失敗談に大笑いしていた事に呆れる。
それから二人の少年と別れた。
「どう? そっち」
「合格です」
「あっ、そうなんだ。こっちはね、〝ホントはサンタクロースじゃなくて、パパとママがプレゼントくれてるって、兄ちゃん言ってたぁ〟って言ったから一問目で脱落」
係長は若干悪意を感じなくもない物真似をしながら言った。
彼女が喋ったり大笑いしていた時間の殆どが余談だったらしい事に呆れる。




