質問
別の小学校にテレポーテーションし、玄関から次々と溢れる子供達を遠くから眺めていると、その中で一際目立つ、赤色に染まった少年が現れた。
「あっ、来た来たっ!」
二人の友達に挟まれた状態で歩く少年を追う。
「ねぇねぇ、見て、めっちゃキラキラネーム」
係長は手で一部を隠したタブレット端末の画面を僕に見せた。
「これで何て読むと思う?」
その衝撃的な名前は自分が以前、ギフター候補に認定した少年だと思い出した。
ただただ文字と響きのカッコ良さだけで付けられた様な名前と、彼がDⅤを受けているらしい事から、恐らく親は元ヤンなのだろうなと推測が過る。
しばらく尾行していると、少年を纏う赤色が点滅し始めた。
ギフターに相応しいと、サングラスに搭載されたAI機能が判断したらしい。
「よし、完了したね」
サングラスを外した係長に倣う。
「三つの質問、覚えてる? 言ってごらん」
三つの質問を確認され、「よし、オッケー」と、GOサインが出た。
「じゃあアタシ、他の二人と適当に喋って足止めしてる」
ギフターの子が流されて意見を変えない様、他の子と隔離しなくてはならない。
テレポーテーション前に係長から忠告を受けていた。
「ちょっと、いいかな」
サングラスを外した僕は、少年達の前に立つ。
「ちょっと、君に用があるんだけど。あっ、怪しい者じゃないよ」
怪しい者は〝怪しい者〟を自称しない故に無意味なフレーズだが、思わず補足する。
「二人はお姉ちゃんとあっちで話そうか。怪しい者じゃないからね」
係長は訝しげな二人の少年を少し離れた場所へ誘導した。
客観的に見るとやはり、怪しい者以外の何物でもない。
「じゃあ、質問するね」
目の前の少年は訝しげに頷く。
「サンタクロースって、どんな人だと思う?」
サンタクロースの存在を信じているかを判定する為の質問だが、ストレートな訊き方だとサンタクロースを信じている子供を傷付けてしまう恐れがあると、係長にしつこくレクチャーされた言い方で訊き、スマホのタイマーを作動させる。
「んー……」
少年は考える。
「赤い服着てて、髭生やしたおじいさん」
一問目、クリア。
「次の質問、いいかな……」
「えっ、うん……」
そりゃ、そんな表情にもなるよな。
自分なら助けを求めている。
「次は、心理テストだよ。君は、自分の家に火を付けたとする。火を付けた理由は何かな」
「えっと……」
見ず知らずの子供に犯罪心理学の問題を出すなど、傍から見れば、むしろこちらが不審者だ。
「んー……、分かんない……」
二問目、クリア。
まぁ、そりゃそうか。
〝注目を浴びたいから〟などと回答をする様な、サイコパスの頭角を現す小学生など、そうそういないだろう。
さて、最後の質問だ。
「最後にもう一つ、質問してもいい?」
「えっ、うん……」
訝しげな表情が不憫に思えてきた時、係長が大笑いする声が聞こえた。
随分と話が弾んでいるらしい。
「じゃあ、いくよ、最後の質問。君の思う立派な大人って、どんな大人かな」
哲学と道徳の要素が混ざった様なこの難問に、小学生はどう立ち向かうのだろう。
「んー……」
少年は首を傾げる。
制限時間は三十秒を切った。
「優しい……、人……、かな……」
合格だ。
彼は面接をクリアし、ギフターに認定された。
「ありがとう。もうこれで終わりだからね。じゃあ、友達のところに行こうか」
少年の目を盗んで、台紙に並んだGPSシールを剝がし、ランドセルに貼る。
「あっ、終わりました」
僕の声に聞く耳を持たず、二人の少年とアニメの話で盛り上がっているらしい係長は、どんどんヒートアップしていき、足止めをしていた筈の彼女の白熱が治まるのを数分間、待っている羽目になった。




