夫婦
「よし、到着っと」
学校の様な外観の建物には、〝まつゆき荘〟の文字が刻まれている。
参田が押したインターホンから、「はい」と、男の声が聞こえた。
「日本サンタク……」
「ちょいちょいちょいっ!」
「あっ、そうだったっ!」
「ちょっ、よけてっ!」
苛立ちと呆れが混ざった様子の釣井は、参田の体を横に押してインターホンの前に立った。
「〝子供達をボランティアし隊〟の者です」
「あっ、どうも。今、伺います」
シュッと、インターホンの電源が消える音がした。
「それホント気を付けてっていっつも言ってるでしょっ! もう先生、この役目クビッ!」
「いやぁ、ごめんごめん」
喝を入れる釣井に参田が両手を合わせて詫びていると、玄関の自動ドアから、白いポロシャツとジーンズを身に着けた、中年の男女が現れた。
「これはこれはっ! お待ちしておりましたよっ!」
赤いバンダナで頭を覆ったふくよかな男は言った。
「おっとっ! 大変ご無沙汰しておりますっ!」
参田は男とがっしりと握手を交わす。
「参田君、ご無沙汰しております」
白髪交じりの華奢な女が参田に手を振る。
「あら、これはこれはっ! イズミさんじゃないですかっ!」
「覚えてて下さってたんですね」
「勿論ですよっ! イズミさんもここにいらしたんですねっ!」
「ええ、夫婦二人でやってるんです」
「あらっ! そうですかっ! お二人は夫婦になったんですかっ!」
「そうなんです」
口を揃えた二人のポロシャツには左胸に〝まつゆき荘〟という文字の刺繍が施されている。
この施設の制服らしい。
「へぇー、これまたびっくりだなぁ」
参田は目を丸くしたままだ。
「私、マツユキソウヤと申します」
「マツユキイズミと申します」
二人はそれぞれ首に下げた名札を手に持って見せた。
男の方には〝松雪 宗野〟と、女の方には〝松雪 和泉〟とマジックで書かれている。
「あ、釣井寿々音と申します」
一礼した釣井に倣って僕と渡仲も自己紹介する。
「あっ、ホームページ拝見しましたよ。とても素敵な絵ですね」
和泉が両手を合わせて感激した表情を浮かべる。
「ありがとうございますっ! アタシが描いたんですっ!」
「あら、そうだったんですかぁ」
二人は口を揃える。
「死ぬ程下手でしょ?」
渡仲が嘲笑いながら二人に問う。
「下手じゃないし、死なないし」
「あはっ、とても上手な絵でしたよ」
和泉の言葉に宗野が「ええ」と頷くと、釣井は「ほらぁ」と、渡仲に得意気な表情を浮かべる。
「いや、社交辞令に決まってんだろ。チョロ過ぎだろ、お前」
「え、社交辞令じゃないですよね? 本心ですよね?」
「ええ、勿論」
二人は微笑み混じりに口を揃える。
「ほらぁ」
「いや、社交辞令を自白する訳ねぇだろ」
「犯罪みたいに言うな。ホントにめちゃくちゃ上手だし、めちゃくちゃ可愛いですもんね?」
「圧掛けんな。付け足すな」
「あはっ、とても可愛らしかったですよ」
和泉は言った。
「ほらぁ、可愛いってよ」
「そう言うしかねぇだろ」
この二人は、自分達がお邪魔している立場なのを分かっているのだろうか。
普段の感じを出し過ぎではないだろうか。
「グッズ化したら爆買い必須だって」
「言ってねぇだろ」
「あはっ、スーちゃんが描いたイラストのTシャツ、あったら欲しいなぁ」
「ほらぁ」
「先生、甘やかすなよ」
「あはっ」
参田は微笑む。
「皆さん、仲がいいんですね」
和泉の言葉に釣井と渡仲は、口を揃えて否定する。




