王道
「てかさぁ、昨日、伝家の宝刀、持ってったの?」
釣井はマウントレーニアのストローを出しながら渡仲に訊いた。
「何だよ、伝家の宝刀って」
渡仲はスマホの画面に視線を向けたまま返した。
「あの不朽の名作」
「ああ、あれか。忘れた」
「忘れた? じゃあ何、手品でもやったの?」
「いや、トランプも忘れた」
「あんた、コインマジックも出来んじゃん」
「無一文だから出来ねぇ」
「小銭の一枚も持ってないの?」
「基本、スマホ決済だからな。まぁ、スマホの中も無一文だけど」
「どっちにしろかよ。職員から借りれば良かったじゃん」
釣井は小顔マッサージャーで頬をなぞりながら言った。
「何でマジシャンがお客さんから借金すんだよ」
「いや、あれの事、借金って言わないから。よくあるじゃん、マジシャンがお客さんのコイン使うの」
「いねぇだろ、そんなダセェマジシャン」
渡仲は半笑いで言う。
「いや、いるでしょ。いるよね、先生? お客さんからコイン借りるマジシャン」
「うん、私も見た事あるよ」
「ほらぁ」
「いや、それはあれだろ、手品終わったら、すごかったからどうぞって金だろ」
「いや、お捻りじゃなくてさ、お客さんから借りたコインで手品やって終わったら返すの。よくあるでしょ」
「いねぇよ、そんなマジシャン」
渡仲は吐き捨てながら蓋を開けたコーラをぐびっと傾けた。
「いや、いるし。何で見た事ないのさ。しかも手品やってるあんたが」
「おかしいだろ、マジシャンがお客さんに借金って」
「だから、借金じゃないし、おかしいのあんただし。汰駆郎君も見た事あるよね?」
「ありますよ」と、答える。
「マジかよ、おい。噓だろ。マジシャンがお客さんに借金はないだろ」
渡仲は馬鹿にした様に言う。
「何でそっちが半笑いなのさ。腹立つわ。大体、丸腰で何したのさ。まさか、審査完了して、はい、さよならじゃないよね?」
「そんなあからさまに怪しい事はしねぇよ。子供等に渾名つけたりした」
「あれか」
恒例行事だったらしい。
「そうだ、汰駆郎君、〝KVT〟のホームページ見た?」
「はい?」
「てか、汰駆郎君に〝KVT〟の説明したっけ」
「俺は何も言ってねぇよ」
渡仲はそう言ってコーラを飲む。
「えっ、何の説明もしてないの?」
「してねぇよ」
「ちょっと、汰駆郎君、エチュードだったってこと?」
「まぁな。でも、なかなかの名俳優だったぞ」
「〝名俳優だったぞ〟じゃないわ。説明するでしょ、普通」
そう言った釣井は、操作したスマホの画面を僕に見せた。
〝子供達をボランティアし隊〟という文字が、クレヨンで書かれた様な文字で表示されている。
ホームページらしい。
「アタシ達は施設に行く口実として、〝子供達をボランティアし隊〟っていう団体を名乗ってんの」
「略して〝KVT〟!」
「あんたは黙ってて」
「どっちだよ。説明しろって言ったり黙ってろって言ったり」
渡仲がそう言うと、参田はあはっと笑う。
「検索されても大丈夫なようにホームページ作ったの」
〝わたしたちは、様々な施設へ行き、紙芝居の読み聞かせやお手伝いをする団体です。〟という説明文が淡いピンクの背景に表示されている。
そして、画面のあちこちに奇妙な絵が散りばめられている。
調子の悪いリサ・ラーソンが描いた様なそれ等は、恐らく様々な動物と推測される。
「架空のホームページなのに凝ってるっしょ? 可愛い感じにしたくてさ」
釣井は言った。
これ等を可愛いと思っているのか。
「可愛くねぇし」
僕の思いを代弁するかの様に言い捨てた渡仲に「可愛いし」と、釣井は返す。
「私は好きだよ、スーちゃんの絵。とても味があって」
「ちょっと、〝味がある〟って何さ、先生」
まさかの反応に、「えっ?」と、参田は目を見開く。
「いや、褒め言葉だろ。今、褒められたんだぞ」
「〝味がある〟って、〝好きな人は好き〟的なやつでしょ?」
「いいだろ」
「アタシの絵は王道でしょ。普通に上手いでしょ」
「失礼しました」
参田は微笑えむ。
「一票でも入ったら大したもんだろ、このクオリティーなら」
「万人受けする絵でしょ、どう見ても。あんたが少数派なの」
「図々しっ」
「ね、アタシの絵、上手いよね、汰駆郎君?」
隣からパスが来た。
「上手いし可愛いよね?」
〝上手い〟だけではなく〝可愛い〟までカツアゲするのか。
「え、まぁ」と、言っておく。
「ほらぁ」
「いや、言わせただろ、先輩のパワハラで。明らかに全然思ってない奴の返しだったろ」
「パワハラじゃないし」
釣井が渡仲に返すと、参田はあはっと微笑む。




