渾名
「じゃあ、皆も自己紹介しよっか。誰からやる?」
石神が子供達の顔を往復する様に見ていく。
「じゃあ、ハルキ君、自己紹介出来るかな?」
沈黙が少し続いた後、石神に指名された、彼女の隣に座るボーダー柄の服を着た少年は頷く。
「カシマハルキです」
職員二人が拍手し、子供達がそれに倣う。
「ハルキ君は飛行機が好きなんだよね」
宝井がそう言うと、少年は頷く。
「〝パルッキー〟だな」
「はい?」
またぞろ謎な発言をした渡仲に、二人の職員は訝しげな表情を浮かべる。
「ハルキだから〝パルッキー〟」
もうやめてくれ。
余計な事を言うな。
渾名をつけられた本人を始め、子供達は笑い出した。
「いいね、〝パルッキー〟」
微笑む宝井に石神は同調する。
「じゃあ、セイナちゃん、自己紹介出来るかな」
少年の隣に座る赤いワンピース姿の少女は、宝井に指名されると頷き、か細い声を出した。
恐らく名乗ったのだろうが、殆ど聞き取れなかった。
「はい、マミヤセイナちゃんでーす」
彼女の口元に耳を傾ける宝井は通訳し、拍手した。
「じゃあ、〝マーミヤン〟だな」
渡仲がまた、渾名をつけた。
本人が、ふふっと笑う。
音の響きがほぼ〝バーミヤン〟じゃないか。
「いいね、〝ハナッぺ〟」
職員二人も微笑む。
「じゃあ、ツムギちゃん」
オレンジ色のフリースを着た少女は、「シノダツムギです」と、自己紹介した。
「ツムギちゃんはサンリオが好きなんだよね」
石神の補足に、少女は頷く。
子供達は渡仲に、期待の眼差しを向ける。
「〝ツムツム〟だな」
子供達は笑う。
本人も嬉しそうだ。
「〝ツムツム〟いいね。じゃあ次は、ホノカちゃん、自己紹介出来るかな」
水色のワンピースを着た少女は頷く。
「シバムラホノカです」
「ホノカちゃんはディズニープリンセスが好きなんだもんねぇ」
少女は宝井に頷く。
「〝シバッチョン〟」
渡仲がまた渾名をつけ、笑いが起こった。
「じゃあ次は、タカヒロ君」
隣に座る青いパーカー姿の少年は返事をした。
「カネハラタカヒロです」
渡仲に視線が集まる。
「じゃあ、〝ピロ〟」
子供達と職員二人が怪訝な表情を浮かべる。
「タカヒロの〝ヒロ〟で〝ピロ〟」
何で後半の方を取ったんだ。
何で半濁点をつけたんだ。
また笑いが起こる。
「次は、モモちゃん」
「はい」
花柄の服を着た少女が返事をした。
「シマザキモモカです」
「じゃあ……、〝ピーちゃん〟」
全員が目を丸くする。
「桃は英語で〝ピーチ〟だろ? それに〝ちゃん〟つけて〝ピーちゃん〟」
「なるほど」
「〝ピーチちゃん〟で〝ピーちゃん〟」
職員二人は納得する。
ネタ切れのため、ここに来て名前とは無関係の渾名をつけ始めたかと思いきや、そうではなかったらしい。
「じゃあ、ミサキちゃん」
いちごが描かれた服を着た少女は、「はい」と、か細い声を出す。
「アリカワミサキです」
「〝アーリン〟だな」
渡仲が即座につけたこの渾名も、本人を始め、好評の様だ。
「僕ね、カシダケンイチッ!」
青いチェック柄のシャツを着た少年は自ら元気に自己紹介した。
「じゃあお前は、〝カシポン〟」
「〝カシポン〟いいね」
また、笑いが起こる。
〝ケン〟とつく名前はそれを生かした渾名がつくイメージだが、苗字から取ったらしい。
音の響きがほぼ〝菓子パン〟じゃないか。
「よし、これで全員か」
渡仲は達成感に満ちた表情で呟く。
その使命感は一体何なんだ。




