簡素
「んー、じゃあ今日は初めて逢ったっちゅう事で、とりあえずお喋りでもしますか。親睦会的なノリで」
「シンボクカイてなぁに?」
青いパーカー姿の少年が質問すると、宝井が説明する。
それから、全員で食堂へ行く事になった。
職員二人が椅子で円を作り、子供達はそれに座る。
「子供って、これで全員っすか」
「あっ、はい。そうです」
「ここは小さい施設ですから」
宝井が付け加える。
「全員オッケーっと」
渡仲はサングラスを外し、Tシャツの胸元に掛ける。
全員オッケーとか言うなよ。
「はい?」
石神が目を見開く。
やはり引っ掛かってしまったか。
「あっ、全員と喋れて良かったって事っすよ」
事態に気付いた渡仲は自らフォローした。
「ねぇねぇ! 紙芝居はあるの?」
犬のイラストがデザインされたトレーナー姿の少年は言った。
「あっ、忘れてたっ!」
そう返した渡仲は、子供達から大ブーイングを喰らった。
いつも釣井が紙芝居を披露していたらしい。
「じゃあさ、皆、自己紹介してみよっか」
宝井が仕切る。
「誰からいこうか」
石神の言葉に子供達の反応はない。
「じゃあ、私から自己紹介しようかな」
宝井が手を挙げる。
「施設長の宝井でーす。コーヒーが大好きなハタチでーす」
子供達は大笑いする。
「はーい、石神でーす。好きな食べ物は、全部でーす」
再び笑いが起こる。
「じゃあ、自己紹介してくれる人ー!」
宝井が改めて言うが、子供達はやはりだんまりだ。
「じゃあ、俺やろっか」
渡仲はジャケットの襟を正す。
「渡仲どえーす。飼ってるペットは、ユニコーンと、マーライオンと、ドラゴン、どえーす」
笑いが起こる。
「ユニコーンの名前は、ゲンゴロウ」
和風過ぎる。
「マーライオンの名前は、マー子」
何でメスなんだよ。
「で、ドラゴンの名前は、ポチ」
犬かよ。
「ゲンゴロウの特技は、預金」
まだ続くのか。
「マー子の特技は、ムーンウォーク」
下半身、魚じゃねぇか。
「で、ポチの特技は、フラッシュ暗算」
さっきから職員しか笑っていない。
この二人にターゲットを絞り過ぎだ。
「あと、メスのタランチュラとネズミも飼ってます」
架空の生物を散々言った後にタランチュラとネズミは弱いだろ。
本当かどうか分からないじゃないか。
「タランチュラの名前は、タランチュラの〝タラ〟に子供の〝子〟で、〝タラ子〟。ネズミの名前は、ネズミの〝ネズ〟に〝美しい〟で、〝ネズ美〟」
それが言いたかったのか。
「以上でーす」
殆どペット紹介じゃねぇか。
拍手と笑いが起きる。
職員二人と子供達が、「次はお前だ」と言わんばかりに視線を送ってきた。
この後、自己紹介をしなくてはならないのか。
先陣を切れば良かった。
「来間と申します。よろしくお願いします」
僕は名乗った。
「はーい、お二人共、よろしくお願いしまーす」
宝井は一瞬の間を置いてからそう言って拍手し、石神が「よろしくお願いしまーす」と、それに倣った。
三人が自己紹介で子供達から笑いを取ったため、僕のフザケ待ちだったらしい。
暗い奴と思われてしまっただろうか。




