訪問
渡仲が押したインターホンから、「はい」と、女の声が聞こえた。
「お邪魔しまーすっ!」
語尾を伸ばすな。
「あの、どちら様で?」
そうなるに決まってるだろ。
まず、どちら様かを言えよ。
「〝子供達をボランティアし隊〟の者でーす」
ダサッ。何だ、その名前は。
衝撃的なダサさだ。〝したい〟と〝隊〟を掛けるのはもう、やり尽くされているだろ。
「あっ、はいはーい」
インターホンから返事が聞こえた。
一体何なんだ、〝子供達をボランティアし隊〟って。
渡仲に訊こうとした時、ドアから小太りの女が現れた。
「いつもお世話になっております」
女は軽く一礼すると木製の門扉を開けた。
施設を偵察する際は〝子供達をボランティアし隊〟という組織を名乗っているのか。
それならここに来る前にその設定を僕に伝えるべきじゃないか。
お陰で僕だけエチュードじゃないか。
「私、ここの施設長をやっている、タカライと申します」
女は再び一礼する。
「珍しい苗字っスね」
渡仲の言葉に耳を疑った。
初対面の相手が名乗った後の第一声にそのテンションはやめろ。
あと、いい年して〝っスね〟はやめろ。
「どうやって書くんスか?」
ホームページをリサーチしていないらしい。
「宝物の〝宝〟に、井戸の〝井〟です」
「へぇー、金持ちそうな苗字っスね」
頼むから、不要な発言はやめてくれ。
「あはっ、よく言われるんです。でも、全然金持ちじゃないんですよ」
「でも、まぁ、似合ってますよ」
渡仲が謎のフォローをする。
「今日は、いつも来てくださっている女性の方じゃないんですね」
「野郎二人ですいません」
渡仲は返す。
「いえいえ、そんな。イケメン二人が来て子供達も喜ぶと思いますよ」
「ありがとうございます」
受け止めるな。
「お名前、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「〝子供達をボランティアし隊〟隊長の、渡仲です」
何でお前が隊長なんだよ。
「隊長さんだったんですねぇ」
「はいっ!」
〝はいっ!〟じゃねぇよ。
それから、僕も名乗る。
「渡仲さんと来間さんですね。どうぞ」
門扉の向こうへ通された。
「〝ピースマイリース〟っていう名前はですね、〝平和〟って意味の〝ピース〟と、〝笑顔〟って意味の〝スマイリー〟、それから、〝花輪〟という意味の〝リース〟を合わせたんです。〝子供達に平和が訪れる様に〟とか、〝平和な場所である様に〟という思いと、〝子供達が笑顔でいられる様に〟、そして、〝子供達が花の様に綺麗な心を持つ様に〟という思いと〝子供達が輪になる様に〟という思いを込めました」
宝井は、芝生が挟む曲がりくねった煉瓦道を歩きながら、ホームページの文言と同様の説明をした。
余程、気に入った名前らしい。




